第一章
LINEでもこれを書いています。こちらの更新速度は極めて遅いのですが、LINEだとはやいです。興味のある方はコメントなどを m(*・ω・*)m
第1章〜穏やかな緑色〜
「あやや⁉大スクープかと思って来たのに、なにもないじゃないですか…」
陽光がさんさんと降り注ぎ、大地を灼熱の塊とさせる今日の天気。いやになるくらい雲は無く、青く澄み渡った空が太陽という莫大なエネルギー源を囲むように広がっている。
「これでは成果が一つも得られること無く、無駄に暑い思いをしました。で、終わってしまいます!それだけはダメです。苦労した分、報酬はちゃんと受け取らないと」
一つの黒い影が慣れたように空を滑空していく。
その影が見ていたと思われる地点には、着物のようなものが、グシャグシャになった状態で広い道の真ん中にポツンと置いてある。
「ん?これは…?」
一人の男が着物を掴みとる。すると…
「ふぅ…全く、あの鴉天狗はどこにいても見かけるものなのかしら?」
男の手は、着物を掴んでいた形から人を触るような形に変わっている。
「ぅ、ぅわぁ!?なんだこりゃ!?着物が人になった!?こんな昼間から幽霊見るとか、俺もう絶対に今日いいことねぇわ〜!」
男はズバンという音をたてていく程の速力で、着物から遠ざかる。
「え、あ、ちょ…」
男はそのまま地平線の彼方まで逃げてしまった。
だが、問題はそんなことではない。いまだ、上空を飛んでいる黒い影=鴉天狗が怜に気付いたのか、優雅に滑り降りながら怜の目の前に着地した。
「いや〜、やっと会えましたよ〜。着物から出るお化けがいる!という噂があちこちで流れていたものですから、気になって夜も寝れませんでしたよ。さぁ、取材させて下さいね( ̄▽ ̄)」
鴉天狗はカメラを構え、パシャ!と聞こえたかと思うと、フラッシュが目に入ってくる。
「!?」
慌てて、魂の源ともいえる着物を目にやってしまう。
「さぁて、いろいろ聞かせてもらいますよ〜。
まず、あなたの名前を教えてもらいたいですね。」
なんで、取材している側が偉そうなのだろう?
そんな疑問、というよりは不愉快な気持ちを抑え、答える。
「私は、仄染怜って言うわ。人里で染色屋をしてるわ。」
ほうほう…と鴉天狗がメモしている。
「あなたの名前も聞きたいんだけど、いいかしら?」
「はい?ああ、はい。私は清く正しい射命丸文といいます。文と呼んでください」
鴉天狗、もとい文は新聞記者をしているらしく、ネタとなりそうなものを見つけては追い回す、という噂を耳にしたことがある。だから、着物を汚してでも気付かれないように頑張っていたのだが…
「じゃあ、怜さんの種族って何でしょうか?流石に人間では、ありませんよねぇ?」
「ええ、私は色霊っていうものよ。
文は、神業を持つ染色屋のことを知っているかしら?」
予想外だったのか、へっ?という顔を一瞬浮かべたが、すぐに顔を戻し、知っていることを話す。
「まぁ、それなりには知っていますよ。神業と呼ばれた染色屋なんて、この幻想郷には一人しか居ませんからね…名前は、色揶聡明代々染色屋をやってきた家系ですね。ですが、それがどうかしたのですか?」
文の頭上にはハテナが広がっている。無論、そんなことになるだろう、ということは分かっていた。
「その染色屋、色揶聡明が作った着物が、今、私が着ているものよ。それに、あんなに古い人を知っているんですね、文さんわ。今から約1000年以上も前の話ですよ?人里で歴史を教えている先生のおかげで、今も名前ぐらいは知れ渡っていますけど、神業と呼ばれた染色屋は、一人だけ。あと染色屋を代々営んでいたっていうことは、先生も、教科書にも、それに考古学者でも知らないわよ?」
「あやや、私は意外と長生きなんですよ。しかし、面白いことを聞きましたね。色揶聡明の着物ですか…あの方が着物から作ったのは幻想郷だけでなく、世界中で1つだけだと言われています。まさか、それが?」
「ええ、その着物に私っていう魂が宿ったのよ」
文は忙しそうに小さな紙が束ねられたものにペンを走らせている。
「そうなんですか…色々と教えていただいて、ありがとうございました。明日の文々。新聞を是非お読み下さい。というわけで、家まで連れて行って貰えませんか?」
全く、この鴉天狗は非常に頭が回るのに、相手と同じレベルのように話してくる。それが分かるぶんイライラが溜まるのだけど。
「仕方ないわね…こっちよ」
それから、約20分。歩く…のではなく、空を飛行して20分なので、歩いていくと、だいたい2時間はかかるかもしれない。
着いた所には古い民家に染色屋と暖簾が掛けてある。
「これは…色揶聡明が使っていた店ではないですか?」
そう、約1000年以上前から建つ色揶聡明の家系が使っていた店だ。だが、色揶聡明は病気によって子供を作ることができず、色揶という家系と、色揶という染色屋の幕が閉じた。勿論、弟子はいた。
だが、弟子だけで続くわけもなく、この店は約5年前から使われなくなった。それから、3年後。色霊こと仄染怜が生まれ、染色屋が復活した、と話題になった。その話題があった頃から鴉天狗こと文に追いかけられていた。2年も文から逃れていたのである。凄いものだろう。
「入るの?」
「ええ、私も今までに入ったことが一度もありませんからね、凄く気になります。」
古い民家によくある横にガラガラする玄関を開ける。
中は大したこともなく、人が生活するために必要な最低限のレベルと、着物や座布団、机などがある。
「あやや?色を塗るための道具がありませんよ?一体、どうやってるんですか?」
「簡単な話よ。私の能力は色を操る程度の能力。つまり、どんなものでも色なら変えられるのよ。だから、色を変えるために必要なものは私の能力があれば、要らないから、全部違う染色屋にあげたわ。」
「あ、あやや。あの伝統のあるものをあげちゃったんですか?貴重なものでしょうに」
たしかに、色揶聡明が愛用していた染色道具と聞けば、それだけで価値が跳ね上がるだろう。だが、怜にとってはそんなものはどうでもよかった。お金なんかに興味は無いし、道具もだいぶ腐っていたりしていて使えるものでは無かった。まぁ、それでも設計図を作るのにはいいらしいので、貰う人はたくさんいたのだが。
「ええ、私にとって着物さえあれば大丈夫ですから。ましてや私は色揶聡明となんの関係もありませんし。」
そう、色揶聡明と怜は関係がありそうで無いのである。たった一つ。着物を作ったのが色揶聡明なのだということだけ。
「いやぁ、今日はたくさんネタが入りましたねぇ。最後に質問なんですけど、怜さんは何を求めているんですか?」
「え?どうゆうこと?」
「いや、だから夢はありますか?っていうことです」
「あ、なるほどね。私はこの着物を彩るこの色を求めているわ」
「なるほど、なるほど…ではありがとうございました!明日の見て下さいね( ̄▽ ̄)」
文は外に出た後、大きくはばたく。その力で浮力を生み出し、上昇する。
文が見えなくなるまで見送りを続けた。
そして、自分の家もとい店に入る。
「今日は…久しぶりにあんなに喋ったような気がする…」
そんな余韻を感じながら今日の注文を卒なくこなしてゆく。
「え〜っと、今日の注文は着物20枚と座布団が270枚。あとは、色落ちした服を700着ね。」
今日はそれなりに多い方だが、最近で一番多かったのは着物だけで100、布団などは400。服は1400もあった。正直、凄く驚いたというのが怜の感想だが、もっと驚くべきはそれを1日、否、10分程度で終わらせたのだ。これには、頼んだ人も呆れたような顔をしていた。
「さてと、終わったし寝ようかな」
怜は今日の分を終わらせ、布団の中に潜り込む。着物を脱ぐことなどできないので、少々寝心地は良くないが、もう慣れてしまっているので大した問題は無かった。
読んでくれてありがとうございました( ̄▽ ̄)これからも応援よろしくお願いします( ̄▽ ̄)