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覚めない興奮




 1月下旬、私はテレビに食いついていた。

「琴羽ー、カンケルゲームやりたーい」

「ごっごめんねっ、もうちょっとまってね」

「琴羽?夕飯作らなくて良いの?」

「これっ、終わったら作るよ」

 部屋にいるのは私とカンケルとバルゴとスコルさん。私が帰って来たと同時にやってきた3人はゲームをしようとしていたらしい。ゲームを始めるより先に私がテレビを陣とってしまった為に、若干不貞腐れている。


「いっ今からねっ、私の出身県のお相撲さんが戦うの!」

「へー、琴羽が応援してるのはどっちなの?」

「こっち!勢木の里って言うんだよ!」

 テレビ画面ごしに勢木の里を指差しながら応援を送る。

「勢木の里ーっ頑張れーっ」

「ふふっ、画面ごしに応援しても届かないわよ?」


 行司が開始の合図を取る。瞬間、勢木の里と槌乃城が体同士をぶつける。テレビ画面ごしでもその音が分かる。観客もワァワァと叫びを上げるが、何を言っているのか分からない。

 勢木の里も槌乃城もまわしを掴んだままその場に止まる。観客の声は絶えない。動いたかと思うと、槌乃城が右腕を動かす。反射的に勢木の里が体を引っ込めるが、左腕はまわしに伸ばしたまま。そのまま少し動きが止まる。

 勢木の里が動いたと思ったら、槌乃城は土俵から出ていた。


「勢木の里ーっ、おめでとーっ!」

「勝ったの?」

「勝ったよ!これで勢木の里が優勝!私の出身県から横綱が出るなんて!」

 夢みたい!と言う私にカンケルとバルゴとスコルさんが拍手を送る。

「…拍手送る相手は私じゃないよ」



 6時に夕飯の準備な取り掛かると、部屋からゲームを楽しむ3人に笑い声が聞こえてきた。


「相撲って言うのね、さっき琴羽が見てたのは」

 作った夕飯を部屋に運び入れると、待っていたかのようにバルゴが心を弾ませながら問いかけてきた。

「え、うんそうだよ」

「さっきね、琴羽が作っている間に戻ってタリウスに聞いてみたの!太った男の人が2人で体をぶつかりあうのは何なの?って。そしたらタリウスが、それは相撲という日本で有名なスポーツの1つだろうって教えてくれたの!私テレビで相撲を見れるなんて思ってもみなかったからびっくりした!今度ルール教えて?」

 いつものバルゴは私に話をする間を与えてくれるのに、今回はそれがなかった。それほど驚いたのか、興奮しているのか。

「じゃあ今度皆でやってみる?」

「いいの?!」

 バルゴの迫力に、提案した私自身が引いてしまった。






 相撲の話があってから1週間。勢木の里の横綱昇格が決まって嬉しいこの頃。

 神様が微笑んでいるかのように晴れている今日は、午後から予定していた黄道12宮相撲大会がいよいよ始まる。

 1週間前の興奮したバルゴに引いてしまった次の日、休みだった私が8時に目が覚めるといつもの本を持ったタリウスさんがベッドの前に佇んでいた。びっくりして毛布を退かしながらタリウスさんに訪ねると、相撲のルールを教えて欲しいと切実にお願いをされた。


「ルールは皆さん分かってますね?」

「分かってるよー!」

「タリウスに教えてもらったわ」

 皆やる気のようだ。カンケルはピスキスさんの四股を見よう見まねでやっている。2人して笑いあいながらやっているのを見て私もニヤけてしまう。


「じゃあ始めますよー?」

 今回は体格の関係上、2つの組に分かれる。大人体型組と子供体型組。

「まずは子供体型組からゲミニとアクア!両者前へ!」

 それっぽくやってみる私に皆もノってくれて、ゲミニとアクアが作りたての土俵に上がる。

 強い風が吹く中、塩を投げるフリや軽く四股を踏んだりしている。土俵の外からの応援に応えながら低姿勢で拳を地面に置く。

「準備はいいね?はっけよーいっ、のこった!!」

 ゲミニもアクアも相手の服を掴む。お互いが足で踏ん張っていて、力の限り押し合っている。

「どっちも頑張れーっ」

 カンケルの応援にゲミニが大きく動いた。土俵ギリギリまでアクアを押し寄せる。何とか足を踏ん張っているアクアだが、ゲミニは力を緩めない。押し返そうとするアクアだが、ゲミニの力に負けてアクアの足が土俵の外に出る。

「勝負あり!」

 私の言葉にゲミニは喜び、アクアは落胆する。落胆してため息を吐いたアクアだったが、すぐに笑顔でゲミニを称賛する。

「でもスゲーな!!いつの間にそんな力付いたの?ビックリ!」

「ううん!アクアも凄いよ!最初全然動かなかったもん!!」

 そんな事ねーよ!と恥ずかしそうに笑うアクアはゲミニに握手を求めた。アクアの手にゲミニも手を重ねる。

「次が誰になるか分かんないけど、全力で頑張れよ!」

「うん!!」



 第2試合――カンケル対リコル。

「はっけよーいっのこった!」

 私の合図で2人の体がぶつかり合う。服を掴むリコルに対して、まだ服を掴めてないカンケル。押しで勝負するのか、リコルの体を土俵ギリギリまで押し寄せる。カンケルの勝利で終わると思ったがリコルも押し負けない。体勢を整えたリコルが服を掴む手に力を込めた瞬間、カンケルの体が地面に倒れた。

「勝負あり!」

「…いだいぃぃ!!あぁぁぁぁ!!」

 強く打ち付けたのか、カンケルが泣き出した。勝負したリコルも周りの私達も驚いて駆け寄った。


「かっ、カンケル?!だっ、大丈夫大丈夫!痛くない痛くないっ!ねっ!痛くないわよ~っ!」

「ごっ、ごめんねっ!強くやったつもりはなかったんだけどっ、痛かったっ?ごめんねっ!」

「大丈夫かっ?頭を打ったのかっ?たんこぶが出来たら大変だっ!」

 最初に声を掛けたのはピスキスさん。泣いているカンケルの頭を撫でて宥める。

 次に声を掛けたのが一番近くにいたリコル。泣いているカンケルの周りをあたふたしながら謝っている。

 次に声を掛けたのがタリウスさんだった。ピスキスさんが頭を撫でている傍ら、たんこぶがないか十分見ている。


「絆創膏持ってるよ!擦り傷ない?!」

 ポケットに絆創膏を入れておいた事を思い出した私はカンケルの元に駆け寄る。周りの皆も心配で付いてきた。

「カンケル、立てる?」

 ピスキスさんの問いに首を縦に振ったカンケルは目を擦りながら立ち上がる。見る限りでは砂が付いていて汚れている。怪我は無さそうだ。

「カンケルは私が見とくわ、次やりましょ?」



 第3試合――スコルさん対アリエス。

「はっけよーいっのこった!」

 今回の2人は、私の合図に対して控えめに押し合いを始めた。男であるアリエスが有利に見えたが、スコルさんも力の限り押していて負けてない。少しずつスコルさんが土俵ギリギリまで迫られている。歯を食い縛っているスコルさんは目を瞑って勢い良く腕を伸ばす。勢い任せに押したスコルさんの体はうつ伏せに倒れる。アリエスが身を引いた事によってスコルさんは前のめりに倒れたのだろう。

「勝負あり!」

 私の言葉にアリエスは跳び跳ねて喜ぶ。一方で負けてしまったスコルさんは地面に座り込んでいた。

「スコル!力付けたね!ビックリしちゃった!」

 アリエスは座り込んでいるスコルさんに手を差し出して感嘆の声を上げる。スコルさんは顔を上げて手を掴むと目の涙を拭う。


「確かにさっきのスコルの力は驚嘆に値する」

「レオさん、確かにそうですね、近くで見ていた私もビックリしました」

 レオさんのスコルさんとアリエスを見る目は穏やかだった。


「おーおー、楽しそうな事してるねぇ」

「あっ、花形のおじいちゃん!こんにちは」

 黄道12宮の皆に挨拶するように促した私は、さっきまでやっていた経緯を話す。


「おー、それは面白そうだなぁ。なんだ、俺もやろうかなー」

「あっ、じゃあこの後優勝した人とやります?」

「おぉ!いいなぁ!やるか!俺他にも人連れてくっから!」

「ありがとうございますっ!」


 子供体型組、2回戦――ゲミニ対リコル。

「リコル!頑張って!」

「カンケル!大丈夫?ごめんね!頑張る!!」

 カンケルの体には1つも傷がなかったようだ。目は腫れているが、カンケル自身はキラキラして見えた。

「準備いいね?はっけよーいっのこった!」

 私の合図に手を組む2人。今回は身長差があり、リコルが有利かもしれない。リコルが身を引くとバランスを崩すゲミニ。倒れるかと思ったが、リコルの服を咄嗟に掴んでバランスを整える。ゲミニの行動に動揺したリコルは引き離そうとゲミニの腕を掴む。しかしその行動は遅く、ゲミニの腕はもう腰に回っていた。ゲミニはそのまま勢い任せに前のめりに倒れ込む。

「勝負あり!」

 砂埃が舞う中、ゲミニが跳び跳ねているのが見えた。

「ヤッター!!勝ったーっ!!」

「ごめんね!カンケル!負けちゃったっ」

 リコルは立ち上がってすぐにカンケルに笑顔を向けた。向けられたカンケルは笑顔のまま親指を立てた手をリコルに伸ばす。


「ゲミニ!次僕とだよ!」

「うん!負けないよっ?」

「僕だって負けないよっ!」

 2人は密かに笑いあった。


「あのー!相撲やってるって聞いて来たんですけどー」

 私の後ろに立っていたのは黒いランドセルを背負った男の子。多分学校帰りに私達の事を聞いてそのままいてもたっても入られず来てしまったのだろう。

「じゃあこの後決勝戦やるから勝った子とやろうね」

 私の言葉に男の子はパァと顔を輝かせて大きく頷いた。


 子供体型組、決勝戦――ゲミニ対アリエス。

「これで勝った方が優勝だよ?はっけよーいっのこった!!」

 バシンという音と共に組み合う2人。どちらも歯を食い縛っている。体格的に有利なのはアリエスだが、力が強いのはゲミニだろう。近くで見ている私もどちらが勝つか分からない。

 お互いがお互いの服を握っている。その手には力を込めているように見える。体全体で懸命に押しているゲミニだが、アリエスには少し余裕を感じられた。ゲミニの腕を払ったアリエスは体勢を整えて、そのまま体を押し進める。土俵ギリギリで足を踏ん張るゲミニだったが、2回取り組んだ事で体力が落ち、足を滑らせて前のめりに倒れた。

「勝負あり!」

 私の声に倒れたゲミニが膝を付く。汗を拭うアリエスがゲミニに手を差し出す。

「…優勝おめでとう!アリエス!」

 ゲミニはアリエスの手を握って立ち上がると、そのまま強い握手をする。


「優勝おめでとう!アリエス!ここでアリエスに挑戦者だよ!」

 きょとんとするアリエスに私は先程の男の子を引っ張って土俵に上がらせる。

「近所の子だよ!名前は、えっと…」

「水上隆です!えっと、よろしくっ!」

「…よろしくっ!」

 きょとんとしていたアリエスだったが、水上君の言葉を復唱する。



 エキシビジョンマッチ――アリエス対水上隆君。

「はっけよーいっのこった!」

 服を掴もうとするアリエスに対して水上君は張り手でアリエスを土俵ギリギリに押し寄せる。土俵ギリギリでなんとか服を掴む事が出来たアリエスだったが、最後は押し出される形で土俵を出た。

「勝負あり!」

 負けたアリエスだったが、水上君の戦法に感心したように凄いを連呼している。アリエスに称賛されている水上君は顔を赤らめて首を横に振っている。恥ずかしがる姿が可愛くついついニヤけてしまった。


「今度もう一回やろうよ!」

「え、でも」

「駄目?」

 アリエスは上目遣いを覚えた。

 恥ずかしそうにいいよと言った水上君に喜ぶアリエス。友達になれたかな。


 笑顔で喋り会う子供体型組に対して、大人体型組は準備運動を始めていた。





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