たまには家でゆっくり
黄道12宮の皆が家に来るようになって2ヶ月。今は11月上旬の寒い時期。日曜日の何もない日に、こたつでまったりと過ごす今日。
窓の外から微かに聞こえる風の吹く音が静かな部屋に響く。
部屋にいるのは私を含めて合計8人。男性陣からは双子座のゲミニさんと水瓶座のアクア、牡羊座のアリエスと天秤座のリブラさんの4人。女性陣からは蟹座のカンケルさんと牡牛座のウルさん、山羊座のリコルさんの3人。
「さぁ!琴羽ちゃん!引いちゃってください!」
「とっちかがジョーカー…」
私の向かい側に座っているアリエスが、たった2枚の手札をシャッフルして私に差し出す。
右か左か…、己の信じた道を行く!左だぁ!
「!…ジョーカー…」
「やったぁ!」
己の信じた道はハズレだった。
「アリエス!頑張れ!負けるなよ?」
私がシャッフルしている間に、アクアが応援をする。
「分かってるよ!絶対にジョーカー引かない!」
「琴羽!頑張って!私達の担当が掛かってるからね!」
「分かってるよ、任せて!」
今回のババ抜きの条件を思い出す。
『男女対抗!最後にジョーカーを持っていたチームが1週間掃除担当!』
そう条件を出して来たのはアクアだった。そんなアクアは2位抜けで、物凄い笑顔で観戦している。その笑顔を変えてしまうかもしれない。
「さぁ!アリエス!引いて!」
シャッフルし終えた手札をアリエスに差し出す。
「どっちかがジョーカー…」
さぁさぁ!ジョーカーを引いてくれ!頼む!
「…んー、こっち!」
あ!
「やったぁ!勝ったぁ!」
「負けたぁ…ごめんねーカンケルさん」
さっき見たカンケルさん達の顔は笑顔だった。それがどうだろう、眉を下げて少し涙目になっている。
「カンケル達が今週の掃除担当ね!」
笑顔で言うゲミニさんに、涙目だった目から小さい雫がこぼれ落ちるカンケルさんが小さく頷く。
「か、カンケルさん!パズルやりません?!」
カンケルさんの涙に焦った私は、丁度買っておいたパズルを見せて提案する。皆はパズルをやったことがあるらしく、カンケルさんだけでなく部屋にいる皆が反応する。
「やる!」
「…やりたい」
カンケルさんに言った筈が、アクアが先に答える。カンケルさんの涙を拭いていたウルさんが顔を上げる。
「あたしもやりたーい」
何とかカンケルさんの笑顔を取り戻せた所で、トランプを片付けて、パズルピースをテーブルに出す。
「俺ねーパズル好きなんだー。難しいけど嵌めてくの楽しいよねー」
「あたしもー!パズル楽しいー!皆で遊べるからー!」
アクアがパズルの好きな所を言う。それに続くようにカンケルさんも口を開く。
「はいはい、アクアもカンケルもピース探してー?」
そんな二人に対してアリエスが冷静に突っ込む。
枠となるピースを何とか繋げ終えると、完成図の話になる。
「このパズル可愛いね。これイルカ?」
「専門店で買ってきたからねー。イルカ可愛いよねー」
「この絵、全部海の生き物?」
「そうだよー。あ、これ此処だ」
リコルさんとウルさんの質問に答えながらパズルを進めていく。思いの外、カンケルさんが簡単に嵌めていっている。
「ん~、魚がいない所は分かんないしなー」
「あ…よし!」
「う~ん、んー?」
「おっ、嵌まった」
「んー、あ!よし!」
「んー」
「……」
「……」
皆が思いの外真面目にやるのに驚く。
「レオ達呼んでくる!」
暫く考えた後に、アクアが立ち上がっていなくなる。
「え?何で?ちょっ!アクア?!」
アクアが消えた後も戸惑う私に、ウルさんが説明してくれた。
「アハハ、アクアはね、分かんなくなると皆を呼ぶんだよー」
ウルさんの言葉に「えー?何でー」と言う私。出来ればレオさんは呼んで欲しくない。
そう考えていると、アクアがピスキスさん達を連れて戻ってきた。
「またか…」
呆れてため息を吐くレオさん。
「しょうがないわよ」
レオさんの言葉に反応するピスキスさん。
「…ハァ」
何を思ったのか、ため息だけを吐くスコルさん。
「これで4回目だな」
何故か数えているタリウスさん。
「呼ばれたからにはやるしかないわ」
ちょっとやる気のあるバルゴ。
レオさん達を巻き込んでパズルを再開する。
「こういうのは簡単な所から進めてくんだ。例えば、この動物からだな」
レオさんが分かりきった風にパズルを進めていく。
「じゃあ、私はこの動物をやるかしらね」
レオさんの言葉に便乗して、ピスキスさんも進めていく。
「おい、半分青色の入ったピース見なかったか?ここに入ると思うのだが」
レオさんが以外と早く進めていくのにビックリしている私。
「半分青色…?あっはい!」
レオさんの隣に座っていたアクアがお目当ての物を探し当てる。レオさんは受けとったピースを嵌めると、満足そうに顔を輝かせる。まさかのレオさんの顔にビックリする私。
パズルでこんなに驚く事があるだろうか。
「俺の作った所嵌めるぞ」
「私がやってた所も嵌めれるわ」
レオさんとピスキスさんが声を上げる。
「慎重に嵌めてね!慎重に!」
カンケルさんが動かしていた手を止めて、二人に声を掛ける。
レオさんとピスキスさんがやっていた所を嵌めると、やっとパズルの半分を嵌め終える。
「休憩しません?」
丁度パズルの半分を終えたので。そういって立ち上がった私に、皆が声を上げる。
「すまない、頼む」
「そうね~。まだ始まったばかりだけど、疲れたわ~」
「琴羽ー、私紅茶ー」
「何かお菓子も食べたーい」
「こら、我が儘言うんじゃない」
「そうだよ?お菓子ならアクアの部屋に沢山あるでしょ?」
「琴羽ちゃーん、カンケルがジュース飲みたいって言ってますー」
「オレンジがいいー!」
「僕も!飲みたーい!」
「糖分を取ると頭に良いらしいけど」
「じゃあ私もジュースにしようかな」
「じゃあ私もジュース!」
我が儘言って貰えるのが嬉しい私は、皆のやり取りを聞きながらお茶の準備をする。お菓子、何かあったかな?
後ろから皆の話し声や笑い声が聞こえてきて、それを聞いていると穏やかな時間を過ごしているなと感じる。
大人組が紅茶で、子供組がジュース。オレンジジュース買っておいて良かった。
「お待たせしましたー。はい、先にジュースね!それと、お菓子これでいいかな?」
昨日買っておいたポテトをアクアに差し出す。
「うん!皆で食おうぜ!」
「食べよう、な?」
ポテトの袋を手に取ったアクアは皆で食べるよう提案する。
紅茶やオレンジジュースを飲みながら一時休憩する私。
「はー、この紅茶、いつ飲んでも美味しいわよね~」
一口飲んだピスキスさんがいつものまったりとした口調で感想を述べる。さっきまでの眉間に皺を寄せて考える顔はとごにもなく、紅茶によってリラックスしているピスキスさんの笑顔。
「オレンジジュースも美味しいよ!」
ピスキスさんの横でオレンジジュースを飲んでいたカンケルさんが、飲んでいたオレンジジュースをピスキスさんに差し出す。それを飲んだピスキスさんが一言述べる。
「うーん、私にオレンジジュースは甘すぎるわ」
その一言にカンケルさんはキョトンとする。
「甘いのが美味しいんだよ!」
カンケルさんは少し考えてから声を上げる。それを聞いた皆が声を殺して笑う。
「さっ、続き始めよう!」
リコルさんの声でパズルを再開する。
パズルをやり始めて約5時間半、午後6時45分。
「出来たっ!」
ゲミニさんが嵌めたピースが最後、パズルの完成を達成する。
「出来たー!わーい!」
カンケルさんは嬉しさで跳び跳ねている。パンツが見えそうで見えないもどかしさが私を襲う。
「終わりー!疲れたー」
「っあー、終わったー」
「…貼るぞ」
終わった余韻に私も浸かる。レオさんの言葉を無視して横になる私。
レオさんからの気迫に負けた私は、糊を着けて貼る。
「これで大丈夫です。触っちゃ駄目ですよ?」
「明日には乾くだろ。カンケル、触るなら明日だ」
触ろうとしたカンケルさんにレオさんが注意をする。機嫌が良いのか、「はーい!」と潔い返事をする。
「記念に写真を撮りましょう!」
カメラを用意した私は、パズルが見えるように、なおかつ全員が入るように調整してシャッターを押す。