表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

僕のプレゼント

作者: 雨宮みけ


夕暮れ時、駅のそばの小さなお店であなたと出逢った。


多くの人々が前を横切り去りゆくように、

あなたもいつものように横切り去っていくものだと思っていた。

でも、今日は違ったんだ。

人の波間で歩みを進めるあなたと、ふと目が合った。


あなたはその足を止めて、向きをかえゆっくりと近づいて来てくれた。

僕のそばで、少し腰をかがめて微笑んで、僕の鼻先を指で弾いた。

あなたの手がすーーーと伸びてきて、僕を掴む。

沢山の仲間たちの中で一番貧相で、未熟な僕を選んでくれた。

どうして?他にもあなたが手にすべき魅力を備えた仲間たちは大勢いたはずでしょう。

そんな疑問もあったけど、何よりこんな僕を選んでくれたのが凄く嬉しかった。

いぶかしげに僕を見送る仲間たち。ほんとうならピースサインでもして「お先に」なんてはなたからかに、余裕の表情をお見舞いしてやればよかった。いや、あかんべーでも食らわせてやってもよかったくらいなんだけど、僕はただ、もじもじと顔を赤らめあなたを見上げるばかりだった。



お家に着いたら、あなたは僕を座らせ「喉渇いたろ」って微笑んでくれた。

僕はあなたを見つめながら小さく頷いて見せる。あなたはお水を持ってきてくれて、僕に飲ませてくれた。水分が体中に行き渡り僕は大きく息を吸って、ゆっくりと息をはいた。生き返ったなんて大袈裟だけど、すっごく気持ちがよかった。

そんな僕にあなたは微笑み頭を撫でてくれた。


こうして僕とあなたとの二人の生活が始まった。


朝になると「おはよう」って言って微笑み、お水をくれる。僕が飲み終えると決まって優しく撫でてくれた。出かける前にはポカポカ日差しが差し込む窓辺へ連れていってくれて、僕はその温かな光の中まどろみながら、窓の外を眺めたり、お昼寝なんかをして時間を潰す。

あなたの「ただいま」を待ちわびて。


休日は大好きです。あなたと過ごせる時間が沢山持てるから。

あなたは僕のそばで本を読んだり、お昼寝を一緒にしたり。そして微笑んでくれて、たまに話しかけてくれた。無口だけど優しい眼差しをくれる、この静かな時間は僕のお気に入りです。

そんな休日でも出かける事がある。こればかりは仕方がない。あなたにはあなたの生活があるのだから。

僕はただ待ち続けるだけ。あなたが僕の元へと帰って来てくれるのを。


ある休日のお出かけで、帰ってきたあなたは僕にお土産を買って来てくれた。

さっそく着替えさせてくれて。まだちょっと僕には大きなソレに少しの照れと、初めてプレゼントを貰えた嬉しさでなんだかこそばゆい。

本当は、あなたが毎日くれる微笑みとお水と僕を撫でてくれる温もりだけでも充分幸せなんですけどね。

「ありがとう」をあなたにあげたい。


そして、それは叶えられた。


僕が初めてあなたへ贈るプレゼント。あなたは目を見開いて凄く喜んでくれた。そして、いつものように微笑んでくれたその目の隅にキラキラが見えた。それを見て僕は心から嬉しくなった。



僕はあなたが大好きだ。



もっとあなたに喜んでもらいたい。そう願い続け、また一つあなたへのプレゼントができました。

一つ、二つとプレゼントは増え、ある日あなたは神妙な面持ちで僕にハサミを入れた。

一瞬の痛みが身体を強ばらせた。一つ一つ、プレゼントを回収していくあなた。

僕はワケが分からずにただされるがまま、あなたを受け入れた。ショックではあったけれど。

それでもいいと思った。なぜならあなたは回収した僕のプレゼントを嬉しそうに束ね「ありがとう」と

いつものように撫でてくれたから、微笑んでくれたから。


あなたは束ねたプレゼントを持って机へと向かった。

なにか一生懸命作業をしているようだった。その夢中になってる背中を見つめ愛おしく、少し寂しくも思えた。しばらくしてあなたは嬉しそうにプレゼントを掲げた。


そして、同時にチャイムの音がする。

慌てて僕を持ち上げ棚の上へ置き、テーブルを片付け用意された二人分の食器。冷蔵庫からは小さな丸いケーキ。セッティングを完璧に、あなたはお客さんを出迎え部屋に招き入れた。

お客さんはニコニコ嬉しそう。

ケーキに夢中になってるお客さんの肩をトントンと叩いて。その人の前にあのプレゼントを出した。

きれいに着飾られたプレゼント。



「わーー、すごい。コレなんてお花?」


「アネモネって言うんだ。」


「へー、初めて見た!綺麗だね!」



お客さんはプレゼントに添えられたカードを開く。



「花言葉?」


「うん」



後ろ髪をクシャりとかき上げ照れるあなた。

そんなあなたに、お客さんは笑って「ありがとう」と言った。






花言葉・・・・

お店で仲間たちと話題になった事があった。僕らには沢山の花言葉があるってことを。



「はかない恋」「恋の苦しみ」「薄れゆく希望」「清純無垢」「無邪気」

「辛抱」「待望」「期待」「可能性」



そして、それは咲かせた色にも意味が変わってくるものがあるのだと。途中までしかその会話を覚えていないし、残念ながら何色がドレとかまでは、僕にはわからない。


意味は、確か・・・




「君を愛す」・「真実」「真心」・「あなたを信じて待つ」






僕の花は何色ですか?









でも、二人を見て思ったんです。



僕は来年も、再来年もあなたにプレゼントを贈り続けようと。


だって、とびきり嬉しそうなお客さんとあなたの笑顔を見ることができたから。







評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] こんにちは。 読ませてくださいたので、感想をかかせてください。 読み終えて、本当にぽかぽかとしてしまいました。 はじめは僕の正体はペットなのかな、と思っていたので、ちょっとびっくりです。…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ