思いついたが--?
言い終えて少しの間の後、彼女は涙を流した。僕はびっくりして、ただただうろたえていた。
二週間前の事だった。
その日は高校の入学式で、僕は高校生になった。
僕は高校生になったという事実から、何か、中学より成長したところを見つけたくて、隣近所の、幼なじみで、腐れ縁で、好きな、女の子に、一つ歩み寄りたくて、告白しようと考えたのだ。
しかし、現実的に、一度も告白なんてしたこともない奴に告白なんてできるわけなくて。最初一週間はどうやって告白しよう、どんな風に言えば? どこで? なんてそんな事をただ考えていた。
翌週の頭の事だった。いつも通りに幼なじみと軽い挨拶程度の雑談をしていると、ふと不安が襲ってきたのだ。それは、いつもなら思いもしないもの。
「彼女は僕の事をどうとも思ってないんじゃないか? それでもし、断られたら?」
今までは絶対考えもしなかった。しかし、今こうやって告白の文句に苦しんでいる僕にとってそれは割とダメージが大きかった。僕は頭を抱える。
「どうしたの?」
不意に彼女が話しかけてくる。
「いや、なんでもない」
気を紛らわすために、ふと腕時計に目を落とすと、割とヤバい時間だった。
「そろそろ行かないとヤバいから、じゃな!」
「うわ、本当だ。じゃあ、気を付けてね」
走りながらも絶望していた。もし、ふられたらどうするかなんて考えてもいなかった。成功するものとしか思っていなかった。ふられたら……。
--シミュレーションの時点でダメージは絶大だった。というか「ごめんなさい」の一言は、こんなに重いもんなのか。うわ、駄目だ言えっこない。でも、言わなくちゃ。せめて、気持ちのケジメとしてでも、彼女に気持ちを伝えたい。だけど、ふられたら。だって、俺ルックスが良いわけでないし、アイツにちょっかいだしたりもしたし……。うう、自分で自分が情けない。
そして、この「もし」「だって「でも」「だけど」のスパイラルから無理矢理脱出したのは告白前日である日曜日の夜の事であった。
うだうだ悩んでいる自分にいい加減飽き飽きして、吹っ切れたのだった。
もうどうなってもいい。当たって、砕けたらその時はその時だ! チクショー! かかってきやがれ!
そんな意味不明な気合いを入れてみるとなんとなく気持ちがすっきりした気がして、僕は気持ちよく布団に潜り込んだ。
翌日の朝、いつも通りの時間に僕は意を決して彼女に言葉を切り出した。
「あの、さ……」
「なに?」
「えっと、その」
言葉が出て来ない。口が渇く。背中は汗で湿る。心臓は早鐘を打つのに頭の回転は止まっていた。
「好きです」
この一言がどうしても出ない。僕はただ金魚みたいに口をパクパク動かしていた。
「どうしたの? 具合悪いの?」
彼女が心配して話しかけてくる。ああちくしょう、そうじゃねえよ、鈍感。こっちはお前に「好きです」が言えなくて困ってるんだよ。
「大、丈夫。大丈夫」
「じゃあ、どうしたの?」
くそ、言えよ。たった一言だぞ? 四文字しかないんだぞ? なんでこんなに口が動かない? 体は石になってる? ほら、昨日あんなに覚悟決めただろう? あれは嘘か、虚勢だったのか? ぐ、あー!
「す……」
「ん?」
「す」の一言が重い。ここで言ったらもう、元には戻れない。だけど、俺は……。
「好きだ!」
「えっ?」 決めたんだ、言うって。気持ちを伝えるって。その気持ちに偽りはないし虚飾もない。
「だから、付き合ってくれ!」
ちょっかいがなんだ。これだってちょっかいみたいなもんだ。さあ笑え、笑えるもんなら笑ってくれたほうが楽だ。
「本、当に……?」
彼女の目が、こちらをまっすぐに見据える。
「本当に。本気で」
正直な気持ちを正直に話す。もう引き下がれない。彼女は何を言うだろうか? 「ごめんなさい」? 「こちらこそ」?
言い終わった後の時間。永遠にも思える緊張の空気が流れる。
しかし、彼女が涙を流した事により、時が再び動き出す。僕の予測を斜めに行っていたので対応できず、ただうろたえていた。
「だ、大丈夫か?」
なにが大丈夫かはわからないが、心配になって彼女に話しかける。
「うん……大丈夫。ただ、嬉しくって……」
彼女は涙を指でこすりながら微笑む。
嬉しい? って。え。っていう事は?
「いいのか?」
「うん。こちらこそ、よろしくお願いします」
何故かよくわからないけど握手をする。
結果、僕の告白は成功した。
「それにしても、お前が鈍感すぎて焦ったぞ」
「む、鈍感じゃないもん。寧ろ鈍感なのはひろ君の方だもん。私が、何年その言葉を……」
後半がよく聞こえなかったので聞きただすと「知らない!」と彼女がそっぽを向く。そんな彼女が愛おしい。
「ごめんごめん」
謝って笑う。
僕と彼女の関係が、少し変わった。そんな春の朝の事だった。
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