第3話
そこにあったのは今まで読んでいた『手紙』ではなかった。
「此処に私の日々を記します。私の名前は
神田菜名」
僕はたどたどしく小さな声で読み上げた。
「紳路大丈夫か?お前、ずっと口開いてるぞ?」
呆然としていた僕にクラスの誰かが声をかけてきた。
「あ、あぁ多分な…」
*
小学6年生になった今日から日記をつけます
4月1日
桜が綺麗に舞っている
桜というのはどうしてこの世に生えてきたのだろうか
私は桜は好きだが、桜が一番美しいのは風にふかれ舞っているところだ
なぜこんなにも美しんだろう
今に命を失っているのになぜ美しいんだろう
私もこんな人生を歩みたい
4月2日
教室に入ると私の机の上に桜の枝が添えられていた。私をからかっているのであろうか。
「なぁお前さーうざいんだよ」
唐突とそんな声がかけられた
あぁ人に声をかけられるのはいつ振りだろうか。
「あ、あれ?なにこれ…なにか頬に涙がつたってる…」
「うわーー泣いてる‼︎そんなんで泣いてやんの‼︎」
反論は知らなかった。周りの人は私が嫌なことを言われたことに対して泣いているのだと思っているだろう。だが、この涙は違う。
全くの別物だ。
私は桜のように生きよう
* *
「紳路‼︎」
教室に怒鳴り声が響き渡った。
この日記に夢中になってしまっていた。
「神田菜名ってもしかして…」
怒鳴られなことなんて忘れてそう呟いた
「いい加減にしろー‼︎」
今までに聞いたことのないような声が響いた
「先生すみません。体の調子が悪いので帰ります」
僕はそう言うと学校を飛び出して、自然とあの人が亡くなった場所へと行った。
意識などしていないがまるでこの日記が連れて行くように。そして、僕は階段に腰を下ろすとゆっくりと『手紙』を開いた。
気持ちいのいい風が吹いた
*
4月3日
今日は書くことが沢山ある。
書くべきことが…
今日もクラスの人がちょっかいを出してくることに変わりはない。
因みに私は虐められているわけではない。やられている方がこれは虐めだと思ったら、それは虐めだ、と学校の先生もよく言うのだ。
全くその通りだ思う。いやその通りだ。私は虐められているとは思っていない、それ故私は虐められていないのだ。必ずあの桜のように綺麗に美しく生きる。
学校には行くし、死にもしない。同級生なんかの為に私の命を話すわけにはいかないのだ。
あぁ、今日はいい天気だ。まさに春!と言ったところだろうか。風は気持ちがよく涼しい。あと一つ足りないことと言えば…いや、まだ記さないことにする。
そして今日は父が家に帰ってきたのだ。母と涼を殺した父が…
* *