やつらのサバイバル
とある町では、例年まれに見る熊の被害が出ている。
そこで、対策として駆除に乗り出し、効果をあげていた。
ところが、町役場の環境課には、電話がひっきりなしだった。
──
『熊を殺さないで!』
『人間と熊の共存を』
『熊の住処を追いやったのは人間だ』
といった調子だった。どれもこれも遠く離れた地域からだった。
連日の抗議の電話に、職員は疲れ切っていた。
──
今日も抗議の対処に追われていた。ある職員は、さっきからひとつの電話に付きっきりだ。
町内からの電話だった。
「はい……。ご意見は承知しておりますが、住民の安全を優先して……」
『そもそも、熊にも生きる権利はあるのではないですか』
「はい、動物愛護の観点はごもっともですが……」
『熊にどんぐりをあげれば、人間の住処に押し入ったりしないのでは』
「熊に餌付けをすると、却って人間に慣れて恐れなくなるという研究が……」
『とにかく、鉄砲で撃ったりするのは、やめていただきたい』
「はあ、そう申されましても、私共としましては……」
『やめるなら、どんぐりをあげてもいい』
「え? なんとおっしゃいましたか」
『彼らにも事情があるのだよ。だから、一方的に人間の都合を押し付けるのはよくない』
「そ、それはそうですが……」
『もういい。また電話する』
電話が切れた。
職員は受話器を置いた。なぜか手の震えが止まらなかった。
────
町内のとある住宅では、誰もいなくなった家の中で、動く一体の生き物がいた。
その生き物は、冷蔵庫をあさるのをやめると、横たわる住民をまたいで部屋を横切り、電話機に向かった。
器用に前足で受話器を取ると、長い爪でダイヤルをした。
「……もしもし。環境課ですか」




