聖なる夜を
クリスマス――それは、世の中の子供にとって最高の1日。
「ただいまー!」
少しでも早く家に着く為に走ってきた私は、息をあげながら玄関の鍵を閉める。
ガチャの音と共に部屋から聞こえるおかえりの声。声が聞こえてくる部屋の引き戸を開ける。
「おかえりー!」
入ると同時に抱き付いてくるカンケルに体がふらつく。倒れないように足に力を入れて、手にしている物をテーブルに置く。
「おかえりー!」
「おかえりなさい」
部屋にはカンケルとゲミニとスコルがいた。スコルとゲミニは仲良くテレビゲームをやっている。
「ケーキ買ってきたよー」
そういうと、テレビゲームをやっていたゲミニが目を輝かせて此方を見てきた。
コートを脱ぎながら鞄しまうと、ケーキの蓋を開ける。横目にミシン目を見つけて丁寧に切り取る。ケーキ台を横にスライドさせると、ケーキの全体を披露させる。
「わぁー」
ケーキを目にしたカンケルとゲミニは目を輝かせてケーキを見ている。まだ食べないように注意して、ナイフを用意する。
ナイフを手に部屋に戻ると、スコルさんがいなかった。皆を呼びに行ったのだろうと推測すると、早速ケーキを切り取り分けていく。
取り分ける分を考えながら慎重にナイフを入れていく。
「琴羽」
皆を呼びに行ったスコルさんが戻ってきたみたいだ。
「琴羽っ、私も作ってきたわよ!」
ピスキスさんが手にしているのを見せながら言う。ピスキスさんが持っているのはケーキの箱と同じくらいの大きさだった。
クリスマス前から約束していたピスキスさんのケーキは、私が買ってきたケーキとあまり変わらない大きさ。
「ケーキが2つー!」
カンケルとゲミニがはしゃぐ中、私とピスキスさんでケーキを切り分けていく。
「皆に回った?」
手にしているコップを掲げながら皆に聞くと、元気の良い返事が所々聞こえる。
「カンパーイ!」
腕を伸ばしてコップを少し上に掲げると、沢山のコップがぶつかる。
簡易的なサラダと焼いた肉が少しずつ少なくなっていく。
「クリスマスにはね、良い子にしていた子供達の所にサンタさんがプレゼントを送るんだよ」
「カンケルそれ知ってるよー!」
クリスマスの事を皆に言うと、カンケルが声をあげる。やっぱりクリスマスと言えばサンタさんなのだろう。
「前にサンタさんに会ったー!」
カンケルの言葉に他の皆も頷いたり、思い出話を語り出す。
カンケル曰く、前に一緒にいた人が友達だと言って連れてきたらしい。
思い出話をしているカンケルを眺めていると、隣にピスキスさんが寄ってきた。
「ここだけの話なんだけどね、私サンタさんの正体知ってるのよ」
私にだけ聞こえるような小さい声で話しかけてきたピスキスさんは、楽しくしている皆を笑顔で眺めていた。
「サンタさんだって紹介された時に友達って言っていたのだけど、御家族だったらしいの」
ピスキスさんの横顔は、当時を懐かしむように微笑む。
「とても嬉しかったわ」
ずっとカンケル達を眺めていた顔が私に向く。その顔にはやっぱり笑顔。昔を懐かしみながら今を楽しく過ごしているピスキスさん達は、これまでどんな人達に会ったのだろう。私には分からないけど、ピスキスさん達の中ではどれも良い思い出なのだろう。
「じゃんけんぽん!あーいこでしょ!あーいこでしょ!あー、やったー!!」
只今の結果、残りのケーキはカンケルとスコルに渡りました!
「やったー!!大きい方がいいー!」
「ゲミニ、イチゴだけでも食べる?」
勝者のカンケルとスコルは笑顔で本日2個目のショートケーキに目を向ける。
「それ全部食べたい…」
「それは無理な話かな」
スコルにイチゴだけ勧められたゲミニは、伏し目がちにスコルにお願いをする。だがそれは、無理な話のようで、イチゴだけを手渡してくるスコル。
「…あー」
渋々、イチゴだけを食べるゲミニ。
「あ、雪だ」
私の正面に座っていたリブラが窓の外を見て呟いた。目線を追って窓の外に目を向けると、微かに白い綿のような物が空から落ちてきていた。
今朝の気象情報で夜に降るかも知れないと女キャスターが言っていたのを思い出す。
「…ホワイトクリスマスだ」
思い出したように呟いた私の言葉にリブラは首を傾げた。
「ホワイト、クリスマス?」
って何?と首を傾げながら、聞いてくるリブラ。目線をリブラに戻して、説明をする。
「クリスマスの日に、雪が降ることをホワイトクリスマスって言うんだよ」
リブラはまた窓の外に目を向けると、微笑みながら呟く。
「積もらないかな?」
リブラの問いにどうだろうね?と言いながら笑い会う。
「雪っ雪っ降れっ降れっ、沢山降っれ~!」
カンケルとゲミニが謎の歌を歌いながら踊っているのは天使にしか見えない。
「何してるの?」
リコルに問われた私は、スマホを構えながら答える。
「2人の踊りを動画に収めてる」
私の後ろでリコルが苦笑いしていたのを私は知らない。
「楽しかったわ、ありがとう琴羽」
「ゲミニっ、まだ寝るんじゃない!琴羽にありがとう言うのだろう?」
「ん~、バイバイ、琴羽」
タリウスさんに抱っこされているゲミニは、私に手を振った後すぐに寝てしまった。
「すまない、琴羽」
苦笑いしながら大丈夫ですよと答えると、タリウスさんはゲミニを抱え直してから帰っていった。
カンケルとゲミニが寝てしまい、クリスマスパーティーは終わった。
「すみません、片付け手伝わせちゃって」
台所でお皿を洗っているレオさんに後ろから声をかける。
「問題ない」
レオさん以外が帰ってしまったにも関わらず、レオさんは残って後片付けを手伝い始めた。
「これくらいしないと示しが付かないだろ」
お皿を洗い終えたレオさんは、体全体を私に向けた。冷蔵庫の中を確認していた私は、突然のレオさんに戸惑いながら目線をあげる。
「今日をありがとう、楽しかった」
レオさんが私の頭を撫でる。いつもより若干冷たくなっていたのは先程までのお皿洗いが原因だろう。
「いつか御返ししたいな」
キリッとしている眉毛が今は下がっている。
「楽しみにしてますよ!」
笑わせる為に明るく返事をすると、レオさんは微笑む。
レオさんは、おやすみを言うと帰っていった。
「…やっぱり積もらないよね~」
1人になった部屋で窓の外を眺める。




