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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

妖狐の計画

作者: いが扇風機

TSF好きな自分が思った文章を書いてみました。

やや残虐な描写や挿絵がこの小説に含まれております。

それらに嫌悪感を抱く方はご注意ください。



「どこへ行った!?」

「逃がすな!!場合によっては殺しても構わん!!絶対に捕まえろ!!!!」


あちこちから怒声が聞こえる。

雨が降り続ける街中で男達が走り、何者かを探すような言動を繰り返す。

男達は鎧を着ており、剣を抜いている。

鎧が魔法で作られた明かりに照らされ、真夜中なのでそれがより一層照らし出されいる。


「はぁっ……はぁっ……はぁっ…………!」


路地裏で息を切らしながら一人の幼い少女が走っていた。少女はこの街では見ない服に身を包んでいる。

上半身は白色、下半身は真赤のスカートのようなモノを履いている。

水に濡れてしまっている為、服が肌に纏わりついて違和感を感じる。

少女はこの服の名称がわからない、だが見た目から東方の国の服である事だけはわかる。

左右を見渡し誰もいない事を確認して雨が降り続ける中、少女は荒れた息を整える為に身を小さくして休憩する事にした。

頭に生えた二つのキツネ耳は普段はピン!と立っているが雨を吸って重くなったのか横に垂れている。

お尻に生えた九つの尻尾は雨を吸ってかなり重くなっている。尻尾の重量感と服の重さのせいで少女はかなり走りづらく、つらそうだ。


もしも見つかると、何時間も走り回って疲れ果てている今の自分の今の足では逃げられない。

つまり見つかったらその時点で終わりなのだ。


「なんでっ……こんなっ……。」


少女は小さく呟いた。

少女を追いかけているのはかつて少女がよく知っていた人物達なのだから。





話は数時間前に遡る。


「皆、この街に妖狐が忍び込んだという報告があった。目撃者も多数いる。」


髭を生やし、立派な鎧に身をまとった男性が言った。

途端に広場に集められた兵士達からはざわめきが起こる。


「これからしばらくは街の警備人数を増やし何としても妖狐を捕まえろ。

状況次第では殺しても構わん。」

「……だってさ、キヨヒコ。」

「物騒だな。」


キヨヒコと呼ばれた20代と思われしき若者はそう呟いた。

妖狐というのは危険な魔物である。

特徴は腰まで伸びた綺麗な金髪に顔は男を惹きつける程、端正な顔立ちであり、女性しか妖狐は存在しない。

だが頭に二つのキツネ耳があり、尻尾には九つのフサフサした毛がある。

おまけに大抵の妖狐がスタイル抜群なので男が見ると誰もが彼女にしたい!と思えるだろう。魔物じゃなければ。

かなり足が速く、潜入に向いている種族である。だから暗殺に長けており非常に厄介なのだ。

かつて街中に忍び込んだ妖狐がこの国の王を瀕死に追い込んだという事例があるのだ。

王は懸命の処置で一命を取り留めたがその代償として右腕を失ってしまう。


人間軍と魔王軍、両者の戦争は十年もの間続いている。

どちらが正義なんてのはわからない、戦争とはどっちも正しいと思って行動しているだけなのだから。


「これから俺達の休みがまた減るなぁ。」

「お前も軍人だろトシアキ、文句言うなよ。」

「でもさぁ~。」


トシアキと呼ばれた男は両手を後ろに回してめんどくさそうにそう呟いた。

お前の悪い癖だ、とキヨヒコは思ったが口には出さない。




それからキヨヒコは街中を調査していると路地裏で偶然妖狐を発見した。

腰まで伸びた金髪、顔は幼いながらもとても美しく将来有望に見える。

頭には二つのピン!と立ったキツネ耳に尻尾は九つのフサフサしたモノがあった。

だが身長がとても低くパッと見、子供だ、大体130cm程度くらいではないだろうか。

胸は……あまり出ていない、一瞬迷いこんだ子供の妖狐かと思ったが……。

服はこの街では見ない変わった服を着こんでいる、上半身は白い服、下半身は赤いスカートのようなモノだ。

キヨヒコは剣を抜き妖狐を見据える。

妖狐はキヨヒコと目を合わせ、クスクスと笑っていた。

その雰囲気は子供の目では無く、このような状況を何度も乗り越えた魔物に見えた。


「わらわもここで見つかるとは下手糞じゃのぅ……よりによって一般兵士か。顔はそれなりじゃの、許してやる。」

「……何の話だ、悪いが抵抗するならば死んでもらう。」


キヨヒコは妖狐を倒す為に思いっきり斬りかかった。

だが妖狐は人間では考えられない程の反射神経とスピードでそれをかわした。

さらに爪を伸ばして反撃をしてくる、キヨヒコも咄嗟にかわしたが頬を爪がかすり血が頬から垂れてくる。

速い!流石は潜入に向いている種族という事だけはある。


妖狐は指に付着した俺の血を舐めて何かを呟いた。


「ふむ、中々。」

「覚悟!」


キヨヒコは三度斬りかかる。またもや回避されたがキヨヒコはそれを狙っていた。

回避された瞬間即座に右足を妖狐の腹元へと入れ込む。

鈍い音が路地裏に響いた、直撃したのだろう。

妖狐は吹っ飛ばされ壁に叩きつけられた。

……キヨヒコは壁に叩きつけられうなだれた妖狐にじりじりと近づいた。


「運動神経はいい……。」

「……?」


妖狐はまたもや変な言葉を呟いた。

そして何かブツブツと呪文のような物を呟いている。

面倒くさい事になる前に仕留めようとキヨヒコは妖狐に剣を振り降ろそうとしたその瞬間だった。


「ボディスワップ!」

「!?」


妖狐が魔法を唱えたのだろう。

キヨヒコと妖狐が大きな光に包まれる。

キヨヒコは激しい光によって目を瞑るしか無かった。


激しい光が少しずつ収まってくるのがわかる。

キヨヒコはそっと目を開けた。

……何かがおかしい、先程まで自分の目の前にいた魔物はとても小さく子供体型だった。

だが目の前にいる人物が急に大きくなり見慣れた鎧に身を纏っているのだ。


「ふむ……これが男の体か、悪くない。」

「なっ……!」


声を発した男はキヨヒコのよく見る人物であった。

顔は自慢じゃないがそれなりの顔だ、訓練で鍛え上げられた筋肉は剣を軽々しく扱う程。

他の兵士からも腕前を認められ、将来は隊長候補なんても言われたりした男が目の前にいた。

そう、キヨヒコ自身が目の前にいたのだ。


「まだわからぬか?お主とわらわの体を入れ替えたのじゃ。

出来ればお主のような一般兵士では無くお偉い方と交換したかったのじゃが。」

「何……!?」

「ふむふむ、こう見ると可愛いキツネじゃのう。犯したいくらいじゃ。」


体を入れ替えた、そう聞こえた。

ふと自分の体を見降ろした。見慣れない白い服から伸びている手は細く小さく繊細だ。

硬い鎧に身を包んでいたはずだが柔らかい私服を着ている。

思い切って股間を触ると……。無い。


「えっ……?」

「ほう、やっぱりソコが気になるみたいじゃの、どれどれわらわも。」


男は自分の股間をいきなり触り始めた、慣れない感覚を楽しんでいるようだ。

キヨヒコ自身、自分がどうなったのかようやくわかり始めた。

頭のてっぺんのほうを触ると犬や猫と同様、獣耳の感触がした。

それを動かしてみると耳をふさいだ時と同じように周りの音が聞こえなくなったりした。

お尻に謎の重量感を感じる。

首を後ろに回すとお尻から金色の何かがフサフサとたくさん生えている。

その一本の毛を触ってみると柔らかい毛の感触がし、『触られている』という感触が帰ってくる。まるで犬や猫の毛のような……。


髪の毛が先程から気になる、男の時から考えられないくらい長くなったそれは触るとサラサラしていた。

男には絶対ありえない柔らかさ、長さ、女性の髪の毛以外考えられない。


「わらわの任務はお主達の誰かと体を入れ替え、スパイとして活動し魔王軍を勝利に導くこと。

ちなみに体は一生戻す事は出来ぬ、だからわらわの体はこれから好き勝手に使ってもらって構わんからの。

お主は出来ぬと思うがわらわはこの体の情報を知る事が出来る。

……俺の名前はキヨヒコ、将来は隊長とも言われる有望の剣士、これがいつもの俺だな。」

「なっ……なっ……。」


あまりの展開に『妖狐』は開いた口が塞がらない。

何かを言おうとしても頭がパニックになっているのだ。


「キヨヒコ!なんでこんな所にっ……!?ってそいつ妖狐じゃねぇか!」

「……トシアキか、速すぎて俺じゃ捕らえきれない。手伝ってくれないか?」

「わかった!後で飯おごれよな。」


トシアキが剣を抜いた。

二人の鎧を着た男が妖狐に迫ってくる。

それも見慣れた男達が……妖狐は訳がわからないという顔をしている。


「うっ……うわああああああああああああああああ!!!!!」


妖狐は思いっきり地を蹴り走った。

普通の人間にはあり得ないスピードを出して走る。

後ろのほうで男達の声が聞こえたが妖狐はとにかく逃げ回る。

その顔は妖狐が今まで見せた事がない表情だった。





そして話は冒頭に戻る。


相変わらず雨が降り続いている。

妖狐は何時間この街中を走り続け逃げ回ったのだろうか。

いつの間にか包囲網が張られているのかあちこちに行っても兵士達だらけだ。

このままいつまで逃げればいいのか。

いつまで……?どこまで逃げれば……?どこに逃げればいいのか……?


長時間走り続けた為足はすでにガタガタで先程から震えが止まらない。

服や髪の毛、尻尾がずぶ濡れになりかなりの重量となり体にさらに負担をかける。

追い打ちをかけるように雨が妖狐の体温を奪い続ける。


「そっちにいたか!?」

「いや……見当たらない。」


妖狐のすぐそばで男達の声が聞こえた。

震える体を無理矢理抑え縮こまり両手で口を抑え声を出さないよう、バレないようにする。


ありえない、自分は何もしていないのに追う立場から追われる立場になっている。

状況次第では殺してもよいという許可も出ている。

下手をすれば妖狐という魔物の体で一生を終えてしまうのだ。

おまけに男では無く女として死ぬ――ありえない、ありえない、ありえない。と頭の中で何度も妖狐は思っていた。


「いたぞ!そこにいる!」


その声に寒さの為意識が揺らいでいた妖狐の意識が一気に覚醒する。

顔を右に向けると見慣れた鎧を着た男が立っていた。

その男と目が合う、つい数時間前まで自分だった男と目が合う。


「キヨヒコ、そっちにいたのか!よっしゃ!年貢の納め時だぜ!」

「あぁ、これで終わりだな。」


妖狐は立って三度逃げようとするが体力はもう限界だった。

フラフラと立ち上がった瞬間限界を迎えていた体がうつ伏せになるように倒れてしまう。

雨の降る音とガチャガチャと鎧を着た男達の走る音が妖狐の耳から聞こえた。

もう駄目だ。妖狐は意識が段々と薄らいでいるのを感じた。

もう二度と目を覚まさないのだろう、と思って。







「んっ……。」


妖狐は少女らしい可愛い声を上げ目を開けた。

起きた直後目に入ったのは鉄で作られた棒が目の前に多数存在していた。

自分自身の体を確認する。

いつの間にか衣類を変えられている、それはとてもボロボロで申し分ない程度に体を隠している。

スカートのスースーする感覚が慣れない。

ふとそれの中身を両目で必死に見ると自分の相棒は影も形も無く何も無かった。


そして両手にかけられた重い手錠、それは首元と鎖で繋がっている。

すぐ折れてしまいそうな細く、柔らかい両足を見つめると右足に何かが繋がれていた。

繋がれていた何かを確認すると、大きな鉄球が右足と繋がれていた。

それは非常に重く逃げる事すらままならない。


妖狐は捕まってしまい牢屋に入れられたのだろう。

おまけに自慢の脚力を生かし逃げられる事を考慮したのか足に大きな鉄球を繋いでいる。


首を軽く後ろに向けると見慣れないフサフサした毛があった。

それはいくつも存在しており、とてもフカフカで暖かそうだ。

気絶するまでは雨で濡れていて非常に重かったがいつの間にか乾いている。誰かが魔法で乾かしたのだろうか。

それとも妖狐の体はそういうモノなのか。妖狐はこの体については全く知らない。


「夢じゃ……ないんだな。」


冷たい手錠の感覚と足枷を体が感じとっている。

妖狐はすっかり高くなってしまった自分の声に違和感を感じつつそう呟いた。




――隊長室にて


「キヨヒコ、先日の妖狐捕縛の件だがお疲れだった。」

「いえ、自分は軍人として任務を達成したまでです。」


キヨヒコと呼ばれた男と髭を生やした男がとある部屋内で話し合っていた。

キヨヒコは若く、これからという感じの青年であるのに対し

男はいかにも隊長!という感じの雰囲気を噛み出している。


「それで……用というのは?」

「単刀直入に言わせてもらいます、あの妖狐は私に任せてくれませんか?」

「ふむ……面白い、聞かせてもらおう。」


男は笑みを浮かべた後、キヨヒコの話を何も言わず聞き始めた。

キヨヒコは男に対し自分の意見を述べ始める。

数分経っただろうか、キヨヒコの話が終わった。


「成程、お前が吐かせるという事か。」

「はい、ぜひとも私に任せて頂きたいのです。」

「確かにお前には将来的に俺の後釜として隊長になって欲しいのはある。

だがそれとこれとは話は別だ、何かいい策があるのならば……考えてもやらん。」

「私があの妖狐を路地裏で一番最初に発見しました。」

「それは聞いている。」

「その時に、私の血をあの妖狐にコッソリと飲ましたのです。」

「……奴隷契約か。」

「はい、それを使えば難なく情報を聞き出す事が可能でしょう。」


――奴隷契約。


それは魔術を使って魔物を使役する契約である。

主人となる人間の血を対象の魔物にほんの少しでも飲ませると第一段階が終了する。

その後、主人が契約の魔術を発動する事により一方的に契約完了となるのだ。

この契約の魔術は手間がかかる為、血を飲まして即発動という訳にはいかない。


ちなみに奴隷となった魔物は主人の言う事を必ず聞かなければいけない。

行動を制限出来たり、奴隷の意思関係無く無理矢理体を動かせる事も出来る。

聞かなければ奴隷に苦痛をもたらす。だから魔物から情報を聞き出すならば有効的な手段なのだ。


「わかった、お前に全て任せる。」

「……ありがとうございます!」


キヨヒコは男に頭を深く下げ隊長室から退室した。






「よう、しばらくぶりだな。」


何もする事がなく頭を下げてボーッとしていた妖狐の目の前に一人の男が現れた。

あの顔を見るのは何度目なのかもわからない。

妖狐の目の前にはキヨヒコが立っていた。

その顔は勝ち誇ったような表情である、本来ならばその顔をするのは俺だったのに――と妖狐は心の中で思った。


「お前……!よくもあの時はっ……!」

「なんだ、女の癖に口が悪いんだな。」

「何をっ!」


妖狐は男を殴ろうと立ち上がり突撃しようとした。

だが鉄球のせいで右足が動かずに激しい音を立てて牢屋の中で倒れた。

痛すぎる、両手を使って痛みを和らげればよかったが両手が上手く動かせないので全身を打ちつける感じで倒れてしまった。


痛みをこらえてると男は牢屋の中に入って来た。

そして何やら呪文を唱え始める、その呪文は妖狐も知っている呪文だった。


「そういえばお前、俺の頬を爪で攻撃した後、爪に付着した血を舐めてたよな?」

「っ……!」


妖狐はここでハッと気がついた。

最初の攻撃を妖狐がかわした後、反撃、その時爪が頬をカスり血を舐めていたいたのだ。

だが妖狐は自分の意思で男の血を舐めた訳ではない。


「人間の魔法には便利なのがあってな、それはお前自身よく知っているだろう?」

「やっ……やめろっ!」



挿絵(By みてみん)



妖狐は先程から容姿に合わぬ男言葉を使っている。

うっすらと涙を浮かべたその表情は年相応の女の子に見えてとても可愛い。

とても百を越えた魔物には見えない、抵抗しようと後ずさりしているが慣れない大きな九つの尻尾が邪魔で動きにくそうだ。

思わず守ってあげたい程の表情だ。女の子座りをしているのも高ポイントだ、男はそう思っていた。


「――目の前にいる魔物を、我がキヨヒコの奴隷にせよ!!」


男が大きくそう叫んだ。

すると妖狐の胸元に呪印が現れる。

激痛が走り妖狐は悲鳴に近い呻き声をあげて胸を張るように体を動かした。

数十秒経つと呪印は消え去り、何事もなかったようになった。


「され、これで契約完了だな。ひとまず……。」


妖狐は男――キヨヒコの奴隷になってしまった。

奴隷は主人であるキヨヒコの命令に一切逆らえない。

『死ね』と言われたら体が勝手に動いて死ぬ、『動け』と言われたら勝手に体が動く。

奴隷となった者は主人の命令一つで死ぬかもしれない。恐怖しか感じないのだ。


「何通りか制約を作っておくか。

1 俺に不利益な情報は一切しゃべるな。

2 俺の命令は絶対服従……まあこれは奴隷になった時点で問題ないな。

3 俺に暴力は一切振るうな。

他には……こんなものか。」


『俺』に不利益な情報は一切しゃべるな。

妖狐がもしも今のキヨヒコはキヨヒコじゃない!という事になりそれが信じられてしまったら厄介な事になる。

この時点で妖狐とキヨヒコの中身が入れ替わってしまった事は一切しゃべれなくなってしまった。


――終わった。

妖狐はそう思った。これで妖狐は二度と主人に逆らう事が出来なくなってしまった。

妖狐は倒れながらそう思っていた。


「よし、これから俺の事は『ご主人様』と呼べ、そして『俺には敬語を使え。』

後は……そうだな『この紙の内容を覚えろ。』」


ご主人様が妖狐に紙を渡してきた、その中に書いてある事を覚えなければいけない。

妖狐はその内容を見て驚愕した。


「これがわらわの計画じゃ、面白いじゃろ?」


男は妖狐の耳元にこっそりそう呟いた。

その声は妖狐以外には誰も聞こえていない、これは人間軍が敗北へと向かう第一歩でもあった。






「……なるほど、いい情報を手に入れたな御苦労だったキヨヒコ。」

「いえ、軍人として責務を果たしたまでです。」

「しかし……一週間後に魔王軍が総出で攻めてくる、か。」


隊長はキヨヒコの報告に一瞬驚いたが、すぐさま冷静になる。

キヨヒコによると、あの妖狐は魔王軍幹部の一人であり見た目は幼女だが年齢は百を越えている魔物だ。

隊長は何で幹部の一人が単独でこの街に潜入しに来たのかが気になっていたが……。


奴隷契約を結んだ場合、嘘は吐けなくなる。

嘘を吐けなくなった魔物が『一週間後に魔王軍が総出で攻めてくる。』と言ったのだ。

だからこれは嘘ではないだろう、おまけに幹部の一人がそう言ったのだ。なおさら信憑性は高くなる。


「俺は今から王や他の隊員達にこの事を伝達しよう。

キヨヒコ、お前は出来る限りの情報をあの妖狐から聞き出せ。」

「わかりました、失礼します!」


キヨヒコは隊長に一礼した後、隊長室から退出した。

キヨヒコが今まで見たことが無い不敵な笑みを浮かべているのを隊長は見逃していた。





一週間後。


魔王軍が総出で攻めてくる、と知った人間軍は総出で対策を練った。

街に防衛線を張り、人数を揃えいつでも迎え撃てれるように構える。

一般市民は避難を終え、市民の中でも戦える人間を集め準備を怠らなかった。


「……魔王軍は二手に分かれて攻めてくるのだな。」

「はい、確かに魔王様と話し合った結果そういう作戦で行く事に決めております。」

「とのことです、ですから――。」


王の間には数十人の人間と……魔物が一匹集められていた。

魔物は先日捕まえた妖狐、キヨヒコの奴隷となった妖狐だ。

妖狐の右足には重い足枷と両手が自由に動かせれないように手錠をはめている。

王の目の前に連れてきたが、王を殺せるはずが無いだろう。


人間軍の王、幹部、隊長達の目の前で魔王軍の作戦をキヨヒコの命令によってしゃべる妖狐。

ボロボロの衣類に身を纏った妖狐の顔は無表情である。

しかし妖狐は内面で泣いていた。

今、こうして王や幹部、隊長達に伝えている情報は全てウソなのだから。


紙に書いてあった内容は今日この時に全て話す事だった。


妖狐は『騙されないでください!この内容は全てウソです!』と言いたい。

だが、奴隷契約を課せられた妖狐はご主人様の命令は絶対なのだ。


「よし!では我々も二手に分かれ魔王軍を迎え撃つ!皆の者!勝利を期待しておる!」


王が大きな声でそう叫んだ。

「「「「「はっ!」」」」」と一斉に声が揃い、幹部、隊長達が王に一礼する。

彼らに混ざって作戦会議に出席したキヨヒコも同じように叫んでいた。




魔王軍の行動は全て人間軍の予想外の行動だった。

二手に分かれるどころか一ヶ所に集まって攻めてきたのだ。

だから二手に分かれて攻めてくるのを予想し、そう迎え撃つ作戦だった人間軍はここから崩れ始める。

人数を半分に裂いてしまった為人数が足りないのだ。

あっという間に人間軍の兵士たち、市民達は殺されてしまい戦局が一気に魔王軍に傾く。


「なんだと!?魔王軍が一ヶ所から攻めてきた!?」

「はい……!もう片方はもぬけの殻で誰も攻めてこない状態でした……!

即座に援軍に向かわせましたが時すでに遅しという感じです……!」


王に報告した兵士の一人はそう言いうなだれていた。

それだけではない、妖狐が言った魔王軍の作戦内容とその対策が全て裏目に出ているのだ。

魔法部隊が大量に出てくるので魔法対策をしっかりすればいい、と妖狐は言っていた。

だが実際に出て来たのは大量の物理攻撃に特化した部隊ばっかりだった。

魔法対策はしっかりしていたが物理対策はしていない為、人間軍は苦戦を強いられる。


「ありえん……!奴隷契約は嘘は絶対に言えない……!だとすると……!」


その時、王がいる部屋が大きな音と共に壁の崩れる音が聞こえた。

壁が崩れた時に発生した土煙によって王の視界は遮られる。

王は思わず咳き込んでしまった。視界がようやく元に戻ると目の前に多数の魔物が現れていた。

その魔物達の先頭に立っているのは……。


「キヨヒコ!貴様っ……!」

「王、あなたの時代は終わりです。これからは魔王様の時代なのですよ。」


王は裏切り者を今まで見せた事がない目つきで見据えた。

対象的に裏切り者の男は余裕そうな顔で王の目を見据えている。


「あなたはこれから死ぬのですが、最期にいい事を聞かせてあげましょう。

実は私は『キヨヒコ』であり、『キヨヒコ』では無いのです。」

「何を言っている……?」

「今、地下牢にいる妖狐――彼女が本当の『キヨヒコ』なのですよ。」

「貴様まさか禁術を……!魔物にも伝わっているとは……!」

「そうです、私はその禁術を使いこの『キヨヒコ』の体を手に入れました。

人間の体は妖狐と違い不便ですね、身体能力が違う分今までの動きが出来ないのは不便でしたよ。

ただ、風呂場で体を洗う際は大きな尻尾と狐耳がない分かなり楽でしたよ。」


男は冗談を交えながら王にククッと愛想笑いをした。

その顔は勝利を確信した顔でもあった。


「……男の体は女性だった『わらわ』にとってとても新鮮なものであった。」


感謝しておるぞ、そう男が姿に似合わぬ台詞を吐いた後、王の胸に剣が突き刺さっていた。


――その瞬間、人間軍の敗北が決まった。

残った人間達は全て捕らわれ、奴隷にされたり処刑にされた、と百年後に発売された歴史書にそう書かれている。




「よう、全て終わったぞ。」


還り血を浴びた鎧が地下牢にわずかに差し込んだ光に反射している。

地下牢に閉じ込められた妖狐はその男の顔を睨んでいた。


「……。」

「何も言う事なし、か。まあ仕方ない、何か質問はあるか?」

「皆……死んだのですか?」

「あぁ、王は直々に俺が殺したよ。」


男はハハッと笑いながら妖狐に報告した。妖狐の表情が段々と暗くなってくる。

そして妖狐は体を震わせ瞳からは涙を溢れさせている。

その顔は悔しそうだ、だが男は妖狐を慰めずに言葉を続けた。


「お前は運がいいよ、『わらわ』の体は悪くなかろう?

百歳をこの間迎えたがいつまでたってもロリロリボディだから腹が立ってたんじゃ。

ほら、妖狐といえばスタイル抜群のお姉さまタイプが多いではないか。

部下からは体の事で馬鹿にされ、同じ幹部達からはロリババァと言われる始末。

おまけに『おかし、あげようか?』とかほざいてくる奴らまでおったわ。

顔は美少女なのに何言ってんだこやつら!と思うしか無かったわ。」


三度笑いながら妖狐にそう言った。

妖狐はついに声をあげて大きく泣き始めた。

その様子は見た目だけを考慮すると年相応の子供が泣いている雰囲気だ。


「泣くな、これからは『俺』がお前を一生面倒を見てやる。

元に戻れないと言っただろう?他の幹部達にも紹介してやるから、な?」


男は妖狐の頭をそっと撫でた。

フサフサした狐耳の感触がとても懐かしい、と男は思う。

一週間前に入れ替わったばっかりだというのに、もう何年も入れ替わっているみたいだ。と男は思っていた。


中々泣きやまない妖狐に男は考えていた。

こういう時に『おかし、あげようか?』と言えば大丈夫なのだろうか、と思った。






――それから数日後、隊長室にて


魔王軍の勝利が確定してから数日、街は魔物だらけになり完全に占領された。

残った人間達もこれから捕えて奴隷にしたり抵抗する者は処刑する予定だ。


「ほうフタバ、本当に人間になったのだな。」

「今の『俺』はフタバじゃない、キヨヒコだ。」

「これはこれは失礼キヨヒコ殿、先日の作戦見事だったぞ。」

「俺は自分のやるべきことをやっただけだ、そちらこそ前線での指揮は見事だったぞ。

流石は俺と同じ幹部だけはある、御苦労だったなトシヒコ。」

「しかし……。」


トシヒコと呼ばれた男の魔物はキヨヒコの後ろに立っている小さな魔物に目線を移した。

小さな体に似合わぬ大きな九つの尻尾をお尻から生やし、頭から生えた二つの狐耳は……横に垂れている。

小さな魔物は怯えた表情でキヨヒコの横に立っていた。

人間の子供の女の子が着るようなフリルがたくさんついたゴスロリ服を着ている。

トシヒコが目を小さな魔物に合わせると恥ずかしそうに、そそくさとキヨヒコの背中へと回った。

そしてキヨヒコの背中を盾にしながらそっとトシヒコを見つめていた。かなり人見知りな性格のようだ。


だが、トシヒコはその魔物の事をよく知っていた。


百にもなって体が成長せずにロリ止まり、しかし見た目に反して魔王軍の幹部になれる程の実力を兼ね備えている。

そんなギャップが激しい妖狐、フタバであった。


今のフタバの行動と目付きがどう見ても子供のそれに見える。


「おいおいそんな目付きで睨んでやるなよ、『フタバ』が怖がっているだろ?」

「この目付きは生まれつきだ、今までのお前を知っている分ギャップが激しすぎるんだ。」

「フタバは先の人間軍の敗北を知り、精神をちょっと病んでしまったみたいでな。

奴隷契約もあるかもしれない、すっかり人見知りな性格になってしまったんだ。

おまけに『魔物が怖いんです。』とか言い出す始末。」

「それはお前が悪いと思うが。」

「否定はしない、確かに俺はキヨヒコの体を奪い取ったお陰で魔王軍に勝利をもたらした。

だからこの勝利は元の俺の体の中身である『キヨヒコ』のお陰でもある。

俺はこれから一生を賭けてコイツと共にすごそうと思う。」

「そうか、お前の好きにするがよい。では俺はこれで失礼する。」

「今度は酒でも飲み交そう、フタバ、トシヒコ『おにいちゃん』に挨拶しておけ。」

「……トシヒコおにいちゃん、ありがとうございました。」


キヨヒコに命令されたフタバと呼ばれた妖狐はぺこりと頭を下げた。

その光景はとても可愛い。

トシヒコはフタバに一瞬だけ微笑み隊長室を後にした。


その後、キヨヒコとフタバの関係がどうなったのかは誰も知らない。

後の歴史書には魔王軍に占領されたこの街を治める者は人間と妖狐のハーフの魔物だと書かれている。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 血を舐めていたいたのだ。 いたいたのだ→いたのだ [一言] 可能ならノクタで愛されるフタバが見たいですね( ˘ω˘ )
[一言] 一気に読み進めてしまいました。もし続きがあるなら見てみたいです。
[一言] モフモフや~(´▽`)ノ しかも、ロリTS(人外)&幼児退行(゜Д゜;) 自分の好みが短編の中にたっぷり入ってました 妖狐という高次の存在に手玉にとられる様がとても面白かったです …
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