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犬派?猫派?



 ゲミニさん誘拐事件から3日経った今日は月曜日。

 誘拐事件を1日で解決させた次の日、ゲミニさんが異議を申し立てて来た。

「僕も呼び捨てで呼んで!」

 と言いながら抗議してきたゲミニさんは、頬を膨らませながらドンドンと私の体を叩いてくる。その姿にキュンときた私は、ゲミニさんを抱き締めた。ゲミニさんはそれを肯定したと思い込んで、私に詰め寄った。

「これからはゲミニって呼んでね!!」

 かくして、カンケルともゲミニとも仲良くなれた私だった。



 そんな事を思い出しながら、職場までの道のりを歩く。すると、何処からか可愛らしい鳴き声が聞こえて来る。

 少し歩くと、電柱の影に隠れるように猫がいた。猫は段ボールにいて、寒そうに震えていた。

「可愛い~!寒いねぇ?震えてるぅ!可哀想に…」

 ニャーニャー鳴く猫は大人ではないらしく、体が小さい。こんな寒空の下に段ボールだけが寝床になってしまっている猫は可哀想だ。どうにかしてあげたいが、生憎私には今時間がない。もう少ししたら始業時間になってしまう。

「ごめんねー?私これから仕事なのー。にゃーちゃん、バイバーイ」

 少し名残惜しいが仕方なく猫と別れて職場に向かう。





「あら、浦口さんの弁当、今日はタコさんなのね」

 昼休憩時、弁当を食べながら今朝の猫の事を思い出していると、向かい側に座っていた新井さんが弁当を覗き込んできた。

 私の弁当には必ずウインナーを入れる。それを見つけたのだ。タコさんだったりカニさんだったり、チューリップだったりそのままだったり。好きに弁当を作る。

 ちなみに今日の弁当は、タコさんウインナーにプチトマト、竹輪(ちくわ)胡瓜(きゅうり)詰めと、昨日の残りの鮭の西京焼き。マヨネーズ持参で、デザートはキウイと休憩室に置いてある蜜柑(みかん)


「浦口さん、最近料理上手くなってきてる?」

 今度は隣に座って食べていた河井さんが覗き込みながら話し掛けてきた。

「…そうですか?」

 少し怪訝そうに訪ねると、首を縦に降りまくる。

「鮭はそれ、西京焼きですか?」

 河井さんの前に座って食べていた飯村さんが訪ねてきた。

「うん、そうだよ」

 私がそう言うと、飯村さんは小さい声で「美味しそう…」と呟く。


 飯村さんの眼差しに耐えられなくなって食べるかどうか聞くと、いいんですか?!と言わんばかりの笑顔を向けられる。おかずの容器を差し出すと、それを片手で受け取った飯村さんは切り身を解して一口。

「あ~、この味!美味しいですー!」

 そういった飯村さんに、続けて新井さんと河井さんも一口食べる。

「おっ、ホントだ!これ味付けは?」

 新井さんは味付けを私に聞いてくる。河井さんも頷きながらまた一口、また一口と口に運ぶ。

「えー?普通ですよ?サイトで見つけたのを真似(まね)ただけなので検索したら出てくると思いますよ」

「へー、コックパット?」

 新井さんの質問に一言で答えると、再び弁当に目を戻す。

「…あの、私のおかずが…」

 戻ってきたおかずに容器には、西京焼きがもう少ししかなかった。食べたかったのにな。





 定時を30分過ぎると残業の人以外が退勤されて、私も同期の人と退勤する。

「そういえば、先週の金曜日、突然早退したらしいけど、どうしたの?」

「あっ、えっと」

 何と言えばいいのだろうか。

「うーっんとねー」

「…気分悪くなっちゃったの?」

「そう!そうなの!」

 吐き気がね、と苦笑いして誤魔化すと納得したようで、大丈夫だった?と聞いてくる。

「うん、何とか。帰ってすぐ寝たよ」

 浮かない顔をしてる同期を安心させるように、笑顔で言うと表情が和らいだ。


 同期と別れて少し歩くと、思い出させるように今朝聞いた鳴き声が聞こえてきた。

「あらー、今日1日、誰にも拾われなかったかー」

 段ボールを寝床にしている猫を前に、私はしゃがんで猫に話し掛けるように呟く。

「…男?」

 猫に問い掛けるように話すが、猫は何も返さない。

「…女?」

 性別が分かればいいんだけどなぁ。


「ニャァ」

 か細い鳴き声に驚く。

「可愛らしく鳴くねー?」

 そう言うと、猫は顔を伏せてしまう。ニャーと鳴き真似をすると、フイッと此方を向くが、また目を反らす。

「寒いでしょ?お(うち)帰りましょうねー?」

 そう言いながら段ボールごと持ち上げる私は、首に巻いていたマフラーを猫の近くに置く。少しして目線を落として見てみると、くるまるようにして温まっていた。



「猫だもん!」

 玄関の扉を開けると同時にカンケルの大きな声が私の耳に入ってくる。

「犬だよ!!」

 ゲミニと言い争っているのか、2人の声がいつにも増して大きい。いつもは玄関まで迎えに来てくれるのに、今日は無いことにショックを覚える。

 猫が温まっている段ボール箱を部屋の手前に置いて、部屋の扉に手を掛ける。


「あっ、琴羽ー!」

「おかえり!琴羽!」

「ただいま、カンケル、ゲミニ」

 駆け寄ってきたカンケルとゲミニの背中に手を置いて答える。部屋にはカンケルとゲミニの他に、タリウスさんとバルゴがいた。

 タリウスさんとバルゴにも同じようにただいまを言うと、未だに言い争っているカンケルとゲミニを宥める。


「どうしたの?カンケル、ゲミニ」

 2人がどうして言い争っているのか、理由を訪ねる。

「…猫が一番だよね?!」

「犬が一番!」

 またしても言い争いを始めてしまった2人は、私の事を忘れたかのように犬だ!猫だ!と大きい声で言い合う。

 何がなんだか分からない私は、ずっと見ていたであろうタリウスさんとバルゴに話を聞く。


「テレビでやってたのよ、家で飼うなら犬か猫かっていうテーマのインタビューを」

「それをマジマジと見たと思ったら、ああやって言い争いが始まったのだ」

 詳しく教えてくれた2人は、苦笑いをしながら私を見てきた。

「…なんで止めないんですか」

 誤魔化すように笑うバルゴと、すまないな、と笑いながら言うタリウスさん。

 

「カンケル!ゲミニ!おいで!」

 未だに言い争うカンケルとゲミニを呼ぶと、(しか)めっ(つら)したままで私の下へ掛けてくる。2人に笑顔を向けると、何何?と言った風に首を傾げる2人。

「んー、私は動物が好きだし、猫も犬もどっちも好きだよ?でもね、強いて言えば猫派なんだよね、ゲミニごめんね?」

 私の意見を話すと、カンケルは笑顔で何度も頷く。ゲミニは頬を膨らませて目に涙を溜まっていく。

 ゲミニが泣くより先に、私は部屋の手前に置いといた段ボール箱を運ぶ。

 テーブルの上にそれを置くと、部屋にいる皆が中を覗く。


「猫だぁー!!」

「あらホント、どうしたの?この子」

「フフッ、ちっちゃくて可愛いな」

 段ボール箱の中身を覗いた3人は、各々の感想を述べる。カンケルの大きい声に驚いた子猫ちゃんは少し後退(あとずさ)る。子猫ちゃんを見詰めるバルゴの横で、タリウスさんがゲミニに問い掛けるが、涙を溜めすぎた目からは涙が溢れ落ちていた。

 結局泣いてしまったゲミニは、鼻水が落ちてこないようにするがもう遅い。ティッシュを2枚程取った私は、それでゲミニの鼻を覆う。少し嫌がるゲミニを他所に、私は鼻水を拭き取るとゲミニに問い掛ける。


「ほら、ゲミニ見て?可愛いよ?」

 ゲミニに段ボール箱の中を覗くように促すと、ゲミニは少し見て小さく呟いた。

「…可愛い」

 優しく抱っこしてごらん?と言うと、恐る恐る手を伸ばす。

 ズルいー!あたしも抱っこするー!とカンケルがゲミニに言う。優しく抱くんだぞ!と言うタリウスさんと、私も抱きたいなーと言うバルゴ。

 私はというと、スマホのカメラ機能で写真を撮ると、猫に詳しい友達に送る。





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