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涙と勇気



 誘拐犯の家で泣き出したゲミニさんとスコルさんを宥めた後、私達は公園に戻った。

 公園には、誘拐犯が座り込んでいて、誘拐犯の周りにはレオさんとタリウスさんが立っていた。少し離れた所にアクアとアリエルが女性陣を守るように立っていた。


 私とスコルさんが家に行った後、何故誘拐したのかを話したらしい。誘拐犯、もとい根本さんが会社をクビになったのがきっかけで、別の会社に再就職しようとするも、5社受けて5社落ちた。落ち込んでいる時に、ハロウィンでコスプレしたゲミニさんを見つけたらしい。

 お金があってゲミニさんがいれば良かったと話した。面接受からなくてもゲミニさんを見て癒されるし、誘拐として取ったお金で少しは生活出来るだろう。と言う実に馬鹿げた理由だ。

 そんな馬鹿げた理由を思い付いた根本さんに言ってやった。

「馬鹿じゃないですか?!まず、5社落ちたからって誘拐しよう!ってなりませんよ!確かにゲミニさんは見てるだけで癒しになりますけど、お金はすぐになくなりますし、どうせお金なくなったらまた同じ事をするんですよね?!そんな馬鹿げた理由でゲミニさんがどんだけ怖い思いしたと思ってるんですか?!泣いたんですよ?!」

 根本さんは俯く。それが気に入らない私は、根本さんの胸ぐらを掴んでいた。


「誘拐する暇も勇気もあるんです!何でそれをもっと大切な事に使わないんですか?!」

 後ろからレオさんらしき声が聞こえるが、それをも無視して根本さんを睨み付ける。

 掴んでいた胸ぐらから手を放すと、力なく地面に座り込む根本さん。

 力なく座り込んで俯いている根本さんに、警察には言わない事を伝えると、ゆっくり顔を上げる。

「…なんで…?」

 問い掛けてきた根本さんに笑顔を向けながら言う。

「普通なら言うんでしょうけど、ゲミニさんの寝顔に免じて言いません。でも!またやったりしたら駄目ですからね?」

「…はい、分かりました。ありがとうございます…」

 泣きながら感謝された私は、後ろにいたレオさんに頭を叩かれた。

「いっ、たいですよ!レオさん!」

「馬鹿な事を考える頭だなと思ってな」

 レオさんはさっきまでのしかめっ面とは違い、安心しきった顔で私を見る。少し悲しげにも見えた私は不思議に思った。


「あ、待ってください!」

 私達がわいわいと話している間に、根本さんは公園を出ようとしていた。それを見つけた私は、根本さんに声を掛けて、ずっと置いてあった鞄を持って駆け寄る。中に入っている紙幣を5枚手に取ると、根本さんに見せる。

「これ、少ないですけど、何とかなりますよね?」

「えっ、でも!」

 明らかに動揺した根本さんの手を取って、根本さんの(てのひら)に置く。

「…いいのか?」

 後ろから入ってきた声に頷くだけで、根本さんから目線を外さない。

「頑張れば受かりますよ」

 笑顔のまま根本さんにエールを送る。

「…ありがとう、ございます」

 根本さんはちゃんと受け取ると、俯いて感謝の言葉を言う。それから根本さんは少し軽くなった足取りで家まで帰っていった。



 私のベッドには、泣き疲れて寝てしまったゲミニさんとスコルさん、それに誘われるようにカンケルさんも一緒に寝ている。

「はぁ、まじで可愛い」

 それをスマホで撮る私。


「一件落着だな」

 紅茶を飲みながらレオさんが言った一言は、とても穏やかな声色だった。

「ほんとね、ゲミニも無事帰ってきたしね」

「トラウマにならなければいいのだが」

「そうね」

 今私の部屋にいるのはゲミニさん達の他に、レオさんとピスキスさん、それからタリウスさんとバルゴの4人。


「泣き跡…沢山泣いたのね、ゲミニ」

 寝ているゲミニさんを見て独り言のように小さく呟いたピスキスさんは、少し悲しげだった。

「目、少し腫れてるね」

 一緒に見ていたバルゴも小さく呟く。

「少ししたら腫れも引くだろう」

 レオさんはゲミニさんの髪を撫でながら二人に言う。レオさんの穏やかな顔を見て、ピスキスさんもバルゴも表情が変わる。

「寝ている人の近くではあまり声出すなよ。ゲミニ達が起きてしまうだろう?」

 紅茶を飲んでいたタリウスさんが3人に注意を促す。しかしその顔や声は、とても穏やかで、静かにこの部屋で消えていく。




 夜中、次の日が休みな為、少し夜更かしをしている時に彼女は来た。

「カンケルさん、どうしたの?1人で来たの?」

「私もいるわよー」

「ピスキスさん!寒い!」

 彼女、もとい彼女達は何故か突然来た。


「カンケルがお話したいって言ってたの」

「ぅ、うんっ」

 カンケルさんを前に出すように背中を押すピスキスさんは、少し楽しげに笑う。

「どうしたの?炬燵(こたつ)どうぞ」

 寒いでしょ?と言った風に首を傾げると、私の向かい側に座る2人。

「何か飲み物は」

「いい!」

 私が全部言い切る前にカンケルさんが食いぎみに声を重ねてくる。戸惑いながらもピスキスさんにも同じように聞くと、大丈夫のようで、首を横に振る。常時笑顔のままでいるピスキスさんを少し不気味に思った。


「…えっと?カンケルさんどうしたの?」

「ぁ、あのね?あたしの話、聞いてくれる?」

 カンケルさんの問いに笑顔で頷く。

「今日、は…ありがとう!あのねあのね!琴羽!すっごくかっこ良かったよ!ゲミニの事、助けてくれたありがとう!根本さん?の、服を掴んで叫んでる時にね、琴羽の顔が少しだけ怖かったの。でもね!かっこ良かったよ!だからね、琴羽にね、これ上げたいの。はいっ!」

――天使!!嬉しすぎる!!

 悶えるより先に、カンケルさんがあるものを渡してきた。笑顔の人が沢山描いてある絵。カンケルさん曰く、私達を描いたらしい。クレヨンで描いたのだろうか、少しだけ色が歪んでいる所がある。

「晩御飯食べた後にね、一生懸命描いてたのよ」

 ピスキスさんの言葉を頭に入れながらも、カンケルさんが描いてくれた絵を隅から隅まで見る。


「ほら、カンケル、他にも言いたい事、あるでしょ?」

 カンケルさんが描いてくれた絵を見てニヤニヤする私を他所に、カンケルさんはまだ私に言いたい事があるらしい。

「ん?何?カンケルさん」

 ニヤニヤした顔をカンケルさんに向けると、カンケルさんが口を開く。

「あたしもね、昔、ゲミニと同じ体験をしたの。誘拐されてね、服を脱がされてね…」

 カンケルさんが話始めた内容はニヤニヤしながら聞けるものじゃなかった。

「突然ね、変な所に閉じ込められてね、髪を縛ってたゴム取られて、変な所触られて…」

 ニヤニヤしていた顔が少しずつ険しい表情になっていくのが分かった。

「嫌だとか、やめてって言っても、止めてくれないし。痛い事や、嫌な事ばかりされて…」

 カンケルさんの話を聞きながら、カンケルさんの目に涙が溜まっていくのが分かった。

「怖くて、泣いたらね、止めてくれたの。でも、カシャッていう音が聞こえて、そこ見てみたら、琴羽が持ってるカメラっているのを持っていて…」

 初めてカンケルさんを撮ろうとした時を思い出した。あの時のカンケルさんの怯え顔と、ピスキスさんやレオさんが私を止めようと必死になった時を。カメラが苦手な理由はそういうことだったんだ。


「どらないでって、グズッ、言うのに…何度も、どられでぇ、ごわぐで…」

 カンケルさんが泣きながら語るのを見ると、私も涙が出てきた。私は我慢しなきゃって思っても、それは目を離れて頬を伝う。

「とうじ、優しい人が、皆を連れて、助けてくれたの。でもあだじ…ヒック、皆に触られるのがこわぐで、バチって、腕たたいちゃっで、ごめんなさい、したの」

 視界の端でピスキスさんも静かに涙を流していた。

「そしたらね?…当時の人に抱き締められてね、大丈夫って…背中、トントンしてくれたの」

 当時の事を思い出したのか、涙を流しながら少しだけ笑顔が出てきている。


「あたし、琴羽ともっと、仲良くしたいっ!」

 気付いたらカンケルさんが私の手を強く握っていた。

「カンケルさん…うん、私もだよ!」

 カンケルさんの言葉に答えるように、私も手を強く握り返した。

「私には、当時の優しい人みたいに、宥める事は出来ないと思う。でも、カンケルさんがどれだけ辛い思いしたかは分かる。実は私も、昔誘拐された事があるの」

「えっ!あるの?」

 カンケルさんに言ったつもりが、カンケルさんより早くピスキスさんが反応する。 

「はい。確かー、9歳ぐらいだったかな?私が小学入った頃に親が離婚しちゃって、友だちもあまり居なかったからよく1人で遊んでたんですけど、その時に」

 苦笑いしながら話すと、カンケルさんが私の顔に手を伸ばす。

「…カンケルさん?」

――カンケルさんの腕が震えている?

「よしよし、する」

――天使!! 

 思わずカンケルさんを抱き締めると、頭に手が置かれている気がする。


 その後、カンケルさんとは呼び捨てで呼び会う事を約束に、カンケルさんとピスキスさんは帰っていった。




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