牡牛座のウルと蟹座のカンケル
9月に入っても時々、暑い日がある。現に私は扇風機とエアコンをフル活用し、タンクトップとショートパンツで寛くつろいでいる。
日曜日はどこもかしこも人でいっぱいだ。だからいつも、土曜日に買い物に行くようにしている。別の予定で土曜日に買い物出来なかったりすると、日曜日の午前中に近所のスーパーに行った方が楽だ。
ふと思い出す。昨日は楽しかった。ピスキスさんも他の皆も、喜んでくれて良かった。大きなモフモフぬいぐるみを抱き抱えるカンケルさんとゲミニさんが可愛かった。
昨日、午前中に遊びに来たアクアさんとアリエスさんは来ないまま、お昼ご飯の用意をする。
昨日の残りの麻婆豆腐に簡単な味噌汁、それから漬物とサラダを出して、最後にご飯。慣れたもので簡単に用意して食べ始める。
ここに来てから1年半が経つ。月日が過ぎるのは早いもので、最初は全然出来なかった料理も簡単なのなら1人で作れるようになった。凄い進歩だ。
お昼ご飯を食べ終えて、後片付けの最後にテーブルを拭いていると、ある3人がやってきた。
「こんにちはー!遊びに来たよー!」
「こ、こんにちは…」
「こんにちは~、来ちゃった~」
山羊座のリコルさんと蟹座のカンケルさんと牡牛座のウルさん。やはり昨日と同じ服装の3人は、今日の天気に丁度良い。ウルさんに関しては目のやり場に困るが、もう致し方ない。
「いきなり来てごめんねー、暇だったんだー」
「遊ぼ~、何か面白いのない~?」
リコルさんとウルさんが欲望をさらけ出す中、ウルさんの背後で怯えているカンケルさんがとてつもなく可愛い。まだ少し私に対して恐怖心があるようだ。
「じゃぁ、皆で出来るゲームにしますか?」
私が提案すると、ウルさんが提案に乗っかってくれた。
「うん、出来ればその方がいいな~、ね?」
「うん!カンケルでも出来るようなの、あるかな?」
不安そうなリコルさんの言葉に、ゲーム機とゲームカセットを手にして言った。
「ありますよー!」
ゲーマー気味だった姉がいることで、それなりにゲームはやってきていた。その中でも好きなゲーム機やゲームカセットはある程度揃っている。
私の言葉にウルさんとリコルさんは困り顔から笑顔になった。後ろに隠れていたカンケルさんは、ずっとウルさんにくっついていて、こちらの様子を伺っている。
――悲しいな
子ども好きなのに
避けられる
こんな悲しい ことはないよ
字余りだが、琴羽、心の短歌。
ゲーム機の説明から、コントロール機の持ち方、ゲームの内容、ゲームの操作方法など手取り足取り教えてゲームがスタートした。
手始めにまずは、私とウルさんの対決。
「あー!おちたー!」
「まだ終わりじゃないよ!ウル!構えて構えて!」
「ウル!頑張って!」
「ぅ、ウル!頑張って!」
誰も私の事を応援してないのは気のせいかな。
「琴羽の事、負かしちゃえー!」
「ウル!頑張って!」
気のせいじゃなかった。残念ながら私は、経験が多いんだ。手加減するのは相手に申し訳ないので、本気でいく。
「ウル!頑張って!」
「うぅぅ、分かってるよぉ」
一途に応援しているカンケルさん。そんなカンケルさんに対して、画面から目を離さず一生懸命ゲームに臨んでいるウルさん。
私がリードしてるけど、これ勝っちゃって良いのだろうか。そう悩んでる間に、ゲームは終わりへと近付いていた。
『You Winnie』
テレビ画面上には嬉しい事が書かれている。しかし、今の状況は嬉しくない。
「琴羽強いねー」
ウルさんは負けた事で不貞腐れていて、カンケルさんは付き合って一緒にベランダで体育座り。唯一声を掛けてくれたのがリコルさん。
「ありがとうリコルさん」
カンケルさん、さっきまで興奮気味だったのに、ウルさんが負けてからずっと眉が下がっている。それが1番効く。
リコルさんが懸命にウルさんとカンケルさんを励ましている中、私はずっと数分前の自分を責めていた。
手加減するのは相手に申し訳ない、とか思ってしまった私には、親切心がなかったかもしれない。 久々に誰かとゲーム出来ることで舞い上がって、大人気なく悠々と勝ってしまった。少しハンデをつければ、ウルさんももう少し楽しめたのではないか。
色々と自責の念に駆られていると、突然目の前に二人分の足。顔を上げると、そこにはレオさんとタリウスさん。
「……おい、ウルとカンケルに何をした」
昨日の強い言い方とは違い、落ち着いている声。少しだけ戸惑いの声も混じっていた。
「ゲームを、してたんですけど……」
レオさんからの質問に何を言えばいいか分からず、途中で閉じてしまった。
そうしている間に、レオさんとタリウスさんが来たことに気付いたリコルさんが状況を話してくれた。
リコルさんの説明を一言一句聴いていたレオさんとタリウスさん。
「つまり、ウルは負けた事が嫌だったのか?それであんな端の方に?何故カンケルも一緒になって座っているんだ」
「ウルが負けた事に異論がありそうなんだよね、ウルが負けてからずっとあんな感じ」
レオさんより早くタリウスさんが理解した。リコルさんに質問したタリウスさんは、徐ろにウルさんとカンケルさんに近づく。
「ウル、カンケル、ここは琴羽の部屋だ。落ち込むなら帰りなさい。現に琴羽が困っているだろう?」
タリウスさんの少し強めの口調に俯いていたウルさんとカンケルさんは顔を上げる。カンケルさんはタリウスさんの言葉に泣きそうになっている。
タリウスさんを見ていると、隣にいたレオさんが寄り添っていった。今回はレオさんに睨まれていないことに1人安堵していた。
「…負けて悔しいなら、もう一度やればいいし、練習すれば良いだろう。何故負けたからってこんな所で不貞腐れてるんだ。琴羽にもう一度やりたい、と懇願すればやらせてくれるんじゃないのか?」
レオさんが私に聞くようにこちらを向いてきた。まるで、ウルさんとカンケルさんの代わりに、私にもう一度やってもいいかと聴いてきそうな顔。
「あ、また皆でやりましょう!いつでもやりに来ていいし、何回でもお付き合いしますよ!」
ウルさんとカンケルさんは泣きながら頷いて謝罪をしてきた。
「ごめんなざい!もう一回じたい!いい?」
「ごめんなざい、わだしも、やりだい…」
ウルさんとカンケルさんの素直な言葉が聞けて良かった。そんな言葉に頷いて、テーブルに置きっぱなしだったコントローラーを2人に手渡す。
泣きながらコントローラーを持つ二人はとても可愛く、ニヤニヤしてたらレオさんに睨まれた。
「……レオさん達もどうですか?」
「俺はいい」
「琴羽、やってもいいだろうか」
「どうぞどうぞ」
断ったレオさんだったが、タリウスさんがやりたそうに挙手したので、小さい声で「タリウスがやるなら、しょうがないな」と呟いた。 思わず笑ってしまって、レオさんにまた睨まれたがそんな事を気にならないほど、嬉しかった。
※※
レオさんとタリウスさんに、ゲーム機の説明からコントローラーの持ち方、ゲーム内容から操作方法を伝える。1つ返事で頷くタリウスさんだが、レオさんはなにやら怪訝そうにしている。
そんなこんなで4つのコントローラー全部を使って、カンケルさん達とレースゲームをしていた。
「レオさん、それ逆走!」
「これはどうなっているんだ」
「誰っ、ここにバナナの皮置いたのっ」
「甲羅を投げてきたのはカンケルか?」
「やったー、当たったー」
「ウルもカンケルも頑張れー」
レオさんが落ちたところから逆走したり、ウルさんとタリウスさんとカンケルさんがせめぎ合ったりしている。
私とリコルさんは応援に回ったのだが、レオさんが下手過ぎて少し手伝ってあげたりしていた。レオさんのコントローラーを貸してもらって逆走を直した時には、レオさんは最下位だった。
1位、2位、3位をタリウスさん、ウルさん、カンケルさんで順位変動しながら進んでいく。最後のカーブで2位だったウルさんが、1位のタリウスさんに甲羅をぶつけた。抜かしたことでウルさんが1位になり、そのままゴールのアーチをくぐった。
「やったー!」
「ウル、上手いじゃないか」
「ウル1位?! すご〜い!」
コントローラーを持ったままバンザイしているウルさん。タリウスさんは拍手を送っていて、カンケルさんはウルさんと一緒にバンザイしている。
「レオさん、そこ落ちやすいから気をつけて……」
「んぬ?!」
「言ったそばからぁ、もうレオ下手すぎ!」
レオさんはまだゴールしていなかった。
「これは、一体どうなってるんだっ……」
何故かカーブの時、身体と手が曲がる方向へと傾く。下手過ぎてもう何も言えない。
「……ねぇねぇタリウス」
「どうしたカンケル」
「これみんなでやりたいな」
「琴羽に聴いて……」
「いいね!早速私みんな呼んでくるよ〜」
「……なぜウルは話を聞かないんだ」
なんて会話をカンケルさん、タリウスさん、ウルさんで話していた事を知らない。
私とリコルさんは、なんとかゴール出来たレオさんの対応をしていた。
「俺は不得意なようだ……」
「れ、レオ、元気だしてっ……」
「他にも色んなゲームあるし、レオさんの得意なゲーム探しましょうよ」
片手で身体を支えるように項垂れているレオさん。そんなレオさんにアワアワしながら励ましの言葉を放つリコルさん。
今回のレースゲームの他にも、用意出来るゲームはまだある。もしかしたら、レオさんが得意なゲームが他にあるかもしれない。
「不甲斐ない、ゲーム1つまともに出来ないなんて……」
「そんなことないよレオ。私たちにとってレオは絶対なんだから」
項垂れているレオさんの背中を擦るリコルさん。レオさんは、初めてこの部屋に来たとき、自由な皆さんの代表として私から情報を得ようとしていた。そんなレオさんを、黄道12宮のリーダーなのだと勝手に思っていたが、やはりそのようだった。
「……どういう状況なの?琴羽」
今日まだ聞いていなかった声に名前を呼ばれて振り向くとピスキスさん達がいた。
「え、ピスキスさん?いつの間にここに……」
見渡したら黄道12宮の皆さんが揃っている。どういうことなのだろうか。レースゲーム後、カンケルさんとタリウスさんとウルさんの会話を、まったく聞いていなかったリコルさんと私。リコルさんとともに首を傾げるしかなかった。
ウルさんとカンケルさんの説明により、黄道12宮全員集合の理由が分かった所で、レオさんもなんとか復活してくれた。
コントローラーが4つある為、先ほどゲームをやった4人以外でトーナメント形式で試合を2試合やることに決定した。
「じゃあ、さっき出来なかったリコルさんと、ピスキスさんとアクアさんとアリエスさんで、第2試合お願いします」
先ほどのカンケルさん達のレースゲームを第1試合として、これから第2試合を開始する。
それに伴い、今日3度目となるゲーム機、コントローラー、ゲーム内容、操作方法の説明を伝える。
「皆さん分かりましたか?」
「「はーい!」」
説明を終えて問いかけると、ゲニミさんとアクアさんの元気な返事が重なる。
そんなこんなで急に始めた『チキチキ黄道12宮コントロール最強決定戦』は、大いに盛り上がった。
「さぁ始まりました黄道12宮によるコントロール最強決定戦!進行、解説を務めますは琴羽です」
解説をお願いされたことにより、マイクに見立てたリモコンを手にノリノリで司会を始める。よろしくお願いします、と挨拶で軽くお辞儀をすると、真似をするようにカンケルさんとタリウスさんがお辞儀をする。
「第1試合となった、ウルさん、カンケルさん、レオさん、タリウスさんの4人の試合は、白熱のすえ、ウルさんが勝利を納めています。果たして、第2試合では誰が勝ち上がるのか見ものです」
ゲーム画面では、丁度試合が始まり、全員がスタートダッシュを成功させる。
「1周目、現在の1位はリコルさんです。このまま1位をキープするには、アイテムの使うタイミングが重要になってきます」
ゲーム画面を凝視しながら操作するリコルさんは、真剣な顔をしている。カンケルさんが必死に応援している声は、果たして聴こえているだろうか。
「3位ピスキスさん、4位アクアさん、5位アリエスさん、頑張ってください。下位には有利なアイテムが出やすいので、どんどんボックスを引いてください。使い方次第で一気に抜け出す事もできます」
ピスキスさんもアクアさんもアリエスさんも、一度説明しただけなのに、難なくコントローラーを操作している。レオさんのように、カーブの時に身体も動くような変な動きはない。
「琴羽、誰が勝つかな?」
実況解説をする横でウルさんが尋ねてきた。すでに勝ち抜いているウルさんにとっては、勝ち上がる人は重要だ。
「んー、リコルさんかな。今1位なのもそうだけど、ウルさんやカンケルさんとすでに遊びでやってるわけだから、経験としては少し有利だと思うよ」
「リコルかぁ、勝てるかなぁ」
呑気な声で呟く。ウルさんは初めて会った時から、のほほんとした雰囲気があり、口調も柔らかくて話しやすい。ちょっと落ち込みやすいのが可愛らしい。
そんな話をしている間に、試合は折り返しとなり、2周目から最終の3周目へと入っていた。
「おっと、アリエスさん!アイテム使用とショートカットで一気に首位にあがった!このままゴールなるのかっ」
いつの間にかアクアさんを抜いていて4位だったアリエスさんがアイテム『キラー』を引いた。使うタイミングを図ったかのように、使用すると追い越せそうな3位ピスキスさんを軽く抜いて、そのままずっと1位だったリコルさんも抜いた。
ギャラリーの皆さんが湧いて、アリエスさんを賞賛したり、追い抜かれたピスキスさんやリコルさんを強く応援している。
「えぇぇ……あっという間に状況が変わったよ琴羽」
「このゲームはそういうとこが面白いんだよ。アイテムの使い方によっては無駄になっちゃったりする所をアリエスさんは上手く使ったみたい」
昔からゲームをやっていた私でさえも、タイミングよくアイテムを使って、首位におどり出ることは容易ではない。それを初めてのアリエスさんがやってのけた。
そのままアリエスさんが1位のままゴールする。その後をリコルさん、ピスキスさん、アクアさんの順にゴールのアーチをくぐった。
「1位はアリエスさんです。ひとことどうぞ!」
「え、えっとぉ、嬉しい!アイテムで一気に1位になったからびっくりしたけど、嬉しいですっ」
マイクに見立てたリモコンをアリエスさんの口元へと寄せると、戸惑いながらも満面の笑みを見せる。負けてしまったリコルさんやピスキスさん、アクアさんは悔しがることはなく拍手を送っている。
「次の試合は残りの4人かな?」
第1試合、第2試合を終えると、残るはゲミニさん、リブラさん、バルゴさん、スコルさんの4人。早速その4人がコントローラーを手にしてゲーム画面を操作する。
「よーっし、頑張るぞー!」
「ちょっと操作が不安だけど、レオみたいにはなりたくない」
「レオが極端に下手なだけだから大丈夫よ」
「ビリじゃなければいいかな」
果たして第3試合では誰が勝ち上がるのか。
デッドヒートだった。抜きつ抜かれつの、最後まで誰が勝ち上がるか分からない試合だった。
スコルさんがショートカットしては追い抜いたり、バルゴさんがアイテムを駆使して追い抜いたり、ゲミニさんとリブラさんがずっと抜きつ抜かれつだったり。
結果、第3試合の勝ち上がりはリブラさんだった。
「僕が勝ち上がると思わなかったけど、ひょっとしたらこういうの得意かも」
リブラさんは嬉しそうに微笑みながら呟いた。
そうして勝ち上がったウルさん、アリエスさん、リブラさんの3人で決勝戦が始まる。
「1人ひとり意気込みをどうぞ!」
「頑張るぞー」
「勝ち上がれたからには優勝します!」
「んー、ビリにならなければいいかな」
それぞれ思うことをひとこと言うと、3人ともコントローラーを手にする。すると、惜しくも敗退してしまった他の黄道12宮メンバーから声が上がる。
「ウル、頑張れー!」
「アリエス、漢を見せろー!」
「リブラ、もうちょっと欲を出してっ」
順に、カンケルさん、アクアさん、スコルさんが1人ひとりに応援している。リブラさんに対するスコルさんの応援がちょっと変わっていたが、気にしない。
そうして、決勝戦が始まった。スタートダッシュは3人ともに成功したようだ。
「ウルいけー!」
「ウル頑張れ!」
「アリエス、慎重にだぞ!」
「私の分も頑張ってアリエス!」
「リブラっ、頑張りなさい!」
「私の分も頑張ってよリブラ!」
ウルさんを応援しているのは、カンケルさんとゲミニさんとレオさん。
アリエスさんを応援しているのは、アクアさんとタリウスさんとピスキスさん。
リブラさんを応援しているのは、スコルさんとバルゴさんとリコルさん。
十人十色な応援は、試合に集中している3人に届いている。
現在2位のウルさんは、頑張ろうと意気込んで眉間に皺があった。でも応援によって眉間の皺はなくなり、しっかり画面を見据えていて、操作も安定している。
現在3位のリブラさんは、最初やる気があまり見られず、1位になることにこだわりがなかった。それが応援によってやる気が上がり、5位から3位へと上がったのだ。
現在4位のアリエスさんは、頑張ろうと意気込みすぎて操作が安定していなかった。でも応援により、スピードより安心を優先したことで操作が安定した。あと少しで3位のリブラさんを追い越せそうだ。
「さぁ、誰が1位になるのかっ」
最終の3周目へと試合は進んでいく。
「リブラいいじゃない!よくやったわ!」
「すごいすごい!リブラすごいよー!」
「頑張れリブラっ」
3周目に入ってから、大きく順位変動が起こる。
「おおっと、リブラさん1位に躍り出た!すごいですリブラさん」
リブラさんがアイテム『サンダー』を使用して、足止めに成功。それにより、2位のウルさんと、コンピューターによる1位を追い越して1位となった。
なかなか上位では出ないアイテムを運よく引き当てたこと、アイテムを使用するタイミングが良かったこと。
「リブラ!そのまま頑張って!」
「ウル!まだ挽回できるよ!」
「アリエス!まだ諦めないで!」
3位のウルさんも、4位のアリエスさんも諦めずに試合に集中している。残り僅かで逆転出来るのか。そう思っていたが、あっという間に1位のリブラさんがゴールのアーチを潜った。
「リブラさんが1位でゴール!残り2人も頑張ってください」
リブラさんのゴールから遅れて10秒ほどでウルさん、アリエスさんと順にゴールする。
「んあー、負けちゃったー」
「リブラすごいね、初めてなのに上手!」
惜しくも1位にはなれなかった2人だが、1位のリブラさんを賞賛している辺り、気分が落ちたりしていないようで安堵する。
リブラさんはリブラさんで、応援によりやる気が上がって1位になるとは思わなかったようだ。戸惑いつつも皆からの賞賛の声にお礼を言っている。
「リブラさん、1位で優勝になってひとことどうぞ!」
マイクに見立てたリモコンをリブラさんの口元へと寄せる。
「嬉しいよ。バルゴとリコルとスコルが応援してくれたから頑張ろうって思えたんだ。3人ともありがとう」
そう言ったリブラさんは嬉しそうに微笑んだ。その様子にバルゴさんとリコルさんはハイタッチしていて、スコルさんは結ってある長い髪で顔を隠している。小さく見えるスコルさんの耳はとても真っ赤だった。
そんなこんなで急に始まった『チキチキ黄道12宮コントロール最強決定戦』はリブラさんの優勝で終わった。
「もう日が暮れてることだし、私達は帰りましょう」
日が暮れてることに気付いたピスキスさんのひとことで、白熱したゲームを片付ける。
「折角ですから、ご飯食べていきますか?」
「いや、いい」
「そうね、私達の分、作るの大変よ?」
ピスキスさんの言葉に納得する。私含めて13人分のご飯を作るのは、今の私には無理かも知れない。
「それに、私達もちゃんと自分で作れるからいいわよ。琴羽も疲れてるし、今日はもうおやすみ」
「はい!皆さん、おやすみなさい!」
そうして帰っていった黄道12宮の皆さん。部屋には私1人だけになって、急に静かになった部屋が寂しい。
ご飯を軽く準備して食べて、その後でお風呂に入る。ぬるい湯船に浸かりながら今日のゲームを思い出す。
今日は本当に楽しかった。あのレオさんがはしゃいでいた。レオさんはゲームが苦手なんだということが今日分かった。体が一緒に動いちゃう人がいるなんて思わなかったから驚いたし、そんなレオさんが面白くて笑った。
皆さんの笑った顔が頭から離れなくて、なんだか皆さんと仲良くなれた気がした。
お風呂の後の、髪の毛を乾かしている時にピスキスさんが来た。ピスキスさんはベランダからよく来るが、今回は急に部屋に現れた。
「ごめんなさい、夜遅くに」
「いえ、大丈夫ですよ」
ピスキスさんは困り顔。どうしたのだろう。
「今日は本当にありがとう、楽しかったわ。お陰でカンケルはもう寝てるし、他の皆もいつもより早く寝たわ」
「そうですね、皆も楽しそうでしたし、はしゃいでましたもんね」
今日の出来事を思い出しながら二人で笑った。
「それで、その……今日はごめんなさいね、ウルとカンケルが世話をかけてしまって」
困り顔だったのはその事だろうか。安心させるべく笑顔で答える。
「別に大丈夫ですよ、ウルさんもカンケルさんも可愛らしい方ですね」
「そう?なら良いんだけど」
「はい!」
元気よく答えたが、ピスキスさんの困り顔は変わらない。そのままピスキスさんが口を開く。
「その、カンケルはね?人間が苦手なの。嫌いなわけじゃないから、少し経つと琴羽にも慣れると思うわ」
急な話に一瞬ついていけないように感じたが、そんな事を言うピスキスさんは困り顔で続ける。
「カンケルにとってね、ウルはヒーローなの、前の人に……」
「あ、あのピスキスさん!」
なんだかとても大切な話をしそうなピスキスさんの言葉を遮る。驚くピスキスさんを他所に、今日感じた事を伝える。
「大丈夫です。カンケルさんの過去に何かあったのは、今日の出来事で思っていました。皆さんの見る目も穏やかで、見守るように見てますよね」
初めて部屋に来た時も、ぬいぐるみのお礼を言う時も、今日部屋に来た時も同じだった。カンケルさんは、怯えながらも話しかけてくる。
「たとえ、カンケルさんが臆病で私の事が苦手でも、1年間あるんですからその間に仲良くなれるって信じています。カンケルさんの過去に何があったのかは、それから聞いていきます」
カンケルさんが怯える理由が、過去に何かあった事が原因なのは明白。でもそれをズバズバ聞けるほど仲が良いわけではない。
怯える理由になった原因は気になる。それでもカンケルさんの知らない所で、カンケルさんの過去の話を他の人から聴くのは私自身が許せなかった。
「私は、ピスキスさんに話してもらうより、カンケルさん本人の言葉で聞きたいです」
きっぱり言い切ると、ピスキスさんはポカンとしている。ピスキスさんが言おうとしてたのを遮ってまで言ったそれは、カンケルさんと仲良くなると宣言していたから。
「良かった、ありがとう琴羽!カンケルと仲良くしてね」
「はい!」
呆気にとられたピスキスさんだったが、やっといつもの笑顔に戻った。ピスキスさんは綺麗な笑顔が似合う。
「それじゃあ改めて、おやすみなさい」
「はい、おやすみなさい!」
共にお辞儀をして、ピスキスさんは手を振りながら帰っていった。