瀬戸際で
今年ももう3週間で終わってしまう。クリスマスでは食べ物を沢山用意して皆で食べる予定だ。大晦日前には大掃除をして、年越し前には蕎麦を食べる。
昔は師走と呼ばれる程に早く過ぎていく12月も、皆との貴重な時間を大切に思いながら過ごそうと考える。
大掃除前までは思う存分皆と遊ぼう。
「ということで、こんなの買っちゃいました!」
おもちゃ屋で買ってきた物を皆に見せる。
「何それ?」
「どういうことだ?」
「遊ぶー!」
「どういう遊びなの?」
私が見せたものをじっと見つめ、質問してくるリコルとタリウスさんとピスキスさん。
「ジェンガです!」
おもちゃの名前を言ってから説明をする。皆が真剣に聞いてくれたお陰で今回は1回だけで皆が理解した。
「つまり、そのブロックを倒した人が負け、という事だな?」
レオさんの質問に一言で答えると、皆が一斉に喋り出す。
「面白そー!カンケルやるー!」
「俺もー!」
「僕もやるー!」
「アクアがやるなら僕もやりたいな」
「アリエルがやるなら、僕もやろうかな」
「リブラがやるなら、私も…」
「あのスコルが自分から…じゃあ私もやるわ!」
「カンケルがやるなら断れないよね!」
「ゲミニがやるなら俺もやらねばな!」
「私あまりバランス感覚ないんだけど…」
「ウルでも出来るわよ!一緒にやりましょ!」
「…やってやるか、仕方ない」
子供組に甘い大人組。
「いいですか?絶対に、テーブルを叩いたりして妨害するのは駄目ですからね?」
まず私が手本見せます!と意気込んでから身を低くして下のブロックを1本慎重に抜き取る。
「こうやって取って上に置いていくんですよ?」
分かった?と聞くと、挙手して返事をしたり、頷いたりする。
「じゃあ私から時計回りで、次はリコルさん!」
リコルさんは、軽く返事をしてから私みたいに身を低くして1本抜き取る。
「…ふーっ、結構怖いよ」
無事抜くことが出来たリコルさんは、やってみた感想を皆に伝える。
「次は俺だな」
リコルさんの次はタリウスさん。タリウスさんは中間辺りからブロックを1本抜き取る。
「うむ、確かに結構怖いな」
タリウスさんも怖いという感覚があるんだなと思った瞬間だった。
「次僕?!」
身を乗り出して私に聞いてくるゲミニ。
「うん、そうだよ、あまりテーブルに寄り掛からない方がいいよ」
テーブルに手を着いて体重を掛けているゲミニに注意する。
「あっ、そうか!倒れちゃう!」
パッと手を離したゲミニはそのままの手を頭に持っていく。
「ゲミニ、慎重にだぞ?」
隣のタリウスさんがゲミニに呼び掛ける。分かってるよー!と言ったゲミニは慎重にブロックを抜き取る。途中、手を離して深呼吸をする。
「ふーっ、取れたー!」
抜き取ったブロックを皆に見せてアピールしてるゲミニ。
「そうだな、良かったな」
隣にいたタリウスさんが頭を撫でながら声を掛ける。
スコルさんはいつの間にか抜き取っていた。
「私、これ得意かも…!」
簡単に抜き取ったスコルさんは手先が器用みたいだ。
「取れるかな…」
前にやった皆の反応で怖くなったのか、弱音を吐いているアクア。
「アクア、頑張って!」
アリエルがアクアに応援をする。それを受け取ったアクアは、勇気を振り絞って手を前に出す。
「あぁ…!怖いぃ…」
手の震えを抑えながらブロックを慎重に抜いていく。
「…っ!取ったー!」
ブロックを持ってる手を天に掲げて雄叫びを上げるアクア。そんなアクアを見守る大人組。
「こんなの簡単よ!」
意気混んだバルゴは一発で簡単に抜き取ることが出来た。
「んふふ、朝飯前だわ」
「…取れた!」
これまた簡単に抜き取ったリブラさん。
「僕もこれ、得意かも…」
嬉しそうに笑うリブラさんがスコルさんの方をチラ見したのが分かった。
「俺だな」
レオさんが淡々とブロックを抜き取る。簡単に取れてしまったそれを、上に置いて元の姿勢に戻る。
「それほど怖くないぞ」
「うぅ~、私バランス感覚ないんだよー」
涙目になりながらも少しずつブロックをずらしていくウルさん。
ジェンガは手先に器用さもそうだけど、バランス感覚も良くないと倒れたりするからね。だからウルさんは怖がっているのかな。
「…ほっ、良かった」
何とか取れたブロックを上に置いたウルさんは、小さく伸びをする。
「次カンケルよ」
ピスキスさんの言葉に元気よく返事をしたカンケルは、手を伸ばしてブロックに触れる。
「ンフフ!カンケル取れるかなー?」
天使がいる。口元を手で隠して皆に笑い掛けるカンケル。
「カンケル頑張れー」
ピスキスさんがカンケルを応援する。カンケルが返事をするように気合いを入れる。
「…よし!カンケルいきまーす!」
ブロックを少しずつずらしていく。途中、呻き声を上げて手を離すも、やっとの思いでブロックを抜き取る。
「ピスキス!取れた!」
カンケルを後ろから抱き抱えているピスキスさんにブロックを見せる。
「良かったわね、ブロックは上に置くのよ」
ピスキスさんの言葉に従ってブロックを上に置く。
「ピスキス!頑張って!」
「ありがとね、カンケル」
2人だけの世界になっているピスキスさんとカンケル。
ピスキスさんは一番下のブロックを少しずつずらし始めた。
「ピスキスさん、攻めるね!」
思わず私はピスキスさんに声を掛けてしまった。突然の言葉にも関わらず、ビックリした様子もないピスキスさんは「そう?」と聞き返してきた。
少し時間が掛かったが、取ることが出来たピスキスさんはブロックを私に見せて言ってきた。
「以外と簡単よ?」
「来ちゃったか、僕の番」
順番が来ないように祈っていたアリエルは、諦めたようにブロックに触れる。
「ハァ…ん…」
自分の指先を見詰めるアリエルは、途中手を離して手首を解す。
「…ふぅっ」
無事取れたアリエルは、深呼吸をしながらブロックを上に積み上げる。
「1周来ちゃったか」
2周目が回ってきた私は、腕捲りをして少し本気モードを醸し出す。実際、私は手先器用でなければ、バランス感覚もさほどない。
ブロックを少しずつずらすと、若干揺れる。
「揺れた!」
カンケルの大きい声にビックリして手を離す。
「…揺れたね~」
「そろそろ倒れる?」
「どうなんだろう?こっちまで来るな~」
「琴羽!頑張って!」
そろそろ倒れるのか?ブロックタワー!お前ならまだ行ける!そして私も行ける!
「琴羽!行きまーす!」
少しずつずらして、何とかブロックを抜き取る事が出来た。
皆からの拍手に感極まって涙が溜まる。
「ありがと!ありがとう!」
その後、タワーが倒れる事なく続けて3人がブロックを取ることが出来た。
「…結構揺れる」
スコルさんは手を離してタワーの様子を見る。私の時に比べて少し揺れが大きい。
「これ、倒れるかも…」
私達を見て話すスコルさん。スコルさんは炬燵を出て正座に座り直す。
再び手にしたブロックを少しずつずらしていく。親指と人差し指だけでブロックの端を持つと、そのままブロックを引っ張る。
「…取れたっ…」
息を止めていたのか、スコルさんは息を荒げていた。
私達はスコルさんに拍手すると、キョトンとしたスコルさんだったが、フッと笑った。
「あ~、もう倒れるじゃん!絶対倒れるよ!」
さっきの揺れ見た?!と大声で言うアクア。
「まぁまぁ、やってみないと分からないよ?」
うぅ~、と呻きながらもブロックを少しずつずらしていく。途中止まっては、回りを見たり揺れが収まるのを待ったりするアクア。
ブロックを大きくずらした瞬間。
ガシャァァ…
「あぁ!!」
ジェンガが崩れた。傾き始めた時にアクアが手で支えようとしたが、空しくもジェンガは重力に負ける。
「わぁお」
「倒れちゃったね、アクア」
「アクアが倒したー!やったー!」
「ァァアクア!泣かなくていいのよ?!」
倒してしまったアクアは固まったまま一点を見詰める。
「アクア?おーい!アークアー?!」
「うぅ、だから言ったんだよ!倒れるよって!」
何処取っても倒れてたよぉ、なんて言いながらジェンガの後片付けを手伝うアクア。
「そういえば、琴羽は何で、これをやろうって考えたの?」
思い出したようにスコルさんが聞いてきた。
「…んふふ、実はね?クリスマスに皆で見れるイルミネーションないかな~って調べてたの」
皆が手を止めて私を見てきた。
「そしたら、何故かジェンガが出てきて、皆とやると面白そうだなーと思ったんだ」
ジェンガを手にしながら「楽しかった?」と聞くと、皆は頷いたり感想を述べたりする。
「またやりましょ!今度は難易度高めのを!」
私の言葉にえー?と言うウルさん。
「面白そうね!」
ウルさんの嘆きを無視してピスキスさんが笑いながら言う。
「琴羽、楽しかった。ありがとう」
楽しそうに笑う皆を見ていると、私の頭に手を乗せたレオさんが顔を覗き込んでくる。
――私の頭撫でるの好きだなぁ