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ある奴隷の日常  作者: 氷霧
7/10

7. 変化

読んで下さっている方、評価をしてくださった方、お気に入りに登録して下さった方、ありがとうございます。


説明が続きます。すいません。そろそろ登場人物を増やしたい・・・。

目標は10話までに+2人です。



結局昨夜はあまり眠れなかった。身体が火照ったような痛痒い様な奇妙な感じで寝付けなかったのもあるが、どうも眠気自体があまり来なかった気もする。そう言えば、昨夜は食事も取らずに寝てしまったが、朝になってもあまり空腹感が無い。自分の体がどうなってしまったのか不安になるが、考えてどうでもなるものでもない。今日こそは主人よりも早く起きようと思い夜明け前に夜着から服に着替えて、はたと困った。

(起きたのは良いけれど、何をすればよいのかしら?)

家事には魔法が上達するまでは手を出さない方が良いだろう。となると、することがない。あまり喉はかわいていなかったが、とりあえず飲み物でも飲んで頭をすっきりさせようと思い、台所に向かうことにした。


まだ外は白み始めた時間だが、相変わらずこの家は明るい。そこでフィエナは様子がいつもと違うことに気がついた。廊下の所々にある光る液体を入れた細長い容器の上から光が出ているのはいつものことだが、同時に黄色っぽいもやもやとしたものがたゆたっているのが見える。見回すと、廊下にある数個の容器すべてがそうなっているようだ。これも加齢遅延の魔薬の効果なのだろうか。主人に尋ねてみたい気もしたが、部屋に行って起こす勇気もなく、食堂そこに繋がった台所に向かった。


『光よ』

いつものように古語で呟くと、部屋に明かりがともる。やはりここの明かりにも黄色っぽいもやは見えた。やはり、周囲ではなく、自分の目が変わったのだろう。台所で炭をおこし、湯を沸かす。普通はマッチで火をつけて屑や藁に火をつけてから木を燃やすらしいのだが、この家では木に直接台所にある液体をかけると、すぐに木が燃えだす。昨日教えてもらった通りに液体をかけると、同じように火がついた。ところが、昨日は見えなかった赤色のもやが一瞬見えた気がする。実害は無いが何となく気味が悪い。

(聞きたいことがあるときに限っていないのだから)

やや理不尽なことを考えながらお湯の沸くのを待っていると、


「今日は早起きだな。良く眠れたか?」


と声がした。この主人は足音と言うものを立てないのだろうか?度々驚かされることに少し腹を立てながら振り向くと、ニヤニヤとした顔をした主人の姿が見えた。

(ひどい主人では無いのでしょうけれど、好きにはなれないわ・・・)

どことなく楽しそうな主人を不愉快な思いで見つめながら、


「おかげさまで。ご主人様も何か飲まれますか?」


と返した。


「そうだな。もらおう。お前と同じものでいい」


と返事があったので、祖国の物に比べれば少し渋みの強いロジェ公国産の紅茶を入れた。


「何か変わったことがあったか?」


二人分の紅茶を用意してテーブルに着くと、主人が聞いてきた。あったことを知っているのであろうに、わざわざ聞いてくるあたりが正確の悪さを物語っている。


「ええ。明かりや台所の火をつける液にもやの様なものが見えます。ご主人様はこれが何かご存知でしょうか?」

「魔力、だな」

「魔力?」

「正確には、指向性を持った魔力、と言うべきか。昨日渡した本を読んだのなら書いてあったはずだが、魔力自体は人体にもそのあたりの空間にもある。それは"力"だが、特に何をするでも無い言わば"止まった"状態の力だ。対して、魔術や魔薬は"動き出した"力と言うことができる。お前には"動いている"魔力が見えているわけだ。何か魔術を使えば、似たようなものが見えるはずだぞ」

「そう・・・ですか。明かりと火種で色が違ったのは、種類によって違うということなのでしょうか?」

「そうだな。ちゃんとした法則までは知らないが、熱が上がるものは赤っぽく、下がるものは青っぽく、明かりなんかは黄色っぽく見えることが多い」

「ありがとうございます。ところで、これは昨日の薬のせいなのでしょうか?」

(他に理由は思いつかないけれど)

「そうだ」

「はぁ・・・。他にも何か効果があるのでしたら教えておいていただけないでしょうか」

「そうだな・・・。おまえは魔族についてどの程度知っている?」

「魔族、ですか?北方に住んでいる、人間と良く似た外見の種族ですよね。褐色の肌と黒髪・黒の瞳を持っていて、魔術に長けていると聞いています。国を作って、北の国と時折戦争をしているのではなかったでしょうか。あ、あと、その血や体が魔術の触媒や魔薬の原料として優秀だ言う話を聞いたことがあります。加齢遅延の魔薬の材料でもあるのですよね?」

「ふむ。まあ、間違ってはいないな。西方8国・・・パラエキアが滅亡したから7国か、で魔族と境を接しているのは北のオーセリア王国だけだからな。あまり馴染みがないだろう。お前が言ったような外見上の違いもあるが、もっとも大きいのは、魔力への依存の差だ。魔族の持つ魔力容量は大半の人間の魔力より遥かに大きい。そして、生命維持や活動にも人より遥かに多くを魔力に依存している。ここが重要で、魔力による生命活動は年月により劣化しない。要するに、歳を取りにくい。魔族の平均的な寿命は150から180歳ほどと言われているな」


さらっと祖国が滅亡したと言われて反駁したくなったが、首都が落ちて王族がほぼ全滅では抗弁にも説得力が無い。仕方なく、黙って話を聞く。


「そして、魔力に依存するところが大きい分、魔力に対する感覚も鋭い。魔力が高いものになると、肉眼で魔力が見えるそうだ」

「え・・・?」

「まあ、ここまで言えばわかるな。加齢遅延の魔薬は、体を魔族に近い状態にする薬だ。倍率2倍くらいでは大した変化は自覚しないがな。さて、効果だが、加齢が遅くなる他は、魔力が見えるようになる、魔力の吸収が早くなる、つまり魔力の回復が早くなる、食事や排泄の必要が減る、睡眠時間が少なくて済む、物理的な怪我をしても死ににくくなる、代わりに魔力自体への攻撃には弱くなる、これくらいか。ああ、有名なところで、女は妊娠しなくなる。魔族と人間の間にはまれだが子供ができるらしいが、何故かこの薬を使っている間はできない。これせいで王妃なんかは世継ぎができるまでこの薬はご法度になってるな」

「子供ができないのは別に良いのですけれど、私は魔族になってしまったのですか?」

「別にそういうわけじゃない。魔力で維持されている部分が多い人間になっただけだ」

「どう違うのかよくわかりませんが・・・」

「魔族が魔族である最大の要因は、社会的に魔族であると認識されていることだ。人間社会では受け入れられず、素材として狩られかねない。それさえなければ、魔族と人間は隣で暮らしていても良いくらいには似た存在だからな」

「そうなのでしょうか」

「まあ、何にしても、人間の姿をしていて、意識と記憶がそのままなんだから、あんまり気にすることは無いだろ。俺は気にしなかったぞ?」

「では、ご主人様も?」

「当たり前だろう。でなければ、効果を知っているわけがない」


それはそうかもしれない。勝手に体を作り変えられたことに言いたいことはたくさんあるが、言っても無駄なのもわかっている。

(ものすごい勢いで忍耐力が鍛えられている気がするわ・・・諦めが良くなるのが良いことなのかどうかはわからないけれど。されたことが必ずしも悪いことばかりでも無いあたりが複雑ね)

今回の薬にしても、老いることが無くなり、食事の必要も減って、死ににくくなるらしい。害どころか、大金を積んででも欲しい者が数え切れないほどいるだろう。なんとも複雑な心境になりつつ、疑問に思ったことを確認しておく。


「食事の必要が減るとのことですが、どの程度になるのでしょうか」

「今までの経験だと、1週間に1回程度食事をすれば、あまり空腹は感じないな。空腹感さえ我慢すれば1カ月程度は何も食べなくてもさして体に害は無い。そう言えば、使い魔から明日帰ってくると連絡があった。食事を用意するのも面倒だから、明日までは食事無しにする。食べたければ自分で適当に食べておけ」

「わかりました」


奴隷に勝手に食べておけとは・・・相変わらずである。今のフィエナの立場は、空腹に苦しむほとんどの奴隷と、多くの貧民に羨まれるものなのかもしれない。

(あまりご主人様に感謝する気にはなれませんけれども・・・)


「今日は何か予定がございますでしょうか?」

「昼過ぎまでは地下にいる。上がってくるまで昨日渡した本も読んでおけ。昼過ぎからは出かけるかも知れない。一応そのつもりでいるように」

「わたくしもですか?」

「当たり前だ」


普通、貴族は外出に奴隷など連れて行かない。あまり当たり前とは思えなかったが、そのまま主人が部屋を出て地下に行ってしまったので、疑問を口にすることはできなかった。仕方が無いので、綺麗に空になった二つの紅茶のカップを片付けたあと、自室で魔術書の続きを読んで過ごした。

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