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miss  作者: 榛名凛歩
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パラレルを立ち上げるとアイテムボックスに新しいアイテムが二つ入っていた。手紙を模したアイコンで、今まで見たことのないものだった。

 一つ目のアイテムを開くと、

『昨日は負けたけど、今度は勝つ!』

 というメッセージが表示された。

 なんだ、これは。このアプリにメール機能などなかったはずだが……。

 訝しみながらも二つ目のアイテムを開いた。

『上位入賞おめでとうございます。今回の商品はレターセットです。回数に限りがございますのでご注意ください』

 とあった。

 なるほど、ということは――。

 先ほどのメッセージをもう一度開く。スクロールすると最後に差出人の名前が現れ、そこにはフェアレディとあった。

 折角なので返信した。

『負けないよ。疲れたから今日はあんましやらないけど』

 別に逃げているわけではない。未だに目が少しかすれているのだ。

 その日はその後、ほとんどアプリを立ち上げなかった。デイリーステージを数回やっただけだった。結果は最高でも三十位と、昨日の戦果には遠く及ばなかった。

 その日、寝る前に一度やろうとパラレルを立ち上げると、またフェアレディからメッセージが届いていた。

『同じく、今日は疲れてあんましやらなかった』

 ランキングを確認するとフェアレディの順位は五十位付近だった。



 それから数日、最初にフェアレディと対決した日のように熱を上げることはなかったが、それなりにパラレルをプレイしていた。

 順位は良い日で十番台まで上り詰めた日もあった。フェアレディの順位も僕と似たり寄ったりだった。僕より上の日もあれば下の日もあった。

『明日の夜暇?』

 と、急にフェアレディから久方ぶりのメッセージが届いた。

『ひま』

 と、すぐさま返した。

『じゃあ、勝負は二十時から二十四時までの四時間。それまではデイリーのチャンレンジは禁止で』

 僕はその提案に乗った。

『オーケー、時間を決めておけばフェアだし、疲れないね』

 四時間は少し長いな、と思ったが折角の誘いなのでケチはつけなかった。

 そして次の日。

 デイリーステージにはチャレンジせず、他のステージで腕を慣らした。機体のセッティングも見直し準備を万端に整えた。

 時計が午後八時を示したのを確認し。デイリーステージを開始した。

 当然ステージの内容は前回とがらりと変っている。そしてステージの難易度もランダムだ。一度やってみた感じ全開フェアレディと競ったときより若干難易度は上のようだ。

 二回、三回とチャレンジするも未だにゴールにたどり着くことすらできない。攻略には時間がかかりそうだ。

 ぶっ続けに一時間プレイした。

 なんとかステージクリアできるまではきた。スコアを見る限り、フェアレディは未だにクリアできていないようだ。

 少し余裕があるので一休みすることにした。

 カフェインと糖分をとりながら目をマッサージした。

 十五分ほど休憩し、ランキングを確認する。フェアレディは僕より一つ上の順位にいた。

「そうこなくては」

 再び僕は愛機のカタナを駆りだした。

 そこからはもう休憩している余裕などなかった。

 僕とフェアレディの順位はせめぎ合っていた。

 十時ごろまで抜きんでていた僕等の順位はいつの間にか他のプレイヤーに追いやられていた。

 僕とフェアレディに触発されてか他のプレイヤーたちがランキング争いに参加してきたのだ。

 十一時過ぎ、ランキング争いに参加しているのは僕とフェアレディを含めて六人のプレイヤーだった。一人だけ抜きんでているのはシビック。このプレイヤーはいつもランキングの上位にいたのでよく目にしていた。

 他の五人はステージをクリアするたびに順位が入れ替わっていた。

 そして深夜十二時。

 僕のランキングは五位、フェアレディは六位。

 なんとかフェアレディに勝つことは出来たが他のプレイヤーには及ばなかった。僕もフェアレディも速くから勝負していたせいか集中力が続かず、後半はあまりスコアが「伸びなかった。

 一位が取れなくて悔しかったが、当初の目的であるフェアレディには勝利したわけだから良しとしよう。きっと向こうは二度も負けてさらに悔しがっているだろう。

 今回も駆ったぜ、とフェアレディにメッセージを送ろうとしたが、疲れ切ってしまいそんな気力もなかった。



 翌日の昼過ぎ、フェアレディからメッセージが届いた。

『また負けた……。途中からたくさん参戦してきたな。また今度勝負しよう。それで、よかったら連絡先教えてくれない? メッセージもこれで最後だし』

 最後?

 ああ、そういえば――。

 アイテムボックスを開く。レターセットをさらに開く、右下に小さく残り一のマーク。そう、そういえば回数制限があったのだ。

 まったく、メールぐらい何度でも自由にさせてくれてもいいだろう、と運営に軽く愚痴をついた。

 最後のレターセット、そこにOKと短く書き、その後に自分のアドレスを書いてフェアレディに送った。

 十数分後、携帯に見慣れないアドレスからメールが届いた。タイトルの『フェアレディ』ですぐにだれからのメールかわかった。

『アドレス教えてくれてありがと。暇な時メールしていい?』

 とのメールに、

『いいよー、大概暇してるから』 

 と返した。


 それから、勝負の誘いはなかったが、他愛ないメールがフェアレディから届くようになった。

 好きな音楽はなんだ、趣味はなんだ、今話題のあの映画は見たか、など本当に他愛ない雑談的な内容のメールだった。

 これがメル友というやつだろうか。

 メールで話しているうちにフェアレディは同年代ということが分かった。ただ、本名や住んでいるところなど、突っ込んだ質問は互いにしなかった。

 相手のことは何も知らない。そんな曖昧な関係が心地よかった。

 

 日ごとにメールを交わす回数は増え、暇を見つけると文字を打ち込んでいた。

 メールに費やす時間と反比例してパラレルをプレイする時間は減っていった。それはフェアレディの方も同じようでデイリーステージのランクはいつも下位に位置していた。 

 ある日、僕の住んでいる地域は急な雷雨に見舞われた。元々、雷の多い地域なのでそれほど気にはならなかった。

 ちょうど学区を出ようとしたいたところだったが、どうせすぐ止むだろうと教室に引き返した。

 教室には同じように雷雨が止むのを待っている学生がちらほらといた。時間つぶしに携帯を開くとちょうどフェアレディからメールが届いた。

『急に雷鳴って雨降ってきた……、学校に足止めだ』

『こっちも同じくゴロゴロいってる。学校で雨宿り中』

 まさかフェアレディはこの場所にいるのでは、と周りを見回したが、分かるはずもない。

 ネットを開き全国の天気情報を調べてみると、現在雷雨に見舞われている地域はここだけだった。

 もしかすると……。

 そう思っているとすぐにメールの返信があった。

『もしかして、カタナの住んでいる所ってT市?』

 向こうも同じ疑問を抱いたようだった。

『そうT市。……世界は狭いね』

 そう淡々とメールを返したが、内心は驚きだった。もしかしたら知らず知らずのうちにすれ違っていたかもしれない。もしかすると同じ大学かも――?

『カタナって大学生だよね? どこの大学とかって訊いてもいい?』

 またしてもフェアレディは同じ疑問を抱いたらしい。

 特に隠し立てする様な事でもないし、向こうの問いに素直に答えた。

『T大学だよ。そっちも大学生だよね?』

 一分も待つことなく返信が届く。

『そう、S大学。ってT大学かよ、頭いいんだな』

 さすがに同じ大学ではなかったようだ。残念のような、安心したような。

 それにしても、ゲームで知り合い、フェアレディというハンドルネームしか知らなかった彼の存在が、こうも近くに住んでいて、年齢も同じぐらいとなると急に身近に感じ始めた。

『近くに住んでたとはね、案外何処かですれ違ってたかもね』

『そうかもな、ほんと世界は狭い』


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