流れ星ひとり
『あるところに、争いの絶えない国がありました。
人々が傷つき、悲しむ様子を見た王子は、父である国王に願います。
「国王様!お父様!!国民は皆苦しんでいます!!どうか、あなたの命令で争いをやめさせてください!!」
それを聞いた国王は、悲しそうに下を向いて王子様に言いました。
「私の命令では、もう争いは止まらないのだ。国民に私の声は届かない。」
王子は国王の悲しい顔を見て言います。
「分かりました。それでは僕が泉の魔女の元に行き、この国の皆が争いを止め、笑顔になるようお願いしてきます。」
それを聞いて国王は、歩きだろうとした王子の腕を掴んで言います。
「待ちなさい。泉の魔女は願いを聞く代わりにお前の大切なものを奪ってしまう。」
王子は国王の手を振りほどいて言いました。
「それでもいいのです!お父様!僕はそれでも皆を救いたい!」
国王は去っていく王子の背中に、
「待ちなさい!待ってくれ!行くな!!」
と何度も呼びかけ、追いかけますが王子の決意は変わりません。バタンと扉を閉め出ていってしまった王子をただ泣きながら見送ることしかできませんでした。
王子は泉の魔女の元を訪ね、願いました。
「泉の魔女様、どうかこの国を平和な国にしてください。」
泉の魔女は困ったように言います。
「王子様、その願い叶えて差し上げたいのですが、この国の皆の心を変えることになるのです。その魔法にはとても大きな代償が必要です。王子様、あなたの命だけでは足りないのです。」
少し考えて魔女は王子に問いかけました。
「王子様、あなたは皆のために自分の命と心を砕くことはできますか?」
王子は意味がわからず魔女に問いかけます。
「それはどういう意味ですか?」
「これから私が皆の心を変える魔法をかけるとあなたは遠くの空の星になります。ただ、あなたの人間としての命の長さの分しか人々の心は変わりません。あなたは星になると人の命が終わっても、長い時間を孤独に過ごすことになります。そして遠くからこの国を見つめることを強いられます。人々の心の行く末を、あなたは遠くから見つめることしかできないのです。それでも、人々の心を穏やかに変える魔法を望みますか?」
優しく正義感の強い王子は迷わず答えます。
「はい、僕は皆が幸せになるのなら、それで良いのです。」
「その幸せが永遠に続かないものだとしても?」
「はい、人の心はきっと幸せであり続けることを望むと信じています。」
「……そうですか、そこまで仰るなら魔法をかけて差し上げましょう……。」
こうして王子は星になり、遠くの空に輝きました。
国の人々は争いをやめ、皆微笑み合い、幸せに暮らしはじめます。
王子の星は、夜毎にきらきらと美しく、黄金色に輝きましたが、たくさんある星の中、誰も王子の星を見ていません。
人々は微笑み合いますが、王子は微笑み合う相手もなく、孤独に空の遠くで国の皆を見守っていました。
それでも皆が幸せならそれで良いと王子は優しい気持ちになりましたが、それは気が遠くなるほど長い長い孤独の時でした。
やがて70年が経った頃、人々は再び争い始めました。
王子の人としての命が終わり、心を変える魔法が解けてしまったのです。
王子は酷く悲しみました。せっかく皆幸せになったのに、
「他の者が持っているものが欲しい。」
「あいつの考え方は許せない。」
「こんな日常は退屈だ。」
と言い争いをはじめてしてしまったのです。王子はこの時はじめて強く後悔しました。
魔法で一時しのぎをしても、人の心は変わらなかったのです。
「それならば、もうこの私がこの国を終わらせるしかない。」
長い孤独の果てに、希望も期待も全てをなくした王子は、争いが終わらないのならば、もうこの国ごと消してしまうしかないと思ったのです。
王子は流れ星になり、流れる涙と一緒に、夜空を裂いてきらきら輝き、国に向かって落ちていきます。
そんな王子の目に、ふと、幸せを願い、人を救う民の姿がうつりました。
全てを消してしまっては、争いをやめない者たちと変わらないのではないか。王子は自分の過ちに気づきます。
ですが、もう流れ星となってしまった自分を止めることはできません。
王子は最期の力を振り絞って、国に落ちる前に自分を粉々に砕き、空の上で砕け散りました。
地上で争っていた国民たちは、突然の空が昼のようにぱあっと明るくなったことに驚き、争いをやめて空を見上げました。そこには、美しい星々が弾け散るように流れてゆく素晴らしい景色がありました。
たくさんの流れ星は長い時間、きらきらと止めどなく降りそそぎ続けました。
人々は口々に、なんて美しい星空だ、と呟きます。そうして武器を持つ手から、武器を捨て言いました。
「こんなに美しいものがそこにあったのに、同じものを美しいと思えるのに、なぜ争うことがあったのだろう。」
その日から、この国に戦争はなくなり、その後は平和な時代が続いたと言います。
王子の優しさが国の皆を救ったのでした。めでたしめでたし。』
そこまで読み終えると、お話を聞いていた子どもたちは王子様格好いい!や優しい!と口々に話します。
物語を読んでいた老婆は子どもたちに話します。
「これは物語の中のお話だけれど、みんなも平和や幸せを、すぐそばにある素敵なものを大切にするんだよ。王子様のような、きらきらは皆の心の中にあるのだから。」
はーいと返事をして、読み聞かせが終わった子どもたちは楽しそうに帰っていきます。
その背中を見送りながら、老婆は一人、悲しそうに呟きました。
「本当は、あの子どもたちのきらきらした笑顔を王子様にも見せてやりたかったねぇ……。」
夕暮れの空を見上げ、老婆は一人、星を眺めます。
そこにはもう、王子の星の欠片すら見つけられませんでした。




