ハロウィン
「はろいん?」
首を傾げながら私を見てくる蟹座のカンケルさん。
「ハロウィン、だよカンケルさん」
「はろうん?」
――惜しい!
「皆さん!仮装しましょう!」
突然呼ばれた皆が、私を見て首を傾げる。
「今日はハロウィンって言って、仮装した人達が家を訪ねてお菓子を貰える行事なんです!皆さんスタイル良いですし、様になると思うんです!ね?」
正直に言うと、皆の仮装姿を見たいし、写真に収めたい。
「良いですか?掛け声は“トリックオアトリート”!ですよ?覚えました?」
仮装し終えた皆に例の掛け声を教える。
「トリッコトアトリート?」
「トリックオアトリート!です」
「トイックオアトイート!」
「カンケルさーん、トリックオアトリート、ですよ」
皆して掛け声の練習をしてるせいで少し五月蝿い。
「はろいん楽しみー」
「そうだねー」
「何処に向かってるの?琴羽」
「商店街ですよ」
今日のイベントは、商店街の店を使ってお客様にお菓子を配る。配るお菓子はクッキーで、色んな種類があるらしい。
去年はあまり興味がなかったので知らなかった。
「レンタルショップ行って、仮装しましょうか」
商店街に着いた私達は、衣装レンタルショップに入って決める。天使、悪魔、ドラキュラ、コウモリ、魔女、海賊、アニメキャラが沢山置いてあり、嬉しい事にサイズ別に同じ衣装が何着も置いている。
「う~ん、カンケルさんとゲミニさんは天使!」
衣装と皆を交互に見て決めていく。この二人になら天使しかないと思う。
「バルゴと、アリエスさんは魔女!」
「スコルさんとアクアは海賊!」
「ん~、ドラキュラをウルさんとリブラさんで!」
「コウモリを~、リコルさんとタリウスさんで!」
「残りのレオさんとピスキスさんが悪魔を!」
皆に衣装を渡して数分後、着替えて出てきた皆を写真に収める。
「琴羽?」
「はい!何ですかピスキスさん!あぁ、もう綺麗な足がまた良い!!はーいこっち向いてー!あーもー!可愛いー!戸惑った顔もまた良い!笑ってー!ピスキスさん笑ってー!皆も笑ってー!さぁ次」
「琴羽ぁ!」
思いの外羽目が外れたらしい。ピスキスさんの大声で我に還った私。
「ご、ごめんねー。可愛くてついつい…」
商店街には小さい店がある。その中にお菓子を配っている店があるのだが、それは行ってみないと分からない。
「きゃーっカボチャが笑ってるーっ」
「だ、大丈夫よカンケル!私が守ってあげるからねっ!」
「ぎゃぁぁぁ!お化けぇぇ!ぎぃぃやぁぁぁ!」
「ぁぁぁぁ!アクア!アクア!」
「ぉ、お化け?!怖いぃぃ!」
「くっ…!何でこんなにいるんだっ!」
「お化けはそんなに怖くないのだ!お化けも元は人間、話せば分かる筈だ!」
「怖くない怖くないっ、怖くない怖くないっ」
「お化けなんて、怖くないっ…」
街に飾られているお化けやジャックオーランタンを見つける度にこんな風に怯える皆。唯一私が教えたバルゴは「こんなの、全然怖くないわよ!」と言って、私の横を歩いている。
紙で作った事を知らない他の皆は正直言って五月蝿いかな。
「あらっ、琴羽ちゃ~ん!来たのね!あっら!連れの人達もペアルックみたいにしてっ!んふふっ、可愛いわ!」
主催者である川上さんの奥さん、川上美智子さん。私の住んでるアパートの1階に住んでいる。川上さんの言葉にノる私。
「ですよね!もうこの子二人とか天使ですよ!いや天使なんですけど!天使の格好が天使っていうか?」
ノッた調子に興奮してしまい、川上さんに笑われてしまった。
「所で、琴羽ちゃんは仮装しないの?」
「へ…」
――ん?川上さん?私、仮装、して
「忘れてたっ!」
皆の仮装で頭が一杯だったのか、今になって自分の仮装を忘れた事に気が付いた。大声で言うと、川上さんや皆、周りにいた人がクスクスと笑いだした。
――あー、失敗したぁー
私の仮装はしないまま、お店の人にお菓子を貰っていく。
「わぁーこれがクッキー?かわいー!」
「凄い…私の知ってるクッキーじゃないわ!」
「これは、カボチャの形のクッキー?!」
「んっ!可愛いだけじゃなくて凄く美味しい!」
「ほぉ…これがあのクッキーだというのか、凄いな」
「種類によって味も変わるんだねー」
「うまーっ!あまーい!!」
「うまーっ!あまーい!!」
「ゲミニが真似するだろう、美味しいと言え」
「うまーっ!あまーい!!」
「遅かったか…美味しいね」
「うん、美味しいし、甘い」
一人一人が感想を言っていく。中にはデシャブのように感じる所もあったけどスルーしよう。そして皆天使!
――カメラ持ってきて良かった。
「んふふ、良い食べっぷりね」
カメラに皆の笑顔を収めていると、隣に川上さんがやって来た。
「少し、ちゃんと言えてなかった子も居たけど、それも愛嬌よね!凄く可愛い。琴羽ちゃん、私にも少し写真くれない?」
カメラを構えるのを止めて、川上さんの話に集中する。川上さんもあの子達の可愛さが分かったようで、私に写真を頼んできた。勿論私はすぐに承諾して、より一層皆の笑顔を収める為カメラを構え出す。
店の中にはいつもは何かしら曲が流れているが、今日は流していない。その為、皆の楽しそうな声が店の何処からでも聞こえてくる。
ハロウィンイベントを楽しんでいる皆の声をBGMにして作業をする。店の休憩室では私と川上さん、主催者の川上武志さん、店のバイトの西野さんと亀井くんでお菓子の詰め合わせを作っている。
「そういえば琴羽ちゃん、あの子達と何処で知り合ったの?」
川上さんからの突然の質問に、私は持っていたお菓子を詰め込む前には手を止める。
「えっと、買い物で、ですね」
石が光って、空から来たんです。なんて言う事は出来ないので、行程を辿って元の買い物で、と言う事にしとこう。
「へぇー、親子にしては多いし、どういう関係なのかしら?」
やっぱり疑っちゃうよね。私だって初めて部屋に来た時は「誰?!どういう関係があってそんな寒い格好してんの?!」って思ったもん。
――ここは適当に、
「知り合いの知り合いって感じですね」
とか言っとけば大丈夫だろう。
今日中のお菓子の詰め合わせ作業が何とか終わった所で、外に出て皆を見る。
「カンケルー、転ばないようにねー?」
「分かってるよー」
「アクアー、こっちにもお菓子あったよー!」
「今行くー!」
「ゲミニ、沢山貰うのはいいが、ちゃんと自分で食べるんだぞ?」
「はーい、ありがとー!」
「あ、バルゴこっちに居たんだ?」
「えぇ、お菓子を貰ってたわ」
「んふふ、皆楽しそうね、レオ」
「そうだな、ピスキスも行ってきたらどうだ?」
皆楽しそうにお菓子を貰ってるのを見ると、参加して良かったと思う。ふと、ピスキスさんとレオさんの話が聞こえてきて、こっそり聞かせてもらう事にした。
「ホント、琴羽には感謝してもしきれないわ」
――いえいえ、そんな!
「そうだな、今まであの石を手にした奴らはこんなに優しくなかった」
レオさんの言った言葉は、まるで今までの人達には酷い扱いをされたかのようで、少し寂しくなった。
「えぇ、カンケルもスコルも警戒してないし、皆楽しそう」
「…ピスキスは、琴羽が裏切ると思うか?」
レオさんの言った言葉にドキッと胸がなった。
「…私は思わないわ。琴羽は、凄く優しい人。私達を裏切ったりはしないわ。今までの人達とは違う、それは分かるもの」
「そうか、良かった。ピスキスがそう思うなら、俺も安心だな」
ピスキスさんとレオさんは笑いながらお互いを見詰め合う。
「ピスキスさーん!」
何も聞かなかったようにピスキスさんに駆け寄る。ピスキスさんとレオさんが後ろを振り向くように、私を見つける。
「琴羽!もう終わったの?」
「はい!」
ピスキスさんは笑って「良かった」と言った。
「そろそろ帰りますか?カンケルさんが…」
ピスキスさん達の所に来て分かった。カンケルさんが眠そうにしている。
「んふふ、ごめんなさいね?ありがとう、皆呼んでくるわ」
駆け足で皆の所に行ったピスキスさん。それを見つめる私とレオさん。
「…琴羽、今日はありがとう。カンケル達も楽しそうにお菓子を食べていた。ありがとう」
レオさんが私に向かって礼をしてくる。
突然の事に私はレオさんを凝視する。
「…琴羽?どうした?」
「…驚きました。まさかあのレオさんに感謝されるだけじゃなく、礼までされるなんて…」
思った事を口にする。
「琴羽はまた…この俺が感謝と礼をしてるんだ!何か言う事はないのか?」
微笑みながら私に聞く。その微笑みによって、あのレオさんにキュンとしてしまった自分がいる。
「~っ!どういたしまして!です!」
私が言うと、レオさんは未だに微笑んだままで、私の頭に手を置く。
「あぁ、本当にありがとう」
なんだこれ、あのレオさんにキュンキュンしてる自分がいるのは、なんか可笑しい。
確かレオさんは、ピスキスさんの事が好きなんだよね?何でこんなにカッコいいんだ。いつものグチグチ言ってくるレオさんとは違い、レオさんの顔を見ると、自分の顔が熱くなるのを感じる。
――こっちの気も知らないでっ!反則、だろ。