ワタ
ワタを来てから1週間が経った。必要な物はネットやペットショップで買い、私が仕事の間は皆が見てくれている。
ワタは、私が仕事から帰ってくると真っ先に玄関に駆け寄ってくる。玄関の扉の音に反応しているのか、短い足を懸命に伸ばして駆けてくる姿はとても可愛い。
現に今も、帰って来てすぐに猫じゃらしで癒されている私がいる。
そんな私達を、いつの間にかカメラの使い方を知ったタリウスさんやアクアがこっそり撮っているのを知っている。
「さて、癒されたし、夜ご飯作りますね」
抱っこしていたワタをタリウスさんの膝に乗せて立ち上がる。
タリウスさんは、戸惑いながらもワタの背中の撫でている。少し怖い顔をしていたタリウスさんだったけど、撫でるうちにだんだんと穏やかな表情へと変わる。
夜ご飯を作る最中、後ろからタリウスさんとカンケルの声、それからワタの鳴き声が飛び交うのをニヤニヤして聞いていた。
「ワター!ご飯だよー」
私の夜ご飯をテーブルに置くと同時に、カンケルもワタにご飯を与える。
ペットショップで買ってきたワタ専用のお皿に、ドライフードを皿八分目まで開ける。カンケルの声に反応したワタは、タリウスさんの膝を降りて皿に駆け寄る。待ってました!と言わんばかりの食べっぷりで、食べ初めて3分で完食してしまった。
「カンケル、あまり上げないようにしてね?」
無くなったお皿に同じ餌をあげようするカンケル。軽く注意するといつもの明るい返事をする。
「あ、そういえば今日、黒猫さん来ましたか?」
私の問いにタリウスさんとカンケルが首を傾げる。
「ネコちゃん?」
「あ、宅急便です!段ボール持った人!」
慌てて訂正すると、思い出したようにハッとする2人。
「来たぞ。名前を書くように言われたから琴羽の名前を書いて段ボールを受け取ったんだ、良かったか?」
タリウスさんの問いに安心して頷く。
「しかし、琴羽の名前を漢字で書こうとして忘れてしまったんだ」
もう一度教えてくれるか?と言いながら紙を出してきたタリウスさん。箸を置いて手渡してきたシャーペンを握る。
浦 口 琴 羽
黄道12宮の皆が来てすぐ、3ヶ月前にもこうやって書いた事を思い出す。
「あぁ、そうだ、そう書くんだよな」
私が書いたのを見て思い出したタリウスさん。
「名字はちゃんと書けたんだけどな、名前を書く時にふと忘れてしまったんだ」
咄嗟に考えたんだが、結局平仮名で書いたんだ。そういったタリウスさんの顔は少し赤くなっていて、恥ずかしそうに頬を掻いた。
「えー?なんでー?いつも琴羽って呼んでるじゃん!」
ワタの頭を撫でていたカンケルが顔を上げてタリウスさんに抗議する。タリウスさんは笑いながらカンケルと私に話す。
「普段呼んでいても、いざ漢字で書こうとしても無理だな」
俺もまだまだだ。なんて話すタリウスさんは懐かしそうに目を細めて私を見る。私もカンケルも訳が分からず2人で顔を見合わせる。
「タリウス変なのー」
夜ご飯を食べ終えた頃には、カンケルが眠そうに首を漕いでいた。
「カンケル、ほら、帰るぞ」
ベッドで寝ようとしているカンケルをタリウスさんが抱っこする。
「ん~!やぁだ!まだワタと遊ぶ!琴羽と寝たいぃ!ん~」
駄々を捏ねるカンケルを宥めるように背中をトントンする。そうすると、駄々を捏ねていたカンケルが少しずつ静かになる。
少しすると完全に寝たようで、タリウスさんが私に顔を向けて話す。
「すまないな、いつもいつもカンケルが駄々捏ねて」
困ったように笑うタリウスさんは、抱っこしているカンケルを抱え直す。
「いえいえ、駄々捏ねられる事って以外と嬉しいですよ」
カンケルを抱っこしてるにも関わらず、左腕を伸ばしてくるタリウスさん。
「何か最近、レオさんやタリウスさんに撫でられるの多い気がします」
タリウスさんに頭を撫でられながら最近の事を思い浮かべる。
「ハハッ、琴羽の頭は撫で甲斐があるからな」
「何ですか、その理由」
2人して笑い合っていると、寝ていたカンケルが小さく身動く。
「琴羽、おやすみ」
「はい、おやすみなさい」
タリウスさんは、カンケルを抱え直すと帰って行った。




