久しぶりの
「キャハハハ」
「やめてよー!」
あちらこちらから色んな声が飛び交う中、私は1人オレンジジュースを飲んでいた。
今日は少し早めの忘年会。中学の時の友達が笑いながらお酒を飲んだり、1つのお鍋を取り分けている。そんな中、オレンジジュースとお鍋を交互に口に含んでいる私。
「ぐっちゃーん!飲んでますかー?!」
周りの様子を伺っていると、後ろから懐かしい呼び名と突然の衝撃を受ける。急の衝撃に振り向いた私は顔をしかめる。酒の匂いが凄い。
「ぐっちゃんも運転じゃないんでしょー?飲もうぜー」
酒の匂いがキツイ鈴本君。会社帰りなのか、スーツを着ている。ネクタイが緩まっていて、首元がだらしない。始まった当初はきっちりと締まっていた筈だ。
「いや、私独り暮らしだし、酔った時の介抱してくれる人もいないし」
やんわりと断った私に対し、ズンズンとお酒を進めてくる鈴本君。
「はい!これぐっちゃんの!」
いつの間に頼んだのか、赤い飲み物をジョッキ一杯にして渡してくる鈴本君。2人増えて、鈴木君と岩下君。2人もほろ酔いくらいだろうか。
「えっと、これは…?」
「「「カシス」」」
3人一緒に言った言葉に私は頭を抱えた。
何故男という者はこうも進めてくるのだろうか。勧めてくる位なら自分達が飲みたまえ。3人共、酔っているせいか目が若干涙ぐんでる。
「…一杯だけね」
全く、何故男の勧めてきたお酒を飲まなきゃいけないんだ。自分のその時の気分で飲むものだと思うんだ。
「一杯だけだから!変に盛り上げないでよね?」
いきなりはしゃぎ出した3人に注意をしてから一口、二口とお酒を喉に通す。
「やぁだ!アハハハ!もぉ!もぉムリー」
とか言いながらお酒を飲んでいるのは冨田早希ちゃん。隣にいる安嶋君に勧められて、断れない早希ちゃんは少しずつ飲んでいた筈が、いつの間にか完全に酔っていた。
「琴羽ー!最近どー?」
早希ちゃんの酔いっぷりを眺めていたら、隣に人の気配がした。
「琴羽ぁー、最近さぁー、あまり外で食べてないよねー」
保育園の頃から仲良しだった小林加奈ちゃんだった。昔からの呼び名は“こばさん”。
「おー、こばさん結構酔ってるねー」
見たら分かる、頬が赤くなっているのはお酒のせいだ。こばさんの手には私の飲んでるお酒と同じものを手にしていた。頼んだばかりなのか、コップに沢山残っているカシスオレンジ。
酔ってるー!と正直に言うこばさんは昔から変わらない。
私とこばさんは家が近く、よく放課後には一緒に遊んでいた。高校は別になってしまったが、私は社会人、こばさんは大学生となってお互いに上京して独り暮らしを始めた。
独り暮らしを初めて1ヶ月経って分かった事はこばさんの通う大学が近くだったということ。
「あー、確かに最近は家でばかり食べてるなー」
私の言葉に、持っていたジョッキを豪勢に置くこばさんは私の肩に手を置いた。
「今度一緒に飲もう!」
外食の誘いを受けた私は、こばさんの勢いに負けて首を縦に振ってしまった。そんな私を見たこばさんは安心してジョッキに手を伸ばす。
「こばさん、それ私の!」
こばさんのお陰で残り半分だったカシスオレンジもなくなり、私は違う飲み物を店員さんに注文する。
鍋も殆どの具がなくなり、店員さんが煮詰めてくれてるラーメンが出来るのを待つ。
ラーメンが出来るまでの間、近くの壁に寄り掛かってウーロン茶を飲む。殆どの人が酔っていて宴のように笑っている。
幹事である岩下君は最初の一杯だけお酒を飲んで、後はジュースを飲んでいた。鈴本君や鈴木君は完全に酔っていて女性陣に絡んでいる。大塚君や片岡君はほろ酔いぐらいで、いつもより若干頬が赤くなっている。
女性陣は私以外が顔を赤くしてお酒を飲んでいる。さっきのこばさんは勿論、岩下ちゃんや早希ちゃん、彩香ちゃんや貴子ちゃん、あの友香ちゃんまでもが酔っていた。
「席替えしまーす!」
ラーメンが出来て早速食べようとした時、岩下君が大きい声でしゃべる。
身分が証明出来る物を1人1つ出して、シャッフルしたそれを適当にテーブルに置いていく。
私の次の席は、出入口の近くになった。鞄とコートを腕にかけて、お皿とコップと割り箸を手にして移動する。
隣には酔っている早希ちゃんがいた。壁に寄り掛かっていて少し疲れている。
「大丈夫?早希ちゃん」
心配で声を掛けると、瞑っていた目を開けて、私に抱き着いてくる。
「う~ん、琴っちゃーん」
子供をあやすように背中をトントンする。丁度近くにいた店員さんに水を注文して、再び背中を軽く叩く。
寝そうになった時に水が来て、冷たいコップを早希ちゃんに渡す。
「早希ちゃん、何杯飲んだの?」
水が飲む早希ちゃんに問う。コップから口を離した早希ちゃんは顎に人指し指を沿えて考える。
「5杯?」
「それって大丈夫なの?」
お酒に詳しくない私は心配そうに早希ちゃんに問う。
「分かんなーい!まぁ大丈夫でしょ!」
今後の早希ちゃんが心配だ。
壁に寄り掛かる早希ちゃんと私。私の肩を枕にして早希ちゃんが寝てしまった為、身動きが取れない。
何とか鞄からスマホを取り出して電話来てないかを確認する。レオさん達には遅くなる事を言ってあるし、何かあったらすぐ電話するようにも言ってあった。忘年会始まってもう少しで3時間が経つが、1つも連絡してこない事から何事もないのが分かって安心する。
スマホを操作していると呻き声が聞こえてくる。周りの煩さに早希ちゃんが起きたみたいだ。
「琴っちゃ~ん」
お酒飲みなよぉ、とジョッキを渡してくる早希ちゃん。
「それは早希ちゃんのでしょ、自分で飲みなさい」
そう言っても尚、ジョッキを渡してくる早希ちゃん。お酒の甘い匂いが鼻を掠める。
「ほら~、お酒美味しいよ~?」
早希ちゃんが意地悪してくる。成人式の後の同窓会で、私がお酒に弱い事を知ってから、毎回こんな事をやってくるのだから。
「私がお酒弱いの知ってるでしょー?さっき少し飲んでるからこれ飲んだら絶対寝ちゃうよ」
「その時は私が介抱してあ・げ・る!」
早希ちゃん酔ってるでしょっ!ってツッコミを飲み込んで再び断る。
早希ちゃんが安嶋君達に連れ去られた後、動けるようになった私はお鍋のラーメンを取り分ける。
お鍋の出汁がピリ辛でラーメンにも合うから美味しい。
「ぐっちゃーん笑ってー!」
ラーメンを食べていると、何処からか名前を呼ばれる。左斜め前にカメラモードにしたスマホを構える鈴本君達がいた。自撮りのようにカメラを内向きにしていて、鈴本君の近くには他にも鈴木君や岩下君、山口君に結花理ちゃん、遥香と美帆もいた。
持っていたお皿をテーブルに置くと、私はピースマークを作った。
「イエーイ!」
「じゃあ皆!名残惜しいですが、そろそろお開きにしましょう!」
ラーメンを食べ終えたと同時に、岩下君の大きい声が聞こえてきた。
お酒に酔っていた人達は、お互いに手を取って立ち上がる。
岩下君が忘れ物をしないように大きく声掛けをする。皆してあたしの鞄ー!やスマホ何処だっけー?等の声をあげている。
私は、忘れ物がないか鞄の中身を確認してきっちりと閉める。
「あたしのスマホ見なかったー?!」
座敷を出ようとして聞き覚えのある声が聞こえてきた。こばさんだ。
「こばさん、スマホ何に使ったの?」
若干呆れながらも一緒に探す。こばさんがさっきまで居ただろう座席に向かうと、後ろからこばさんの大きい声が。
「あった!」
こばさんの顔を見ると、こばさん自身も驚いていた。ポケットにあったらしいスマホは確かに今日手にしていた水色のスマホだった。
「こばさん!」
こばさんの座席近くには、誰かの上着と鞄が置いてあった。
「これ誰のー?」
近くの人に聞こえる程度の声で呼び掛ける。
右手に上着、左手に鞄を持った私は、出入口にいる人達に見せる。
「誰のだ?」
「誰か男子のじゃない?」
「安嶋ー、これ安嶋のー?」
「これ詫摩のじゃね?」
トイレ通路に向かって岩下君を呼ぶ鈴木君。少しすると足音が聞こえてきた。
「ごーめん、ごめんごめん!」
岩下君は私の持ってる鞄と上着を見て慌てたように謝ってくる。
「あ、ぐっちゃん!二次会来る?」
店の外に出た所で岩下君が思い出したかのように聞いてくる。
今の時間は夜の10時過ぎ。今から電車に乗って、家に着くのは多分23時過ぎてしまうだろう。
今日は金曜日で明日は休みだ。でもレオさん達が心配だし、今日はもう帰ろうかな。
「ごめんね、今日はもう帰るよ」
皆に手を振った私は駅に向かって歩き出す。
帰ったらすぐに眠れそうだ。