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ある奴隷の日常  作者: 氷霧
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9. 公女

「こいつはエレオノーラ。エレオノーラ・ロジェス。この国の第7公女様だ。大公の子供もこれだけ多いと暇らしくてな。暇を持て余すとこうやってお忍びで押しかけてくる。エレナというのはお忍びの時の名前らしい」


ちなみに、ロジェ公国大公には6人の公子と11人の公女がいる。


「ずいぶんな言われようですわね。私が来て差し上げなければ客もおらず寂しい生活でしょうに」

「いや、客などおらずとも全然構わないのだが」

「もう・・・どうして受け入れて下さらないのでしょうか・・・」


強気だった王女も冷たくされ続けて目じりに涙が浮かんできていた。その様子に、ついに後ろの騎士が我慢の限界を超えたらしい。


「貴様!言葉遣いといい奴隷を同席させたことといい、殿下に対する無礼の数々!不敬罪で捕えてくれる」


と言いながら、剣の柄に手をかけた。


「フリード!ウェルス様に対して手をあげることは許しません!」

「しかしっ」

「黙りなさい。私に恩人を処罰させるつもりですか」

「・・・申し訳ございません」


公女に命じられ、フリードという名らしい騎士は歯を食いしばりながらも剣から手を離し元の位置に戻る。フィエナは、男爵である主人の無礼な口をとがめず奴隷の同席すら認めた公女が自らの護衛を厳しく叱責する姿を、やや意外に感じながら見ていた。どうも身分差に寛容と言うより、ウェルスの言うことなら反対しないということの様だ。

会話が止まってしまったこともあり、直接会話をして良いものかどうか悩みつつ、口に出してみる。


「あの、よろしいでしょうか?」

「なんだ?」

「公女様が恩人とおっしゃっておられますけれど、ご主人様は何をされたのですか?」

「・・・」


主人が何とも言えない嫌そうな、後悔するような顔で黙りこむ。返事は横からもたらされた。


「ウェルス様は誘拐されそうになった私を助けて下さったのですわ」

「ご主人様が?」


正直、意外だった。まだ会って数日だが、誘拐犯と戦う様な荒事を積極的にする様には見えない。


「あれは2年前に開催された夜会でのことでした。私の正式な夜会への参加はまだですが、母の親族に当たる伯爵家令嬢の誕生パーティということで参加していたのですわ。あまり経験が無いことでしたので疲れてしまい庭に出て休んでおりましたところを、不届き者に攫われかけてしまったのです。その時、ウェルス様が颯爽と現れて不届き者を打ち倒し、私を救ってくださったのですわ」


主人を熱っぽく見つめながら公女が続けた。あまりにイメージに合わない話にフィエナは主人を不躾に見つめてしまう。不機嫌そうな顔で明後日の方を向いていた主人であったが、このまま好きに話させておくことに危険を感じたらしく、会話に加わってきた。


「勝手に話を作るな。誘拐犯を足止めしたのは使い魔の魔法。最終的に倒したのも捕縛したのもお前の護衛だろう。俺はおまえを引っ張って逃げただけ」

「そうだったでしょうか。いずれにしても、ウェルス様がいらっしゃらなければ私が攫われていたことに変わりはありませんわ」

「偶然だ偶然」

「嘘です。会場の警備の穴に気付いてあらかじめ用意しておかれたとお聞きしましたわ」

「余計なことを・・・」

「それからずっとこうして婚約してくださるよう参っておりますのに、どうしても受け入れてくださいませんの」

「そろそろ諦めて欲しいのだが」

「私、公女なのにどうしてこんな扱いなのか時々疑問に思いますわ。私を妻にと望む者は星の数ほどいるのですのよ」

「この家以外のどこに行ってもお望みの通りに扱ってもらえると思うぞ」

「私はここが良いのです!」

「じゃあ諦めろ。玄関で追い返さないだけでも譲ってるんだ」

「うう~」

公女が頬を膨らます。年齢に比して大人っぽい言葉を話す少女の子供っぽいしぐさに微笑ましいものを感じながら、フィエナは自分用に入れた紅茶を飲んだ。


「貴方、聖王国の方ですの?お茶の出し方も飲み方も聖王国の貴族風ですわね」


突然、真面目な顔をして公女が言ってきた。紅茶の器の出し方が、聖王国では柄が左側、他の地域では右側なのだ。フィエナは蜂蜜を入れるが、かき混ぜた後のスプーンの置き方も違う。知識としては知っていたが、給仕などしたことが無かったのでそこまで気が回らなかったのだ。


「申し訳ございません。お察しの通り、私は聖王国の出身でございます」

「先日の戦で奴隷になられたのですわね」

「はい」

「聖王国の貴族でフィエナ、ですと!?」


公女と話をしていると、突然騎士が声を上げた。そういえば、先ほどからフィエナの顔を見て何事か思い出そうとしていたようだ。


「そなた、いや貴方は蒼姫様ではあられませんか?」

「え?」


と驚いた様な声を上げたのは公女殿下である。フィエナは素直に頷いて良いものかどうかわからず主人を見、ウェルスは面白そうに口元をゆがめている。騎士が確信が持てないのは、絵姿しか見たことがないからだ。公女であるエレオノーラもまだ他国の貴族に直接の面識があるような年齢ではない。


「そう言えば絵で見たお姿に似てますわね。本当に蒼姫様ですの?」

「そうだ。ちょうど奴隷市場に出ていたから買った」

「何を考えておられますの?問題になりますわよ」

「前から家の雑用をさせる奴隷は欲しいと思っていたからな。どうせ買うなら美しい方が夜も楽しめるしな」

「不潔ですわ!」


公女をからかう主人は楽しそうだが、その様子を冷たい目で見つめる騎士の表情がフィエナには気になった。

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