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可愛い寝顔



 帰省から1週間後の今日。今日から仕事初めの為、いつもの時間に起きていつものように支度する私。

 テレビ見ながら朝ご飯食べて、少し慌ただしく仕事場へ向かう。


 軽作業が主な仕事の私は決まった時間に出勤して、決まった時間にお昼を食べる。ちょっと遅くなる時もあるが、大体は5時30分に退勤する。


 仕事場である所の横に、女子更衣室がある。そこに出勤して、今日の自分の仕事内容を確認する。いつもは確認した後に、女子更衣室に戻るのだが、今日は違った。

「おはよーございます!」

「あ、おはよう」

 私の元に駆け寄って挨拶してきた飯村さんに挨拶を返す。そのまま一緒に仕事内容を確認する。

「今日ってあれなんだね?成人式」

「そーですよ!忘れてたんですか?」

 今日は成人の日だったようで、社内だけの成人式を執り行う予定だった。

「弁当作ってきちゃった」

 頷いて言った私に、忘れないで下さいよー!と不満の声を上げる飯村さん。飯村さんも最近二十歳(はたち)になったらしく、今日の成人式で目標を言う予定だったみたいだ。

「ごめんねー」

 その場凌ぎの言葉を言って、先に仕事場に向かう。



「今日って成人式なのよね、私忘れてお弁当作ってきちゃった」

 同じ仕事場で同じ作業をしていた新井さんが思い出したように私に話してくる。

「あ、私もです」

「あ、浦口さんも?」

 同意すると、新井さんは苦笑しながら首を傾げる。返事として私も苦笑しながら頷く。

「何よ、新井さんも琴羽ちゃんも成人式忘れてたの~?新成人可哀想~」

 横で別の作業をしていた岡野さんが私達に冷やかしのように話し掛けてくる。

「だぁってぇ、私にとってはずっと昔だもの~」

 手元では作業を続ける新井さんは御歳46歳。確かにずっと昔だ。



「新井さん、作ってきちゃった弁当どうすんの?」

「帰ったらお昼ご飯として食べるわよ~」

「え、でも成人式で簡単な弁当渡されるじゃん、食えんの~?」

「こう見えても昔は食い意地張ってたのよ~、食べれる!」

 岡野さんと新井さんが喋る中、私は手元の作業に集中する。

「えー?新井さんがー?見た目細いのにー?」

「見た目で判断する男は嫌われるよー」

「俺、恋愛に対しては中身重視なんでー」

「じゃあ私と付き合ってみるかい?」

「あ、それはいいでーす」

「何でだい」

「ここに若い()いるんで~」

 手元の作業に集中していると、突然岡野さんに肩を引き寄せられた。

「結局見た目じゃないか!」

 新井さんが少し興奮したように岡野さんに反撃する。


「岡野さん、残念です」

 私の言葉に岡野さんと新井さんの声が重なる。

「歳の差オーバーですね」

「え、えー!」

「私は22歳、岡野さんは32歳、歳の差は10です」

 ドヤ顔を岡野さんに向ける。

「アハハッ、浦口さん、歳の差は何歳までが良いの?」

 嬉しそうに聞いてくる新井さんの質問に私は考える仕草を取る。

「んー、5歳差、ですかねー」

「アハハッ、全然駄目じゃないか!」

 私の前で声を出して笑う新井さん、一方で凄く落ち込んでいる岡野さん。岡野さんの落ち込みようが面白いのか、新井さんの笑いに釣られたのか、私も笑ってた。




 お昼のチャイムがなると、全社員が食堂に集まる。仲の良い同士で席に座っている私。

「これより、社内成人式を執り行います」

 時間になると、私の班長である藤岡さんがマイクを手に前に出てきた。藤岡さんの声に、ざわざわしていた食堂が静かになる。

「まずは社内の新成人を紹介しましょう」

 藤岡さんの横には、すでに並んでいた新成人が6人いる。その中には飯村さんもいた。緊張しているようで顔が強張っている。


 藤岡さんが1人1人を紹介していくと、名前を呼ばれた新成人は会釈をする。飯村さんのぎこちない会釈を見て、密かに口許を緩める。



「続いて、飯村さんお願いします」

「はいっ!」

 目標を述べる順番が回ってきた飯村さんは緊張しているのか、声を裏返しながら席を立った。

 笑いそうになるのを必死に押さえながら、飯村さんが話し出すのを待つ。

「えっ、と、このような場と時間を頂いた事、ありがとうございます」

 何を話せば良いのか分からないのか、暫くの間沈黙が続く。


「20歳という節目を迎えられたのは今まで支えてくれた家族は勿論、この職場の人達にも支えられました。多くの事を経験し、多くの事を学びました。これからも経験して学ぶのだと思うとワクワクするほどに、私はこの職場が好きです。」

 飯村さんの思いがけない言葉に笑いそうだった口許が固くなる。

「20歳の私には、まだまだ分からない事が沢山です。それでも社員の1人としてやっていける自信と根性を見せたいです。これからも社員の1人として頑張っていきます。よろしくお願いします!」

 最後にお辞儀した飯村さんの顔は言いたい事が言えたようで、スッキリしていた。





 家に帰ると、私のベッドで寝ているカンケルとゲミニ。ベッドを背凭れにしながら静かにゲームをやっているリブラさんとスコルさんもいた。

「え、早いね琴羽、おかえり」

「びっくりした」

 驚きのあまり目を見開いていて、持っているコントローラーの操作すら忘れている。

「ごめんね、私自身も今日知ったんだよね」

 カンケルとゲミニの寝顔を見ようと覗くと、間にワタも一緒に寝ていた事に気付く。2人と1匹の寝顔に思わず笑う。

「お昼ご飯は、食べたの?」

 ゲームを中断したスコルが慌てたように聞いてくる。リブラも思っていたのか、スコルの質問に首を縦に動かす。

「弁当があるから大丈夫だよ」

 今朝作った弁当と会社で貰った弁当を見せると、ホッとしたようで2人で笑いあった後に再びゲームを再開する。



 たまに笑い会うリブラさんとスコルさんを見ていると、お似合いのカップルに見えてくる。

「スコル、笑いすぎ」

「ごめんっ」

「カンケル達起きるよ」

「うん、起こすのは可哀想だもんね」

 ヒソヒソと話すリブラさんとスコルさん。私には聞こえるそれは、やっぱりお似合いのカップルだ。

「ふぅ、お腹いっぱい」

 今朝作った弁当は完食出来たが、会社で貰った弁当は半分程を残してしまった。

「珍しいね、琴羽が残すなんて」

「うん、今日は会社でイベントがあって、その時に貰った弁当があったから」

 リブラさんの疑問に苦笑しながら答えた私は、弁当を片付け始める。


「それにしても、カンケルもゲミニも良く寝てるね」

 テーブルを綺麗にして、ふと、カンケルとゲミニを見た。未だに寝ているようで規則正しく胸が動いている。カンケルとゲミニの間で寝ているワタも一向に目を覚まさない。

「そうだね」

「いつもこうだよ」

 リブラさんの言葉にスコルさんも頷く。

「カンケルとゲミニは、良く寝るよ」

「うん、琴羽のベッドに横になると、すぐに寝る」

 へぇーと関心しながら、リブラさんとスコルさんの飲み物をテーブルに置く。

「どうぞー」

「ありがと」

 リブラさんが飲むのを私とスコルさんで見つめる。今回入れた紅茶は前とは違い、甘さが少し足されている。リブラさんとスコルさんからの感想を聞きたい為に、何も言わずに差し出した。


「紅茶いつもと匂い違う?」

 リブラさんからの感想を待っていた私は、スコルさんから紅茶の匂いを指摘されて驚く。

「えっ、何で分かったの?!」

「紅茶を注いでいる時に、匂いがいつもと違うなって」

 スコルさんは匂いに敏感なのだろうか。

「んっ、確かに、匂いは良く分からないけど、いつものより甘い」

 スコルさんの能力に驚いていると、紅茶を1口飲んだリブラさんが感想を言う。

「美味しい?!」

「うん、美味しい」

 私の問いに笑顔で答えるリブラさん。いつもの真顔とは違い、その笑顔は優しくてギャップを感じてしまった。



 静かに楽しんでいたゲームを片付けると、カンケルとゲミニの寝顔をゆっくりと覗く。いつの間にかワタは起きていてカンケルとゲミニの寝顔を交互に見ている。

 それでもカンケルとゲミニはスヤスヤと寝ている。お互いに手を握って寝ている2人は、夢を共有しているように見えた。カンケルもゲミニも同じように(よだれ)を垂らしているのを見て、3人で何の夢を見ているのかと話して静かに笑った。





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