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大晦日




 今日はいよいよ今年最後の日。

 ばあちゃんに教わって作ったけんちん汁をお昼に作り、お蕎麦を買ってくる。


「琴羽ー!あけましておめでとう!」

 お蕎麦を手にしたカンケルが私の元に駆け寄ってくる。トレードマークのツインテールが私の腕を擽ってくる。

「んふふ、カンケル、まだ明けてないよ」

 擽ったさとカンケルの言葉に笑ってしまった私は、笑いを堪えてカンケルに間違いを指摘する。

「へ?」

「明日になったらおめでとうって言おうね!」

 うん!と元気に返事をするカンケルは私の後ろを見る。


「何これー?!」

 腰に腕を回された状態で半回転したカンケルに私はいきなりの衝動に驚く。何とか倒れないよう足を踏ん張った私は、カンケルにけんちん汁の事を話す。

「年越しにはこれにお蕎麦を入れて食べるんだよ」

 カンケルが持っているお蕎麦を指差しながら教えると、カンケルは顔を輝かせる。

「カンケル知ってるよー!ピスキスに教えてもらったのー!」

 えっとー?と思い出しているカンケルをニコニコしながら見つめる。

「蕎麦はね、切れやすいんだって!だから1年間の悪いものを断ち切ってくれるってピスキス言ってたよ!」

 へー!と感心する私を見て、カンケルは続ける。

「あとね!えーっと、蕎麦は細長いから長生きを願って食べる人もいるんだって!」

 感心する私を見て、カンケルはドヤ顔で胸を張る。

 私も知っていた事は内緒にしよう。



 この間の大掃除で綺麗になった部屋でゆっくり時が進むのを待つ。

 予定は完璧。この後お昼には作ったけんちん汁にお蕎麦を入れて食べる。その後はテレビを見てまったりとする。

 早めにお風呂入って夜ご飯の蕎麦を食べながら紅白歌合戦を見る。

 問題はいつ寝るか、だな。こうやって番組が絶え間なくやってると、寝るタイミングがいまいち分からない。


「ワター、ご飯だよー」

 ワタに少し早めのお昼ご飯をあげてから、私のお蕎麦を用意する。私が台所に向かうと、後ろから元気に食べている音がする。


「はぁーっ、しみるー」

 温めたけんちん汁は思いの外上手く出来たと思う。蕎麦の1本1本に汁が絡んで、蕎麦とけんちん汁の美味しさが口の中をふわぁっと広がって、次の一口に続く。

 後ろからワタの鳴き声がして振り返ると、空のお皿が目に入った。

「完食したんだ~、ワター美味しかった~?」

 私の問いに答えるように短く鳴くワタ。ワタの頭を撫でると、若干目を細める。撫でるのを止めると、私の手に吸い付くように私の隣に座る。お腹が満たされて眠くなったのか、ワタはそこから動こうとはしない。

 ワタをそのままに、再び蕎麦を食べ始める。


「ワター、私足(しび)れちゃったよー」

 そんな言葉を足の上で寝ているワタに掛けるが、一切反応がなく、動こうとしないワタ。

 食べ終えた私がベッドで足を伸ばしていると、足に乗ってきて寝てしまったワタ。

 暇潰しに近くにあったウォークマンに手を伸ばす。何とか手にすると、そのまま隣に置いといたイヤホンも取る。

 最近新しく買ってない事を思い出した私は、ウォークマンに入っている最新の歌を流す。

「今日で今年も終わりかー、早いような遅いような」

 イヤホンからは大好きなアーティストの歌声が流れ出す。

「花見したし、夏祭りにも行ったし、レオさん達にあって、紅葉見に行ったり、商店街のイベントに皆で参加したり、ある意味ワタはレオさん達のお陰でここにいるようなもんだからねー?」

 ワタは未だに寝ていて動く気配がない。

 イヤホンから流れてくる歌は終盤に差し掛かっていた。

「ワター、痺れたよー」

 苦笑いしながら言う私の言葉は、誰の耳にも届かないまま虚しく消えた。



――…きてー、とーは、おっ…おーい!

 ビクッとして気付いたらベッドの上に座っていた。ベッドの前にはカンケルとリコル、ゲミニとアクアの4人がいた。

「うわっ!」

 伸ばしていた足が痺れてしまい、上手く立つことが出来なかった。

「琴羽ー、布団描けないで寝てたら風邪引いちゃうよー?」

 カンケルが顔を近付かせながら言ってきた。その顔は心配そうにしていて、カンケルの後ろにも心配そうにして見詰めてくるリコルとゲミニとアクア。

「ごめんねー、ワタが足で寝ちゃって、そのまま私寝てたみたいだね」

 足で寝ていたワタは、ベランダ前に移動していて日向ぼっこしているようだった。

 

「ねぇねぇ!これなにー?」

 痺れを切らしたようにウォークマンに手を伸ばすアクア。それに便乗してゲミニも手を伸ばしてくる。

 いつの間にか耳から取れていたイヤホンと一緒にウォークマンを持ち上げて好奇心旺盛な4人に見せる。

「音楽聴く機械だよ、ウォークマンって言うの」

 一番最初に反応したのはリコルだった。

「音楽?!私聴きたい!」

 イヤホンを指差しながら聴き方をリコルに教えると、早速片方の耳にイヤホンを差してウォークマンを操作する。他の3人はそれをそれぞれ横から画面を覗く。

「気になる歌があったら真ん中のボタン押すと流れ始めるよ」

 少しすると、ウォークマンの画面を見せながら歌の内容を聞いてくる。

「それはね、私の好きなアーティストの歌なんだー、最新曲なの!カッコいい」

 歌の内容をリコルに言おうとすると、もう聴いていた。案外ノリノリになるリコルに他の3人もウズウズしている。

「順番にどうぞー」

 そう言った瞬間に、4人のウォークマン争奪戦が始まった。



「今日で今年も終わりだね!」

 私の横で一緒にテレビを見ていたリコルが改めて言った。

「そうだね、あっという間だったよ」

 リコルの言葉に笑いながら反応して私が言う。1年があっという間に終わるのは年をとったせいなのだろうか。

「琴羽は来年の目標とかあるの?」

 未だにウォークマン争奪戦をやっている3人を見ながらリコルが問い掛けてくる。

 来年の目標かぁ。今年の目標は何だったっけと思い出す。

「う~ん、来年の目標…」

 天井を仰いで考える私。私の答えを待っているリコルは若干ワクワクしてるように見える。

 ウォークマン争奪戦の方を見ながら目標を考える。

「残り少ない皆との生活を楽しむ、かな」

 私の答えを聞いたリコルは思い切り抱き着いてきた。突然の抱擁に戸惑いながらも腕を回して背中をトントンと軽く叩く。

「えへ、嬉しくなっちゃった」

 嬉しさのあまりに抱き着いてきたらしいリコル。そのまま話を続ける。

「ありがとう琴羽、突然抱き着いてごめんね」

 そこまで言うと、密着していた体を離して面と向かう私とリコル。

「目標、達成出来るといいね」

 涙目だったリコル。涙を流さないように耐えているようだった。


「俺もー!俺も琴羽との生活楽しむー!」

 聞いていたらしいアクア達3人が話に割り込んできた。

「カンケルもー!」

「僕も!」

 リコルとは違い、目がキラキラしているように見えた。



 外が暗くなってくるとリコル達も夕飯を食べる為に戻っていった。

 私も夕飯の準備をし始める。冷めきったけんちん汁を温めていると、足元に確かな温もりを感じる。

「ワター、くすぐったいよー」

 私の足と足の隙間を通るワタ。尻尾が私の足に絡むと擽ったさに笑ってしまう。

「もー、ワター部屋にいてよー」

 足元にいたワタを抱えて部屋に戻る。部屋に入った途端に暖かい空気が私を包む。

 ワタ用の遊び道具、猫じゃらしで遊んであげる。驚きのジャンプ力に最初は驚いた私だが、今では分かりきって立ちながら猫じゃらしを振る。

 ワタに捕まった猫じゃらしを離して、再び台所に向かう。


 大きめの茶碗にけんちん汁をよそう。茹でといた蕎麦と七味とお箸を部屋に運ぶ。

 ワタのご飯を用意して、ワタに差し出すと黙々と食べる。

「ふぅー、んふ、うまい」

 暖かいけんちん汁が染みた蕎麦はやっぱり美味しい。ついつい無言になってしまう。部屋にはテレビの音と、蕎麦を啜る音、時々食器同士がぶつかった高い音が鳴る。


 食べ終えると、急いでお風呂に入る。

 何とか毎年恒例の歌合戦に間に合う。今年の司会者には好きなアーティストの1人がいる為に必死だ。

 最初のアーティストが歌い始めると、新聞を開いて順番を確認する。今年の歌合戦では好きなアーティストが大トリを務めるようだ。



 途中途中に司会者が考えた企画があったり、今年に流行った事を取り入れていたりと今年も面白い。


 順調に紅白は進み、いよいよ大トリを務める私の好きなアーティストが登場。

 若干重くなってきた瞼を擦りながら、音量を少し高める。3曲歌うらしい。歌う準備の為にステージに向かった5人組アーティスト。

 少しすると、歌の紹介をしてステージが映される。反射的に拍手した私は、さらに音量を高める。

 今年に発売された曲を2曲と最近発売されたアルバムから1曲を披露するみたいだ。10年以上も前からファンをやっている私としてはとても嬉しい。大トリを務める事も、3曲歌う事も初めてなのだから。


 ゆっくりと曲を聞けた事に満足しながら、結果発表を待つ。白の司会者の務めた男の人は歌っているときに泣いていた。それを他のメンバーが見て笑ったり、慰めとして肩を叩いたりするのを見て私も感動した。涙を我慢しながら歌った位だ。

「え?!」

 結果発表が表示された。驚きの結果だ。

「まさかの赤かー」

 審査する人が赤を多く挙げていた。その為、私が応援していた白は負けてしまった。悔しいような、納得のような。赤の司会者は演技力が高い女優さんで、来年には朝のドラマで主演を務める人だ。美貌に赤を挙げた人が多いのだろうか。



 気を取り直して、チャンネルを8に変える。少しすると、カウントダウンテレビが始まる。

 始まってすぐにテレビ横の棚が光る。歌おうと思っていた私は、突然の光に目を(つぶ)ってしまった。

「ほらまだ起きてたー!」

「ほんとだ、良かったね」

 高い声と落ち着きのある声が主、ゲミニとスコルさんだった。




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