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譲る大切さ




 1月中旬、寒い日が続く中、私の家では白熱をしていた。


「あ、そこゾンビ」

「キャッ」

「うわぁああ!」

「やられる前にやれ、だ」

「あまり出過ぎない方がいいな、これはっ」

 私達が今やっているのはあるテレビゲーム。出てくるゾンビを倒しながら、謎を解くミステリーゲームだそうだ。

 つい先日、ホラー好きの友達から無理矢理渡されたゲームなのだが、私はホラーが苦手だ。1人でやるより皆でやった方がまだ楽しめるだろうと皆を誘ったのだ。



「これ、アイテムを合体出来るらしいわよ?」

「どれとどれだ?」

「んー」

「これと、これとかじゃない?」

「んー?わぁ、凄い!これで武器増えたわね!」

 タリウスさんとピスキスさんとリブラさんの3人で思案すると、ゾンビと戦う武器が増えた。ゾンビと敵対した時に武器がないのは困るから有難い。


「まって、そこいる!」

「うらぁあ!」

「球数無駄にしないで!」

「もーっ、なんでゾンビ2体しかいないのに球数一気になくなるの!」

「ごめーん!」

 リコルとアクアとアリエスの3人で出てくるゾンビを倒していく。倒すのはいいが、アクアに任せると武器が少なくなるのは何でだろう。


「きたっ!」

「いぃやぁあ!」

「ひっ」

「ぅぅぅぅ」

「ぎゃぁあ!」

 順にスコルさん、バルゴ、私、カンケル、ゲミニで悲鳴を上げる。ベッドの毛布に包まりながら5人で固まっている。私達が悲鳴を上げていても淡々とゾンビを倒していくアクア達は凄いと思う。


「アクア、球数が減りすぎだ。やはりアリエスがいいな」

「大丈夫だよカンケル!アリエス達がゾンビ倒すからね!安心して!」

 レオさんとウルさんの2人は指示を出す係のようだ。的確に指示するレオさんと、私情を入れながら指示しているウルさん。レオさんの指示は勿論、私情の入ったウルさんの指示も結果的には良い効果をもたらしている。


「あっああっそこぉ!ゾンビぃぃ!」

「え?」

「アクア!右端!」

「うおぉっ!」

 アクアもアリエスもリコルも気付かなかった所にゾンビを発見した私は、怖がりながらも指差しで伝える。リコルの的確な指示で、近くにいたアクアも少し怖がりながら倒してくれた。

「あっぶねぇ」

「良く見つけたね、琴羽」

 感嘆の声を私に掛けてくるリコルに怖がりながらも説明する。

「窓からの光があったのに、黒い影が見えたからっ」

「怖い癖になっ、ハッ」

 私を見て笑ってくるレオさんにムカついた。



「ねっ、ねぇ皆っ、きゅうけーしよう?」

 涙目のカンケルさんが皆に訴えた。私の服を握りながら私にも訴えてくるカンケルさん。抱きたくなる衝動を抑えて頭を優しく撫でる。

「そうだね、少し休憩しましょうか」

 包まっていた毛布を取った私はそのまま台所に行って皆の分の飲み物を準備する。

「琴羽、私も手伝うわ」

 私の後を着いてきたのはピスキスさんだった。感謝を良いながら、皆のカップを取り出す。

「どの紅茶にするの?」

「ピスキスさんの好きなので良いですよ」

 水の入ったやかんをコンロに置いた横で、ピスキスさんの「これにしよっ」の声と共に紅茶の葉がパラパラと落ちる音が微かに聞こえる。



「お待たせしましたー」

 紅茶、ジュース、お菓子をお盆に乗せて部屋に戻る。

「あっ、琴羽!ピスキス!おそーい、喉乾いたー」

「はいはい、カンケル静かにね」

 ピスキスさんの持っているお盆にはジュースとお菓子が乗っている。ピスキスさんがテーブルに置くより前に、カンケルがお盆からジュースとお菓子を取る。

「コーラっ!カンケルー?行儀悪いわよー?」

 カンケルを叱るピスキスさんだが、怒ってる訳ではないみたいだ。

「ごめんなさーい」

 カンケルもいつもより軽く謝罪の言葉を言う。2人共笑顔だ。


「ふぁああ」

「大きな欠伸ー」

 ふと出た大きな欠伸を皆に笑われた。

「あはは、昨日少しだけ夜更かししたからかな?」

「夜更かしは美容に悪いぞ」

 レオさんから言われた言葉にムカついた。

「分かってますよっ」


「さーってと!続きやろー!」

 ジュースを飲み終えたアクアが1人で先にゲームを再開する。

「球数ちゃんと確認してよねー?」

「分かってるよーっ」

 楽しそうにゲーム画面を見るアクアに、私の隣に座っているゲミニが顔を伏せるのが分かった。

「どうしたの?ゲミニ」

「僕、違うゲームやりたい…」

 涙目で私に訴え掛けてくるゲミニ。何とか理性を保ってゲミニの頭を撫でながら考える。


「ねぇ、今日はこの辺にして別のゲームしない?」

 私の提案に賛成の人もいれば反対の人もいる。

「えーっ!」

「やっと今謎が1つ解けたのにーっ」

「もう少しやろうよ」

 反対を主張するのはアクア、リコル、リブラさんと同意して頷いているアリエスの4人。

「うっ、うん!私も別のゲームやりたい!」

「カンケルも…」

「別のゲームやりたい!」

「マルオカート、やりたい…」

 賛成を主張するのはバルゴ、カンケル、ゲミニ、スコルさんの4人。

「俺は別にどちらでもいいのだが…」

「カンケルが別のやりたいってなら私はそれでも良いけど…」

「えぇ、私もどちらでもかまわないわ」

「だが…」

 どちらでもいいと言っているのは、レオさん、ウルさん、ピスキスさん、タリウスさん。最後に困ったように言ったタリウスさんは反対派の4人をチラリと見る。



「ごめんねアクア、でもこのゲーム今日しか出来ない訳ではないよ。明日も出来るし、明後日も出来る」

「だったら今だってっ!」

「ごめんね、今日はもう終わりにしよっか」

 顔を歪ませて目に涙を溜めるゲミニ。お詫びに頭を優しく撫でる私は、コントローラーに目を向ける。

「でもそしたら、今解けた謎忘れちゃうよ!」

 コントローラーを手にした私に今度はリコルが抗議してきた。

「そっか、でもこれ途中セーブ出来るんだよ。セーブした所までは記憶されるの。解けた謎が忘れちゃうなら紙に書いておこうか」

 リコルに紙とペンを渡すと何も言わずに眉を下げる。泣きそうではないが悔しそうだ。リコルは紙とペンを手にして手を動かす。


「琴羽、僕もう少しやりたい」

 良かったと思ったら、今度はリブラさんだった。あまり自分の主張をしないリブラさんがしてくるのは意外だ。それほどやりたいのか。

「リブラさん、明日やりましょう。それにカンケルとゲミニが泣いてます。リブラさんは大人なのにカンケルやゲミニより優先するんですか?」

 大人組だからか、リブラさんには少しキツく言ってしまった。それでも泣かないリブラさんは大人だ。カンケルやゲミニより大人なんだ。

「ね、明日私待ってますから、明日は最後までやりましょう」

「…うん、ごめん」

 リブラさんに笑顔を向けた後でゲームを終わらせる。カセットを入れ替えて、電源を入れる。

 反対派だったアクアとリコルとアリエスとリブラさんの顔は涙目ではあったが、確かに笑いあっていた。



「あっ」

「アハハッ、落ちちゃった!!」

「このままだとレオ最下位だよ?」

「レオはあまりゲームをやらないからな」

「そういうタリウスもさっき落ちたわよね?」

「うっ…」

「1番最後程熱くなるだろう、今から1位になってやる」

「ムリじゃない?」

「ムリだろうな」

「ムリだと思う」

「んふふ、ムリじゃないかしら」

 レオさんとタリウスさんはゲームが苦手、っとメモっとく。

 レオさんのカートが落ちた事を笑ったバルゴと、タリウスさんのカートが落ちた事を指摘したピスキスさんは、僅差で1位と2位になった。後は最下位争いだけだが。

「タリウスっ!イカスミやめろ!」

「最下位はレオで決定だな」

「そうはさせないっ」

「あっ」

「よっし、あっ」

 最終周手前でタリウスさんのカートもレオさんのカートも同じ所で落ちた。



 第1レースと第2レースと第3レースの結果、上位2名が最終レースに出ることが出来る。

 第1レースからはゲミニとアクア、第2レースからはウルさんとリブラさん、第3レースからはバルゴとピスキスさん。その中の1位は私への挑戦権を手にする事が出来る。



 挑戦権を手にしたのはバルゴだった。

「頑張れーバルゴー!」

「琴羽のこと負かしちゃえー!」

「バルゴッ!頑張れっ!」

 私への応援がないのはいつものこと。もう慣れた。

「フッフッフッ、バルゴが私に勝てるかな?」

「負けないわっ!」


 

「まだまだだねっ」

 某王子様を思い出させるセリフを言った私は優越感に浸る。

「くぅ~!悔しいっ!」

 最終的な勝負は私が勝ったが、誰1人として泣きそうな人はいなく全員が笑顔だった。





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