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第一章「跛行」

その時初めて思った。

言葉は二種類しかないんだと。


曖昧な手つきで男が私を引き寄せた。

おもむろに唇が重なる。

半ば強引なキスだった。

「言いたいことがあるんだろ?」

私は押し黙った。

予期しない出来事のあとに何が言えるというのだろう。

きっと言葉には二種類あるんだ。

「言いたいこと」と「言いたくないこと」と。

言いたいことは容易い。

自分の中に不都合がないから。

でも、言いたくなくても「言葉」はある。

私だけが知っている私の中の言葉が。


「退屈」を紐で括って束にして、部屋中に転がしておいたらこんな感じなんだろうなと思うほど、その日は退屈な一日だった。

部屋に風を入れたくて、開け放った南側の窓のカーテンは、まるで一つの生命体として呼吸しているかのように膨らんでは萎む。

ふわふわとしたこんな時間が好き。

私はいつまでもそれを眺めていたいと思った。

「由莉ちゃん」

そんな空間を、聞き飽きた内線のインターホンの声が切る。

「なに?ママ」

相手に適した声を取り繕うのは慣れている。

私はインターホンの「応答ボタン」を押しながら母の答えを待った。

「これからママ買い物に出るんだけど、あなたは?」

「う…」

取り繕う時間が欲しい。

「すごく行きたいんだけど、今日はやらなきゃいけないことあるから」

「そう、わかった」

インターホンが冷たい音をたてて切れた。音にも温度というものがある気がした。

何もすることがない日が嫌いなわけじゃない。

何もしたくない日が嫌いなんだ。

退屈とは向き合えても、孤独と向き合うのは堪えられないから。

机の上に置いてあった携帯がぶるぶると悲鳴を上げながら、デスクマットの上で小さく踊った。

今はあまり聞きたくない音だ。

私は誰かに促され、詮方なく動き出すようにその携帯を渋々と見た。

優太からのメールだ。

ほらね、やっぱり何もしたくない日は嫌い。


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