Only You and Me
掲載日:2026/03/07
「準備できた?」
こぢんまりした商店の壁一枚隔てたその向こう。空は重くどんよりした色の雲に覆われいまにも雨が降り出しそうだった。
私とあいつがここに逃げ込んで二週間が経った。
ニュース速報で未知のウイルス謎の感染症という言葉が報道された。そして同時多発的に各地に広がった感染症に父、母、妹、弟が感染した。歯を剥き出しにして噛み付いてくるみんなから逃げることに必死だった私は家族の最期を見届けられていない。
「雨が降り始めたら一気に行くよ」
逃げる途中で仲間になったあいつは、私のかすり傷だらけの腕や足をちらっとみて口から大量の唾液を垂れこぼした。
「あー、あんた赤ちゃんなの? 私よりも背が高いくせに」
ぶつぶつ言いながら私はあいつの唾液を拭ってやった。あいつはぎらぎらと視線を漂わせ、私の手をこわごわと握る。がさがさしてところどころ骨が見えててグロテスク極まりない手を私は優しく握り返した。
「ひとつ言い忘れてた」
あいつの手首と私の手首には離れ離れにならないように赤い縄ががきつく結ばれている。
「今日も生きるよ」
外で一際大きな雨音が聞こえ始めた。




