9月
私の平日は仕事で大体がなくなる。休日の土曜日と日曜日、祝日の敬老の日や体育の日などは休みで、買い物したり好きな事をして過ごしている。
朝は8時半に出勤、お昼休みは12時からの1時間。定時の17時には帰れるが、時々残業があったりする。その時のお金も貰えるから、今の仕事は好きだ。
黄道12宮が毎日来るようになってからは、無駄な寄り道をしなくなり、終わってからの直帰が増えた。
「ただいま~」
「お帰り!琴羽!」
理由は簡単。黄道12宮の女性陣が迎えてくれるから。 山羊座のリコルさん、乙女座のバルゴさん、魚座のピスキスさん、蠍座のスコルさん、蟹座のカンケルさん、牡牛座のウルさん。
初見、蠍座のスコルさんは、私の事が嫌いなのかと思ったけど、全然そんなんじゃなかった。話してみると、優しくて話が尽きることなく楽しく話せた。
12宮の女性陣は皆でゲームをしていた。一昨日、大体の準備の仕方を教えておいた。やりたい時にやれるように教えたら、ここ数日毎日のようにやっているらしい。
ベットや床に座りながら皆でやっていたゲームは、私が帰ってきてもまだやろうとしている。テレビ画面を見てみると、日曜日に皆でやったゲームだった。
「あ、皆さん、夕御飯は食べますか?」
「大丈夫よ、もう食べたの」
「そうなんですね」
笑顔でやり取りを終えたが、出来れば作りたかったと悔やむ。こんなに美味しいものがあるんだよって教えたくても、料理をするようになってまど短い私には、それを教える術がない。もっと早く料理してれば良かった、と後悔。
食べ始めてすぐに、リコルさんとバルゴさんのゲーム対決が終わった。
「あー!負けた~!」
「やったぁ!今度の当番変わってね!」
「は~い」
黄道12宮の皆さんは料理をする人や掃除をする人が当番制らしい。勝ったバルゴさんはベットに座って足を組みながらご機嫌に鼻歌を歌っている。負けたリコルさんは床に正座しながら項垂れている。
「んふふ、そろそろ帰りましょ、琴羽も帰って来た事だし、ね?」
「ヤダ!帰らない!」
激しく拒否したのはカンケルさんだった。コントローラーを握りしめて主張している。
「か、カンケル、琴羽帰ってくるまでって約束した筈よ。帰りましょ、ね?」
「もっと遊ぶの!」
「カンケル!!」
ピスキスさんの大きな声に、カンケルさんと同じく驚く。いつも穏やかに接してくれるピスキスさんが怒って、あんなに大きな声が出るなんて。
「カンケル、約束したでしょ?琴羽が帰ってくるまでの間だけ遊ぼうって。琴羽は仕事で疲れてるんだから、これ以上は迷惑になっちゃうわ」
「ピスキスさん、私大丈夫ですよ。今日はそこまで疲れてないですし、私も遊びたいので」
怒られて泣きそうになってるカンケルさんが可哀想で、つい食べてる途中でも会話に入ってしまう。
「カンケルさんがもっと遊びたくなるの分かりますし、きっと他の皆さんもホントはもっと遊びたいですよね?」
昔は私も、友達の家で遊んで帰る時は駄々をこねたな、と思い出す。
皆の顔を見ながら言うと、リコルさんやバルゴさんが伏し目がちに小さく頷く。安心してピスキスさんに目線を戻す。
「大丈夫です、ご飯食べながら私も楽しみますから!」
「…ありがとうね、琴羽」
不安そうな顔をするピスキスさんに向かって笑顔で言うと、ピスキスさんは笑顔になった。
晩御飯を食べ終えた後も皆でゲームをやっていると、レオさんとタリウスさんが来た。
「おいピスキス、何時だと思っている!こんな遅くまで、迷惑だろう!」
突然来た2人に、ゲームで盛り上がっていた皆してポカンとしてる。私自身もコントローラーを手にして、目線はレオさんの怒った顔だった。
「レオ!ビックリしたぁ。大丈夫よ、琴羽にちゃんと許可してもらったの」
「あ、レオさんとタリウスさんもどうですか?一昨日やったのとはまた違うやつですよ」
タリウスさんは少し考えてから「やる」と言った。レオさんは、タリウスさんの後に続いて同じように答えた。
人数が増えたため、ゲームの待ち時間があった。まさかその時間にカンケルさんが寝てしまうとは思わなかった。 カンケルさんを抱き抱えたピスキスさん。
「カンケルが寝ちゃったし、今日はもう帰りましょう」
そんなピスキスさんのひとことで、今日のゲームを終える事となった。
「やはり面白いな、人間のやるゲームは」
片付けを始めてすぐにタリウスさんが言った。
「琴羽、他にどんなのがあるんだ?」
「結構ありますよ、これとか、これは結構難しいですけど、大体楽しいです」
ゲームカセットが沢山入っている容器を引っ張り出して、パッケージを見せながら説明する。すると、タリウスさんは分厚いノートを出して何かメモを書いている。
そのノートはここへ初めて来た時からいつも所持しているもの。ずっと疑問に思っていた事を聴くチャンスだった。
「タリウスさん、ずっと気になってたんですけど、そのノートは何ですか?」
「これは、人間のやることや、使うものを記憶しておく為のノートだ。こうやって書いておくと、忘れてもすぐに見て思い出せるだろう?」
手を動かしながらも、タリウスさんの微笑は穏やか。皆さんの事を思って、皆さんのためにやっているのだと知った。
「おいタリウス、帰るぞ」
ピスキスさん達と後片付けをしてたレオさんがタリウスさんに声をかける。どうやらあっという間に片付けが終わったようだ。
「あぁ、先に帰っていてくれ。もう少し琴羽と話をしてから私も帰る」
「分かった、ピスキス帰るぞ」
そういうと帰っていったレオさん達。タリウスさんと2人きりになるのは始めてだ。
引っ張り出しゲームカセットを仕舞って、タリウスさんに向き直る。
「タリウスさん?何か悩みがあるんですか?」
「あぁ、実は皆に人間の風習を、教えてやりたいんだが、いいだろうか? 俺自身もあまり人間がどんなことやっているのか分からないのだが、皆もそうなんだ。そこで出来れば皆に教えてやりたいのだが……」
タリウスさんは少し恥ずかしながらも聞いてきた。今まで頼める人が居なかったのだろう。
タリウスさんの提案に率直に楽しそうだと思った。
「いいと思いますよ?」
「本当か!」
「はい!皆さんが知りたいって思うのなら、私もその手助けをしたいです」
「琴羽ありがとう」
タリウスさんは分厚いノートを大事そうに抱えながら笑顔を見せてくれた。
「早速なのだが、近々なにかないだろうか」
「う~ん、近々あるのは……ん~、お月見!」
タリウスさんからの質問に瞬時に思いつかなったが、なんとか思いついたのがお月見。ベランダの冊子を開けて、暗闇の空を指差す。
「お月見、聞いたことがある。確か、満月の夜に月を見ながら団子を食べる行事、だったか?なぜ月を見ながらたべるのだろう?」
「大体あってます。実は私もあまり知らなくて。今度実家に電話して詳しく聞いときますね」
約22年生きてきて詳しくないのがちょっぴり恥ずかしい。笑って誤魔化すとタリウスさんも笑ってくれた。
「レオさん達が待ってるだろうし、今日はもう帰った方が良いと思います」
「あぁ、ありがとう琴羽。また明日な、おやすみ」
「はい、おやすみなさい!」
最後に笑ったタリウスさんは、少し安堵の表情だった。実家に電話するのはいつぶりだろうかとカレンダーを見ると、ひと月の予定としてお月見の日程が記されていた。一瞬動きが止まったが、思わず笑ってしまった。
黄道12宮の皆さんに会ってから、なんてことない日でも驚くことが沢山ある。これから1年間の毎日が楽しみで仕方なかった。