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miss  作者: 榛名凛歩
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講義の合間、電車の待ち時間、そんなちょっとした暇を見つけてはスマートフォンを取り出してゲームアプリを始める。

 『パラレル』という名のシューティングゲームだ。一年ぐらい前だろうか、同じように暇を持て余していたとき、操作ミスで広告をタッチしたらこのゲームのダウンロード画面に飛んで、なんとなくインストールしてみたのだ。

 今まで幾つものアプリをインストールしては、すぐに飽きて消去してきたが、このパラレルだけは未だに続いている。

 ゲーム人口は百人前後で大人気ゲームというわけではない。よくCM等で何百万ダウンロード達成! などと騒がれているゲームなどと比べたらマイナーもいいところだろう。  

 人数が少ない分、ランキングなどで見る名前も自然と覚えて来る。この閉鎖的なコミュニティが幼いころ作った秘密基地みたいで好きだった。

 僕のハンドルネームは『カタナ』特に意味はない。ハンドルネームを決めるときにふと浮かんだのが、昔父親が乗っていたバイクの名前だった。

 一つのステージをクリアしてスコアと今日のランキングが表示される。自分の順位は十七位。そしてそのすぐ下には『フェアレディ』。この名前は毎日のように見ている。いつも僕の一つ上か下の順位に位置している。今回は僅差ながら勝てたようだ。



 講義が終わって順位を確認してみるとフェアレディと僕の順位が入れ替わっていた。その差はわずか一点。ここで僕の負けず嫌いが発動し、すぐに順位を塗り替えにかかった。

「おい、学食いこうぜ」

「ああ」

 返事もおざなりに画面に集中した。

 ステージをクリアし、見事に順位を取り戻した。

 このゲームにはいくつかステージがあるが、大体僕がやっているのはデイリーステージと呼ばれる毎日更新されているステージだ。挑戦するだけでアイテムがもらえることもあり、多くのプレイヤーが日に一度は挑戦している。そして上位三位以内に入ると特別なアイテムも手に入る。

「……くそ」

 スマートフォンの画面を見つめ僕は毒づいた。

「どうした?」

「いや、何でもない。ゲームの話し」

 この短時間の間にまだフェアレディに順位を抜かれた。これは明らかな挑戦と受け取っていいだろう。

 僕は闘士を漲らせながら講義が終わるのを待った。



 講義が終わると筆記用具も片付けずにスマートフォンを取り出しアプリを起動した。順位は変わらず僕がフェアレディの一つ下。

 一度、二度と挑戦するが中々フェアレディを越えるスコアを叩きだすことができない。

 気づくと周りには誰もいなかった。皆とっくに教室を出て行ったようだ。

 自分も教室を出て、今日の講義はこれで終わりだったのでそのまま帰宅した。

 暇つぶし程度にしかやってこなかったこのパラレルというゲームだが、今日は違った。どうしてもフェアレディの上へ行かなければ気が済まなかった。

 自室へ籠り、スマートフォンの画面へと向かう。

 三度、四度……、五度目にしてようやくフェアレディの上に位置することができた。満足してアプリを閉じる。しかし、安心してはいられない。

 一時間後、まだ順位は変わらない。

 さすがに諦めただろうか。

 夕食、風呂を済ましてもう一度確認すると抜かされていた。そうこなくては。

 それからはずっと、画面に齧りついていた。

 抜かしては抜かれ、を短時間で繰り返した。何処にいる誰かも分からないがその時の僕等は確かにリアルタイムで戦っていたのだ。

 気がつくとカタナとフェアレディは一位、二位の取り合いをしていた。三位以下は大きくスコアを離されている。

 今日の終わりがもう十数分に迫っていた。

 現在、一位はフェアレディ8876点。カタナ8799点。挑戦できるのはもう二ないし三回が限度だろう。こうしている間にもフェアレディは自らのスコアを更新しようと躍起になっているかもしれない。

 負けられない。

 もうかなり疲弊して目も霞んでいたが、最後の踏ん張りだと自分に活を入れ集中力を高める。

 瞬きするのも忘れて画面を睨み指を動かす。

 かつてこんなに集中したことは今までにないだろう。

 青い愛機が画面上を縦横無尽に駆け巡り、敵を殲滅していく。一度も被弾することなくノーダメージでクリアした。

「これはいっただろ!」

 スコアは――8996点。

 思わずガッツポーズを決めた。そして時計が午前零時を示した。

 念のためランキングを確認し、一番上にカタナがあり一安心した。しかしフェアレディのスコアは8978点まで迫っていた。危なかった。

 安心したところで糸が切れたようにベッドに倒れ込んだ。


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