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AYUMI:2016 『かぐや姫』  作者: -Natsu- ウサギ様 狼零 黒月 ちや
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第二話

戸惑っている歩を他所に、次の授業は始まった。

急いで竹取物語を机の中に戻して、教科書とノートを引っ張り出す。


涼介くんが本を読んでいる姿なんて、国語の授業の時ぐらいしか見ないけれど、意外にも好きなのだろうか。 それも私が読んでいる竹取物語を知っていた。


歩にとっては都合よく、涼介が教科書の音読を当てられたので、それを元にどれぐらい本を読んでいるのか確認しようとする。


色々とたどたどしく漢字もあまり読めていない。

歩からすると低学年ぐらいの国語能力しかないように思え、挿絵を見ただけで竹取物語と分かるのが不思議でならなかった。


時間は変わって放課後になり、歩は友達との話もそこそこにしてランドセルに荷物を纏めて図書室に向かう。

かぐや姫の気持ちがどうしても知りたかったのだ。


恋に恋するというような思考ではないけれど、周りの友達が騒いでいる様を見て、かぐや姫の気持ちを想像して少しでも分かる可能性を求めて図書室で「かぐや姫」関連の本や恋愛について分かりそうな本を探すのだ。



歩は元気があれば何でも出来るということを学んだ。

本を棚に戻して図書室から出ようとした時、歩は返却された本を見て足を止めた。


「竹取物語」。

図書室のどこの棚にもなくて、歩は不思議に思っていたけれど返却されたばかりだったらしい。

自分が持っている物と一切変わらない内容に目を通して、ため息を吐き出した。


ペラペラと捲り、一つの挿絵のあるページで手を止める。


月と涙。


歩には分からない。 泣くほど悲しいのに帰ってしまうのは何故なのか、無茶なお願いをして振ったのか、本当は誰が好きだったのか、それとも好きじゃなかったのか。


11歳にもなっていなくて、恋もまだしたことはない。 結婚する話なんて分かる訳がないと思って、本を持ったまま少し立ちほうける。


そういえば、かぐや姫ってまだ地球で産まれてからーー。


考えている内に勝手にページがめくれてしまったらしく、一番最後の白紙のページ、学校の本では貸し出し記録の書かれた場所になっていた。


歩はそのまま本を閉じようとして、貸し出し記録に書かれた名前を見て小さく目を開いた。


夏野 涼介。


同じ本を読んでいたから挿絵が分かったらしい。 あまりに簡単なことに少しだけ頷いてから、本を戻して図書室を出る。


それにしても、と歩は小さく独り言を呟く。


「涼介くんも本を読んだりするんだ」


そんなことを言ってから目をグラウンドに向けるが、そう都合よく涼介くんがいるはずもない。

何を思っているのか自分でも分からず、溜息を吐き出した。


「ん、歩、どうしたんだ溜息なんて吐いて」


聞き慣れた明るい声。 今、何の気なしに探していて、何となく一番聞きたくなかった人の声。

歩は身体をピクリと震えさせて、そんな歩を見て涼介は小さく笑う。


「な、なんでもないよ。 ちょっとビクってしちゃっただけで笑わないでよ」


涼介は一歩、歩に近寄って視線を反らせながら言う。


「いや、可愛いと思って」


何を言っているのか分からず、歩は身体を硬直させる。 硬直した身体が動き始めた頃に、代わりに頰が紅潮していく。


「な、なに」


涼介はそんな歩の姿に照れたように頰を掻きながら言葉を続けようとするが、歩に言葉が届くことはなかった。

涼介が発せようとしていた言葉の代わりに、歩の走る足音が廊下に響く。


歩は逃げるようにして廊下を駆けて、階段を降りるために曲がったところで止まり息を整える。


熱くなった頰に手を当てて、その熱を確かめながら一言口から漏れ出る。


「可愛い、って、言われた」


ただ、言われたことを繰り返し口に出しただけ、それだけなのに歩の頰は熱く紅く染まっていく。

嬉しいとかよりも先に、恥ずかしい。


また鉢合わせないように急ぎ足で階段を降りながら、自分の身に降り注いだ珍事に対して思いを巡らせる。


全然違う状況で、全然違う配役だけれど、かぐや姫もこんなに恥ずかしいと思ったのだろうか。

大人だから「可愛い」どころか「結婚してください」と言われても恥ずかしくはないのかもしれない。


靴を履き替える頃に、図書室で思ったことを思い出す。

そういえば、かぐや姫は大人の女の人みたいだけど、この地に産まれてからーー。



だとしたら、きっとかぐや姫も恥ずかしい思いをしていたのかもしれない。

だったなら、もしかしたらかぐや姫も私と一緒で恋なんて分からなくてもおかしくない。



歩は熱の籠った息を吐き出した。



恋なんて分からない。 全然、ちっとも、毛ほども分からない。

けれど、けれども、かぐや姫が月に帰るように、私も家に帰らないと。


重い足取りで、歩はゆっくりと帰路に着いた。

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