大掃除
年末のお仕事も何とか終わり、今日からお休みの私。
「ケホッケホッ」
そんな今日は天気が良く、年越しの為の大掃除をしている。普段から時間がある時はこまめにコロコロなどでゴミを取っているが、やはり普段掃除出来ない所には埃が溜まる。現に、ベッドを動かすと沢山の埃に攻撃される私。
マスクをすればいいのだろうが、私はマスクの匂いがどうも嫌いだ。今までも風邪を引いても周りに隠してマスクをしない人だった。そのせいで何度ばあちゃんに怒られたか、今になっては可愛い思い出のようだ。
タンスを動かすと息を飲んでしまった。前に掃除したのはいつだったか、掃除機のコードを出しながら考える。
ベッド脇にあるコンセントにプラグを差して一息。掃除機を掛ける前に雑巾でタンスを拭く。拭いた面の汚れを見た私は、溜め息を吐きながら持ち物を掃除機に変える。
タンスを元の位置に戻した私は、タンスの中身を全て出す。一番下の引き出しには夏物の服を仕舞っている。1つ1つを丁寧に畳み直してベッドの上に置いていく。
「これ、まだ着れるかな?」
ここ数日で少し太った気がしていた。ある服を見てその気がもっとした。少し挑戦したパステルカラーのワンピースだ。買ったのは確か去年の夏。
座って作業していた私は、立ち上がってそれを体に合わせてみた。
「…いける!」
全ての引き出しから服を取り出すと、全てのタンスを軽く拭いて干す。その間に防虫剤を準備して、服を丁寧に畳んでいく。
「なにしてるの?」
服を畳んでいるとリブラが来たみたいだ。後ろにはスコルもいる。
「大掃除だよー」
服の仕分けをしながら答えると、リブラとスコルが顔を合わせるのが視界の端に映る。
「皆呼んでくる!」
スコルの声でそんな言葉が聞こえた。顔を上げると、スコルがいなくなっていた。
「ん?!」
リブラに短く聞き返すと、頷くだけで何も喋らなかった。
「琴羽!掃除手伝うわ!」
暫くして、ピスキスさんを先頭に他の皆が来た。
いきなりの事に驚いている私に対して、ピスキスさんは皆に指示を出す。
「タリウスとウルとリコル!あなた達は台所をお願い!水垢を落とすのよ!スコルとゲミニは玄関をお願い!」
ピスキスさんが掃除場所を指差しながら名前を挙げていく。
「リブラとアリエスは琴羽に付いて一緒にこの部屋をお願い!カンケルとアクアは私と一緒にお風呂場を掃除しましょ!レオとバルゴはいつものように全体の掃き掃除をお願い!」
各自お願いね!とピスキスさんが言い終えると、一斉に各掃除場所に向かう。
「琴羽ちゃん!僕達何すればいい?!」
「僕らに、何でも言ってね」
私の部屋に残ったアリエスとリブラ。何をすればいいか聞いてくる2人に、私は考えながら指示を出す。
「ん~、じゃあ外にあるタンスの引き出しを全部持ってきてくれる?季節毎に服を仕分けするから」
そこまで言うと、リブラとアリエスはベランダに駆けていく。その間に急いで季節毎に服を仕分けをする。
暫くして全引き出しを持ってきたリブラとアリエスは、私の指示で別々に服を仕舞っていく。私が春、アリエスが夏、リブラが秋物の服を丁寧に畳んでは工夫して服を引き出しに置いていく。
「琴羽ー!来てー!」
棚を拭いていたらお風呂場の方から甲高い声が私を呼ぶ。
「…ピスキス?」
甲高い声はピスキスさんのようだ。リブラとアリエスには続けるように言って、私はお風呂場に向かう。
「ピスキスさーん?どうした――の?」
お風呂場を覗くと、浴槽に寝転んでいるゲミニとカンケルとピスキスさん。
「こっ、琴羽っ!手を貸してっ!」
ピスキスさんの右手がプルプルと震えながら私に伸ばしてくる。固まっていた私は、急いでピスキスさんの右手を握る。握ったと同時にピスキスさんの手に力が入ったのが分かった。反射的に力一杯握って引っ張る私。
「ぴ、ピスキスさん?何がっ、あったの?」
何とかピスキスさんを浴槽の脇に立たせた私は、どういう経緯で寝転んでいたのかを問う。
「はぁっ、はぁ、それがね~、ゲミニが浴槽内を磨いていたら足を滑らせて転んだのよ」
ピスキスさんがカンケルを、私がゲミニを抱えて浴槽内から出す。
「それを見たカンケルが手を差し伸べて助けようとしたんだけど、カンケルじゃ駄目だったのよね、力の関係上。カンケルが浴槽内に転ぶ時に私が助けようとして失敗して、2人一緒に浴槽内に…」
言いづらそうにしながらも事細かく経緯を話すピスキスさん。
「それで私を呼んだんですね?」
私が苦笑いしながらピスキスさんに問うと、恥ずかしそうに頷いた。
「ゲミニとカンケルに怪我なくて良かったですね」
濡れてしまったゲミニの服を着替えさせた私は、ピスキスさんに笑い掛ける。
ピスキスさんは恥ずかしそうに笑って、カンケルの頭を撫でる。カンケルも笑っていてゲミニの頭を撫でる。ゲミニは恥ずかしそうに俯いていて、若干見える頬は赤くなっている。
その後、皆で協力して掃除が終わったのは午後の3時だった。
「お疲れ様ー!」
綺麗になった部屋で皆でお茶やお菓子を食べて休憩する。
「今日はありがとね!手伝って貰っちゃって」
紅茶を二口飲んだ私は、皆に感謝を伝える。途端にピスキスさんが声を上げる。
「っ、そんなことないわ!いつも琴羽には色んな事を教えてもらってるから、そのお礼みたいなものよ!本当は琴羽にプレゼントを送りたいと思ったのだけど、上手くいかなくて…」
顔をあげて言っていたピスキスさんだったが、途中から顔が下がっていって、語尾になるにつれて声が小さくなっていった。
「…今回の事がプレゼントみたいになったよ?」
ピスキスさんの言葉に殆どの顔が下がっている中、私は今日の事の嬉しく話す。俯いていた顔が若干上がって私を横目に見てくるのが分かる。
「確かにピスキスさんの言うことも分かるけど、ピスキスさん達から何かが欲しいとは思わないよ」
俯いていたピスキスさんが顔をあげて、皆が私を見てくる。少し恥ずかしくなった私は、顔が熱くなるのが分かった。
「…こうやってピスキスさん達と話したり、笑ったりする事の方が好き!」
笑顔で切り抜いた私だったが、熱くなった顔が治まらない。
「…琴羽の顔赤いよー?」
コップの冷たさで恥ずかしさを静めていると、ゲミニに顔の事を指摘されて余計に熱くなるのを感じる。
「ふふっ、琴羽、ありがとう」
そういうピスキスさんも顔が赤かった。
「あー!ピスキス琴羽と顔お揃い!ずるい!」
カンケルの言葉に皆して笑った。最高の瞬間だ。




