レオの不安
レオ視点の話です
琴羽に合ってもう3ヶ月か。
月日の流れは早いというものだ。
「レオー、ご飯よー?」
「分かった、すぐ行く」
今日の琴羽は少しニヤニヤしていた。理由を聞いてみれば、忘年会というのに誘われたそうだ。
ついさっき出掛けてしまった琴羽は、いつもよりお洒落やメイクを施して嬉しそうに家を出ていった。
さて、ご飯を食べなければな。ピスキスに怒られてしまう。
確か琴羽から、何かあったら電話をするように、と念を押されていた。別に何かあった訳ではないが、少しばかり琴羽の事を心配しても怒られないだろう。
さて、電話はどうやるのか。
「レオー!お風呂ー!」
電話の仕方を思い出していると、ゲミニが腰に突進してきた。
「ゲミニ、走ったら危ないだろ!」
きちんと叱った筈だが、それでもゲミニは笑顔のままだ。少し遅れてリブラが走ってきた。
「おーふーろー!はいろー!」
「ゲミニっ、レオ何か考え事してたみたいだよっ!」
息を荒げながらもゲミニを宥めようとしているリブラ。何故そんなに慌てるのか。
「レオ?どうしたの?」
「どうもしないぞ。悪いな、リブラも」
さっきまで元気だったゲミニは少し項垂れている。リブラもそれに付き合ってるのか、顔を下に向いている。
まったく。
「ほら2人共、お風呂行くぞ」
視界の端で笑いあう2人の顔が見える。
何故か気になる。琴羽は大丈夫だろうか。
「どうしたんだ?レオ」
何か考え事か?と聞いてくるタリウス。大丈夫だ、とだけ答えると、タリウスは湯から上がってしまった。
よく見てみると、またゲミニとアクアが走り回っていた。
「コラ!ゲミニ!アクア!転ぶぞ!」
俺がそういった次の瞬間、ゲミニが盛大に転んだ。後ろを走っていたアクアも止まることが出来なかったのか、釣られて転んでしまった。
「お風呂場では走るなと何度も言っただろう!」
着替えを終えたゲミニとアクアを捕まえて正座させると、早速2人を叱る。
今回で何度目かと思うくらい言ってきた言葉に、ゲミニとアクアは俯いている。俺だって好きで叱っている訳ではない。今回は本の少しのかすり傷だけでなんともないが、変に大きな怪我をしたらと思うと、俺だって怖いものだ。
泣いてしまったゲミニを後ろから見つめるピスキス。オロオロしながら見つめるピスキスと目があったかと思うと、少しずつゲミニに近づいて来る。
「あまりゲミニ達を叱らないで頂戴?」
2人だって悪気はなかったのよ?と言うピスキス。2人を庇うように後ろから抱き締めるピスキスの顔には、さっきまでのオロオロしてた表情とは違い、キリッとして俺を見つめてくる。
どうもピスキスには強く当たれない俺は数歩後ろに下がる。
「…今度走ったらげんこつだぞ?」
居た堪れなくなった俺は、それだけ言って共有ルームに早足で向かう。
ゲミニとアクアの件ですっかり忘れていた琴羽への心配が再び浮上してくる。
1ヶ月程前に琴羽が酒に弱い事を知って益々不安が募るばかりだ。
「あれ?レオ、琴羽に電話?するの?」
琴羽の部屋に来たものの、電話を掛ける途中でバルゴ達に見つかった。
「いや、練習だ」
咄嗟に吐いた嘘にバルゴ達の頭にハテナマークが浮いたのが分かる。
何をしに来たのかバルゴ達に問うと、ゲームの準備を始めるカンケル達。
「カンケルとウルとスコルと私の4人で対戦するの」
本当にゲームが好きだな。
「レオ!ここにいた!」
電話を掛ける練習を1つ1つ確認しながらやっていると、今度はアクア達に見つかった。
「アクア、リブラ」
とうしたんだ?と2人に聞くと、答える事より先に手を取って私達の家に戻る。
「どうしたんだ!いきなり引っ張ると危ないと言って――」
「これ!」
どうしよう…、と顔を歪ませながら俺の顔を見てくるアクアとリブラ。
アクアとリブラの間には琴羽から貰った花瓶が割れていた。今月最初に買ってきた花瓶は、可愛らしく花が描かれている模様で、特にカンケルのお気に入りの筈だ。
「2人が割ったのか?」
アクアとリブラの2人は俺が怒っていると思っているのか、顔を下に向けたまま小さく頷く。琴羽の部屋で何も言わなかったのはカンケルがいたからか。
「カンケルに謝るんだな」
呆れたように言うと、また小さく頷く2人。少しの間、その場を動かなかった2人だが、意を決したのか2人一緒に琴羽の部屋に向かった。
2人がいなくなった後、俺は割れた花瓶の破片を片付ける。アクアとリブラの手には怪我をしていなかったから、そこにはホッと息を落ち着かせる。
2人がいなくなって暫く、花瓶の破片を片付け終えるとカンケルの鳴き声に混ざってアクアとリブラの謝る声も聞こえてきた。
「ぅあぁぁあぁぁん、ひっ、ぅえぇぇんアグアのバカ~!リブラなんがギライー!」
泣いているカンケルは涙を流しながらも俺を見つけて抱き付いてくる。
「れお~!っ、ひっ、グズッ、っ」
宥めるようにカンケルの背中をトントンと軽く叩いたり、優しく擦る。それでも泣き止まないカンケルに、俺の周りをぐるぐるしながら慌てて謝るアクアとリブラ。
暫くその状態が続いて、騒ぎを聞き付けたピスキス達が此方に駆けてくる。
「レオ!カンケル!」
泣いているカンケルはその声はハッとして、今度は駆けてきたピスキスに抱きつく。
俺は簡潔に状況を説明して、再び謝るようにアクアとリブラの背中を押した。
カンケルの涙がピスキスの服を濡らしていく。ピスキスの手がカンケルの背中を軽く叩いたり擦ると、次第に泣き声は治まっていく。
「グズッ、琴羽にっ、せっかく貰ったのに、お花いっぱいのっ、かびんがっ」
泣き声が治まっても尚、背中を軽く擦るピスキスは、少しずつ話すカンケルの言葉を聞く。
「そうね、琴羽に貰った花瓶はとても可愛かったわね」
ピスキスの言葉に大きく頷くカンケル。鼻水を垂らしながらも、カンケルは自分の思いを話す。
「琴羽にねっ、花を大事にすることは良い事だよって教えてくれたのっ!だから大事にしようって、花瓶もお花も大事にすれば琴羽に喜んで貰えると思ったの!っ、なのに~っ!」
再び涙を流しだしたカンケルはピスキスに体重を預ける。
「大丈夫、明日琴羽に言いましょう。琴羽は怒ったりしないわ」
カンケルの頭を撫でながら言うピスキスは、分かっているように話す。
やはり、ピスキスはこういうのが得意だ。泣いていたカンケルをすぐに宥めた。
「それよりカンケル、アクアとリブラが話したい事があるみたいよ」
ピスキスの言葉にカンケルはハッとして顔を上げる。対して呼ばれたアクアとリブラは少し気まずいように顔を上げる。
「カンケル、ごめんなさい」
「カンケル!ごめんなさい!」
少し離れた所からアクアとリブラとカンケルを見つめる俺達。
「「花瓶割っちゃってごめんなさい!」」
アクアとリブラが同時に頭を下げる。それを見たカンケルは顔をキリッとさせて口を少し開く。
「カンケルも、ごめんなさい!」
カンケルの言葉にキョトンとして頭を上げるアクアとリブラ。離れて見ていた俺達もキョトンとしながら見つめる。
「花瓶割ったからってバカとか嫌いとか言って、ごめんなさい!」
カンケルの言葉に、俺は顔が緩むのが分かった。
アクアとリブラとカンケルは、笑い合って無事に仲直りすることが出来た。
「レオ、どうする?この事琴羽に電話する?」
無事仲直りをした後、共有ルームにいるときにピスキスが話しかけてきた。
「…大丈夫だろう」
俺のさっきまでの思いも杞憂に終わるだろう。
後日、一緒に花瓶を買ってくる琴羽とカンケルの姿が想像つく。