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事件?!



 ある日、仕事をしてる時にスマホが振動するのを感じる。いつもなら2回程で止まるサイトからのメールばかりだが、今日は違うみたいだ。

 胸ポケットに閉まっているスマホを取り出して見ると、家からの電話だった。

「ん?電話?」

 隣で作業していた同期の人が、覗き込んでくる。

「出ていいよ?」

 家からの電話を疑問に思っていると、同期の人からの了承を得た。

 黄道12宮が来るより前から買っておいた固定電話は、あまり使う事が無かった。しかし、黄道12宮が来てからは何かあった時用に、レオさんだけに掛け方を教えておいたのだが、嬉しい事に緊急事態な事が何1つも無かった為、掛かってきた試しがない。

 掛かってきたという事は何かあったという事だ。


「…もしもし?」

『遅い!もっと早く出ないか!』

「いや仕事中だったんで!」

『ゲミニが誘拐されたんだ!!』

「…えぇぇ!?」

 突然の大声に近くにいた人がこちらを向くのが分かったが、今はそれ所じゃない。

「どういう事ですか?!ゲミニさんが…えぇ?!」

『本当なんだ!!手紙が置いてあったんだ!』

「手紙?なんて書いてあるんですか!」

『今すぐあるだけのお金を用意しろ。警察に連絡したら男を殺す。今から3時間後に近くの公園に持ってこい。』

「…それだけですか?」

『あぁ、今すぐ帰って来てくれないか?』

 きっと電話をしているレオさんの眉は下がっているだろう。

「レオさんと誰がいるんですか?」

『ゲミニ以外が琴羽の部屋にいる』

「…分かりました、すぐ帰ります」

 電話を切ってすぐ、上司に早退する事を報告する。有無を言わせないように早口で言って、駆け足で逃げるように帰る。



「っレオさん!」

 全速力で走ってきた私は、勢いよく家の扉を開ける。玄関近くに立っていたレオさんと目が合う。

「琴羽!」

「ハァ、ハァ、最後にゲミニっ、さんを、見たのは誰、ハァ、なんですかっ」

 息を整えながら皆に聞く。

「多分、俺とスコルだ」

 レオさんの言葉にスコルさんもそうだと言わんばかりに首を振る。

「私とゲミニとレオの3人で公園に遊びに行ったの。3人で公園に着いたんだけど、レオが寒いからって3人分の上着を取りに戻ったの。その間に二人でシーソーに乗ってたんだけど、帽子を被った男の人が私達に道を聞いてきたの。でも私達、あまり詳しく知らないから地図ないか周り見渡したんだけど、その一瞬をついて、ゲミニを乱暴に背負って走ってったの。訳分からなくて、とりあえずゲミニが嫌がってるのは分かったから助けようと走ったの。追い付いたのはいいけど、押し飛ばされて…痛みに耐えて周りを見渡したらもういなくて…」

 スコルさんの腕をよく見ると、絆創膏が貼られている。しかしそれは、傷がでかく、絆創膏では小さすぎるのが見て分かった。


「俺が公園に戻るとスコルもゲミニも居なかったんだ。何とかスコルの姿を見つけたんだが、放心状態ですぐ近くの細道に座り込んでたんだ」

 スコルさんの腕の傷を丁寧に手当てしながらレオさんの言葉を聞く。

「…はい、これで大丈夫、あまり腕動かさないで下さいね」

 小さい声でありがとうはいつもより弱々しい。

「私達は、治りが早いから大丈夫なのに、ごめんね琴羽」

 申し訳なさそうに言うスコルさんはいつも見せてくれる笑顔ではなく、作り笑いのように見えた。

「…でも痛いでしょ?怪我した事に変わりはないんだから、我慢しなくて大丈夫です」

 スコルさんは少し下を向く。


「痛いっ、痛いよっ、痛いし、悔しいっ!…いつもっ、ゲミニとは、ンクッ、手を繋ぐようにしてるのにっ、手を離しちゃってた!…もっと私に、力がっ、あればっ、ゲミニをだすげるごと出来たのにっ、グスッズッ、ハァァッ、ごめんなっ、さいっ、ごめんなさい!ゲミニよりお姉さんなのにっ!守るってっ、ゲミニの事は守るってっ決めたのっに、…ごめんなさい…ヒッ…うぅ」

 皆がカンケルさんに対して穏やかな目で見てるのが分かったと同時に、ゲミニさんに対しても同じ目で見てるのが分かってた。ゲミニさんもカンケルさんも、同じだから。無邪気で、天真爛漫、二人共そんな言葉が似合う。だから皆が同じ目で二人を見る。

 スコルさんの思いに周りの皆が俯いたり、涙目だったり、もう泣いてたり、皆が同じ事を思っていることは分かった。


「…今から銀行行ってお金出してきます」

 どうにか泣かないように耐えた所である作戦を思い浮かべる。

「っなっ!何バカな事を考えてるんだ!」

「そうよ!琴羽、確かにゲミニが心配なのは分かるけど、ある分全部を出すなんて駄目よ!」

 突然慌て出す二人を宥めて、皆に作戦を話す。

「大丈夫です!作戦を伝えます!」






 ある分のお金を鞄に積めて、皆に作戦の最終確認をする。

「…ねぇ、やっぱりやめよう?あたし怖い…」

 鞄のジッパーを閉めると、カンケルさんが口を開く。さっきまで泣いていたせいで、カンケルさんの目が赤くなっている。

「カンケル、大丈夫よ。カンケルは私が守るわ」

 また泣きそうになっているカンケルさんをピスキスさんが抱き締める。

「カンケルさんはピスキスさんといた方がいいかもですね」

 抱き締め合う二人は共に天使に見えた。


「準備運動は済んだか?」

 家の前で伸びをしているとレオさんが話しかけてきた。

「もちのろんです!もういつでも行けます!」

「餅?」

 準備万端の事を伝えるとレオさんは微笑んで私の頭に手を置いた。

「すまない、琴羽」

 少し寂しさが降り混じったそれは、前に見た微笑みとは違った。頭を撫でられる感覚は久し振りで、恥ずかしさと(くすぐ)ったさを半分ずつ感じる。

「謝らないで下さいよ、いつものレオさんのが私は好きです」

「なっ、…フンッ」

「あっは、照れてるぅー!レオさん照れてるぅー!」

 私の可愛さに気付いちゃいましたー?と顔を覗くと、見るな!と言わんばかりのデコピンを喰らった。耳まで真っ赤な癖に。めっちゃ痛い。


 誘拐犯からの手紙が来てから2時間半を過ぎた。

「そろそろ公園行きましょう」

 暖かくなるぐらいに走った私は、部屋に戻って皆に作戦実行の狼煙(のろし)を上げる。

「絶対にゲミニさんを助けましょう!」

「琴羽の場合、それだけじゃないよな」

 格好良く決めようとしてアクアに余計な一言を言われてしまう。

「さっき外で『ゲミニさんを誘拐した奴ぶっ殺したる』って言ってたでしょ!」

「わあぁぁぁぁ!やめてぇぇぇ!」

 聞いてたの?!わぁぁ、何であんな事言ったんだ私!!

「ほぉ、ぶっ殺すか、俺も手伝おう」

「俺は力が強いからな、本気になれば骨折れるぞ」

「手伝わなくて大丈夫です!てかしないで!捕まっちゃいます!」

 レオさんとタリウスさんが手の骨をポキポキと鳴らす。

「ふふっ、それだけゲミニが心配なのよね?」

 ピスキスさんの言葉に焦りぎみに「そうです!」と言うと皆して笑った。

 最終的な目的はゲミニさんを無事助ける事!

「まぁ、琴羽がこんなに燃えてるんだ。ゲミニを無事に助けるぞ!」

 大声で言ったレオさんの言葉に皆が「オォ!!」と言う。流されてしまった私は、言った後で思い出す。

「私がやりたかったぁ!!」



 予定の時間より20分早く公園に着いた私達は、作戦通りに行動する。

「スコルさん、犯人は向こうから来たんですよね?」

 公園には2つの出入口がある。私達が入ってきた道路側と、犯人が来るであろう商店街側。スコルさん曰く、誘拐犯が歩いてきたのは商店街側だと言う。

「うん、向こうから来て、逃げる時も向こうに逃げてった」

 それだけ言うと、バルゴに連れられて来た道を戻るように出入口に身を潜める。公園を囲むように建てられている塀はギリギリ身を潜められる高さだ。

「リブラさんごめんね、一番危険な所に隠れる羽目になっちゃって。見つかったら全力で逃げて?」

 リブラさんが隠れる所は商店街側の出入口に近い公園の看板の裏だ。看板が地面近くまでの広い看板だから良いが、良く見ると足が映えてるように見えてしまう。

「大丈夫。琴羽みたいに、見つかったら股間蹴るから」

 自信ある!と言った顔をしながら帰って来た言葉に苦笑いをする。見つからない傾向でお願いします。リブラさんは駆け足で看板の裏に向かう。

 

「レオさん、背中見えてます」

 公園を見渡すと、ベンチからレオさんの背中らしき物が見えた。若干髪も見えていた。

 リブラさん以外の男性陣は道路側のベンチの裏に身を潜めている。

「何故、俺がこんな所に身を潜めなければいけないんだ」

「ゲミニさんを助ける為です」

 いいんですか?ゲミニさんが何処の誰かも知らない人にあんな事やこんな事をさせられて泣いていても。


『やぁ、だぁぁ!やめっ、てぇ…』

『ゲヘヘヘ、可愛いなぁー。もっと泣き顔見せてー?』


「なんて事あってもいいんですか?」

「変態誘拐野郎…殺す…」

――どす黒いオーラが見えるのは気のせいだろうか?


 何とかレオさんのどす黒いオーラと背中が見えないようにすると、金を入れた鞄を公園の真ん中に生えている木の根元に置く。そこから近くの滑り台の頂上に身を潜める。そこから背伸びをすると、塀に隠れているピスキスさん達の背中を確認する。



 皆が身を潜めて10分、3時を少し過ぎた頃、そいつは来た。帽子を被って周りをキョロキョロ見ながら静かに公園内に入ってきた。赤のチェックに、濃い青のジーンズ。思わずオタクか!とツッコミを入れたくなる口を手で抑えて、片目でそいつの行動を見る。

 木の根元に置いた鞄を見つけると、一心不乱に駆け寄り中身をチェックする。テレビで見る誘拐ドラマより少ないが、それでも良いのだろう。微かに笑い声が聞こえる。思っていた笑い声とは違った事に少しガッカリしながら随時観察する。

 誘拐犯は背負ってきたリュックにお金だけを移す。静かな公園内に笑い声と紙が擦れる音が響く。


 滑り台を蹴るように素早く降りると、木の近くまで一気に近付く。

 滑り台を蹴った音に反応して誘拐犯が振り向く。そこそこイケメンならまだ許したのにな。

「何してるんですか?」

 笑顔の私に対して、誘拐犯の顔は歪んでいる。

「っ、なんだって良いだろ。あっち行けっ!」

 焦っているのか、汗が凄い。

「貴方の家、何処ですか?」

 笑顔で訪ねながら誘拐犯に近付く。武器を持ってないのか、拳を作って構える。

「腰が引けてますよ」

 笑顔で言うと同時に、殴り掛かってきた。

 右、左、右、左、キック低っ!何とか全部交わして後ろに回り込むと股間に一発。

「はうぅっ」

 変な声を出すと同時に股間を押さえながら座り込む。


「琴羽っ、大丈夫か?」

 隠れていた男性陣が私達の近くまで駆け寄って来る。

「言え、ゲミニは何処だ」

「答え次第で殴るぞ」

 レオさんとタリウスさんが誘拐犯に凄みながら問いただす。

「ぉ、男の子は俺の家にいるっ!何もしてないっ!」

「お前の家は何処だ」

 誘拐犯が焦ったように言った言葉にレオさんは続けて問いただす。

「…っ」

 突然口を閉じてしまった誘拐犯は何か考えているみたいだ。

 痺れを切らしたレオさんが誘拐犯の頬を殴った。

「レオさん!」


「おい!スコル!出てこい!」

 殴ったと思ったらスコルさんを呼ぶ。スコルさんと一緒に隠れていたピスキスさん達も着いてくる。

「…」

「スコル、お前が見た男はこいつだな?」

 レオさんの問いに静かに頷くスコルさん。スコルさんの顔を見た誘拐犯は俯いている。今になって申し訳なさを感じているのだろうか。

「…ゲミニは何処?」

 小さい声だったが、皆が聞こえた声。勇気を振り絞って出した声だった。

「…俺の家にいます。商店街前のアパートです」

「名前は」

「…根本です」

「私見てきます!」

「スコルも連れてけ」

 私の声にレオさんが反応する。突然の指名にスコルさん自身も驚いている。

 スコルさんの手を取って私は走り出した。


 誘拐犯の言っていたアパートに着いた。

 根本のネームプレートを見つけて、勢いよく扉を開ける。

「…んんー!んー!」

 家の奥の部屋にゲミニさんはいた。手足首を縛られていて、口にはガムテープが貼られていた。

「ゲミニさん!もう大丈夫だよ」

「ゲミニ!良かった…口の取るね」

 手足首の紐を私が、口のガムテープをスコルさんが取る。

 全部が取れたと同時にスコルさんに抱き付くゲミニさん。

「っうあぁぁぁん!ごわがっだぁぁぁ!ズゴルゥゥゥうぅぅ」

 我慢していたのか、抱き付くと突然泣き出してしまった。抱き締めたスコルさんも静かに涙を流していた。




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