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12月




 12月に入って3日が経った。

 12月に入ると、商店街でのイベントに使われる券が渡される。ついさっき買い物から帰って来た私は3枚貰った。


「琴羽!またトランプやろう!」

 突然来たかと思ったら、手にしているトランプを見せてくるカンケル。いつもの蟹を主張するような髪飾りはなく、いつものツインテールもない。

「わっ、カンケルって髪長いんだね」

 カンケルが見せてきたトランプよりも、カンケルの髪の長さに驚く。いつものツインテールでは肩に付く位なのだが、今のカンケルの髪は胸の位置まで伸びている。これはこれでまた可愛い。


「トランプって、私とカンケルだけで?」

「うん!やろ!」

 カンケルは私に抱き付いてきて腰に手を回す。カンケルの上目遣いにやられた私は即答してしまった。


「で、2人だけで何やるの?」

 テーブルに座っているカンケルに訪ねる。カンケルはトランプをシャッフルしながら答えた。

「スピード!」

 即答したカンケルはトランプを配りながら遊び方を説明する。

「えっとね、分けた手札から5枚をテーブルに置くの!表側が見えるように置いてね?」

 カンケルの言葉に丁寧に従う。

「お互いに手札から1枚を真ん中に置くの!これは裏側にしておいてね?せーのっで捲って、順番に置いていくの!13の場合は12か1を置けるんだよ!」

 ドヤ顔で説明するカンケルが可愛くて、今更知ってるなんて言えない。

「手前に置いたトランプは常に5枚にしておくんだよ?そこから出せるの出して、先に手札が全部なくなった方が勝ち!」

 分かった?と聞いてくるカンケルはドヤ顔で私を見る。ニヤニヤしながら分かった事を伝えると、カンケルはあまりしない正座に座り直して、準備を整える。

「「せーのっ」」





 何回やったのだろうか。カンケルも私も笑いすぎて疲れた。

「ふーっ…カンケル、笑いすぎ」

 整っても尚、カンケルの笑い声に釣られて笑ってしまう。

「ふーっ、カンケル笑わないで…笑っちゃうから…」

「だって、琴羽、んふふ、あっははは!はははは!もー!やぁだぁー!琴羽面白ーい!ねー?ワター!」

 カンケルは面白い事を共有したいのか、ワタに話し掛ける。何の事か分からないワタは何故か体を伏せてしまった。


「ふーっ…はぁー、カンケルまたやる?」

 やっと笑いが収まった私は、カンケルにもう1回やるか訪ねる。

「んーん、もういいや!カンケル疲れたー」

 ベッドに寄りかかって伸びをするカンケル。カンケルの疲れを癒すようにワタが近づく。

「ワター、んふふー、可愛いなぁーワータ!」

 カンケルと私のコップにジュースを注ぎながら聞こえてくるカンケルの声。

「いたっ」

 突然、カンケルが驚いたような声を上げる。注ぎ終えたコップを持ちながらカンケルを見る。

「琴羽ー、ワタに引っ掻かれたー」

 涙目なままで手の甲を見せてきた。そこからは少しばかり血が出ていた。

 よく料理で手を切ってしまう私は、慣れた手付きで絆創膏を取り出す。傷口を軽くティッシュで拭いて絆創膏を貼る。


「ワター、爪見せてねー」

 前に友達から教えてもらった通りに肉球を押す。すると、長く鋭い爪が姿を表す。

「わー、カンケル見て、この爪の長さ!」

 後ろから覗き込んでくるカンケルにワタの爪を見せる。カンケルの髪が私の太ももを擽る。

「わー!ホントだー!ワタの爪長ーい」

 どうするのー?と聞いてくるカンケルに、あるものを棚から取り出して見せる。

「爪切り&ヤスリセット~!」

 某有名なロボットのように道具名を言う。心の中だけでBGMを流しながら見せたそれに、カンケルは首を傾げて復唱する。

「説明しよう!その名の通り、ワタ専用に買ってきた爪切りとヤスリのセットだよ!」

 説明し終えた私は、カンケルを見やる。カンケルは目を輝かせて拍手をする。

「カンケルやりたい!」

「最初は私が手本見せるね?」


 ワタを抱えてベッドに座る。その横にはカンケルが座ってワタを見る。

「猫は爪切りが苦手なんだって。だからあまり爪切りを見せないように、怖がらせないようにして切らないと嫌いになって暴れるんだって」

 そーなんだ~、と関心するカンケルはワタを怖がらせないように頭を撫でる。

「爪切るときに眉間を軽くトントンすると大人しく切れるって友達が言ってたの、協力してもらえる?」

 元気の良い声で返事をするカンケル。

「じゃあ切るよー」

 ワタの肉球を押すと再び姿を表す伸びた爪。爪切りを見せないようにカンケルが目線を持っていく。私もあまり怖がらせないように鼻歌を歌いながら爪を切っていく。

 始めてやったにも関わらず、ワタはあまり暴れる事もなく無事に半分を終えた。


「いい?カンケル。ここに薄くピンクがあるのが分かるでしょ?そこから下は切っちゃ駄目なの」

 頷きながら私の話を聞くカンケルの顔は、真剣な顔付きだった。

「人間と同じだね!ピンクの部分は神経なんでしょ?」

 そうだねー?と話ながらもう半分も切っていく。

 切った後は、ヤスリで軽く滑らかにして爪切り完了。


「そういえば、何でいきなりトランプ持って来たの?」

 ワタの爪切りも無事に終え、まったりと過ごす。

 え?と聞き返したカンケルに同じ質問をする。

「一緒に遊べる人なら私の他にも11人もいるのに、何でカンケルは私と遊んでくれたの?」

 私とじゃなくても遊んでくれそうな人は沢山いる。カンケルは皆から愛されてるから、カンケルの誘いを断ったりしない筈だ。

「だって琴羽と遊びたかったから!」

 天使がいたようだ。


「あとね?皆には内緒にしてほしいんだけど、今カンケル達の中でスピードが流行(はや)ってて良くやるんだよ。でもカンケル、全然勝てなくて…」

 下を向いてしまったカンケル。今日は髪が長いままの為、表情が見えない。

「強くなりたくて、皆には内緒で強くなろうと思って…」

 下を向いていた顔を上げて、カンケルは思いの丈を叫ぶ。

「お願い琴羽!皆に勝ちたいの!私にスピードのコツを教えて!」

 私の手を取って懇願してくるカンケル。髪が長いせいか、いつもより大人に見えるカンケルにドキッとしてしまった自分がいる。


「よし!じゃあまたスピードやろっか!」

「え!いいの?」

 カンケルのその気持ち分かるよ。私も昔、お姉ちゃん達と良くスピードをやった。でも、1勝も出来ぬまま一番上のお姉ちゃんはお母さんに着いて家を出ていってしまった。出ていってしまった寂しさも、勝負事で1勝も出来なかった悔しさは知っているつもりだ。


「じゃあ始めるよ?」

「うん!」

「「せーのっ!」」





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