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ダイアリーより綴る譚  作者: しゅんゑ
魔獣掃討編
40/41

過去に助けられるのは普通のこと

ガチで投稿遅くなってすみません!!!!あともう少しで春休みに入るので、ペース上げていきます!!!



「応答はなかったわ。」

栄花がトイレから戻ってきた。それが朗報かどうかはわからない。

「ということは戦闘中で会話がままならないのか?スキル封じなのか?どっちなんだ?」

どちらにせよ、魔獣から連絡がまだ来ないという分には絶対に鳳が死んだなんてことはない・・・はずだ。

「・・・くっ。本当に、ごめん。私のせいで。」

栄花が自責の念に耐えかねるように俯き、消え入るような声で謝罪を口にする。

でも、俺の脳裏には一つの憶測が流れてしまった。

「―――というか、栄花の言っていることは本当なのか?」

「え?どういう・・・」

「最初の質問、栄花は俺たちの味方なのか?」

非情な問いだと分かっている。だが、瀬戸際のなか、情に流されて目を曇らせるわけにはいかなかった。

「もちろんでしょ。」

「これを言うのはあまりに心が痛むのだが、そのー。証明してくれ・・・」

栄花の肩がびくりと跳ねる。その瞳に、明確な傷の色が浮かんだ。

「すまん。もう俺も、何をどうすればいいのか分からないんだ。だが、今は不確かな要素を排除して、事実だけで足場を固めていきたい。」

「そう、だよね。」

「頼む。」

「とは言われても、証明するってどうやって。」

「―――監視とか?」

「や、やだ。」

「なんでまんざらでもなさそうなんだい?」

「違うわ!しかも家帰ってこなかったら親心配するし。」

「それもそう、か。てか、今できることだからな。」

「でも、栄花が嘘をついていたら俺は今すぐにでも空港に行かないといけない。」

「私には証明するものを持ち合わせていない。」

俺は頭を抱え込み、呟いた。

「もう、どうしたらいいんだ。」

鳳は、そこまで危機感を持っていないと思う。この魔獣騒動はただの遊びだと思っている。あれだけ、痛みを受けても恐怖を感じていない。むしろ好戦的になっている。もっと試したいと思っている。

お気楽なのか、頭のねじが外れているのか、俺にはわからない。

俺がわかるのは、自分のことだけ。はじめは、俺も遊び感覚だった。でも、毒野郎の毒を食らい続けて理解した。これは遊びじゃないと。それに、一国が滅びたんだ。多分、いままでに何十万人もの人間が殺され、何百万人の人が居場所をなくした。

師と呼べるものもいないから俺たちは孤独に戦うなかで強くなっていくしかない。

そんな中、俺たちがいつ終わるのかがわからないこの魔獣騒動に勝って勝ち続けないと、この世界が終わってしまう。

「俺は、その命運の端を握らされているようで・・・怖いんだ」

ポツリと、心の底に澱んでいた本音が零れ落ちた。

「・・・ずっと。ずっと、あんたたちを騙していた私が言える立場じゃないんだけどさ。」

栄花が静かに口を開く。

「なんだよ?」

思わず強い口調で言ってしまった。

「い、いや。なんでも・・・」

彼女は言い淀み、しかし真っ直ぐに俺の目を見据えた。

「ただ、私を信じて。」

その言葉は、ひどく甘く、そして残酷な響きを孕んでいた。真っ直ぐに俺を見据える栄花の瞳には、微かな震えと、縋るような切実さが入り混じっている。

『信じる』―――たった四文字の言葉を口にしてしまえば、どれほど楽になれるだろうか。疑心暗鬼に苛まれるこの息詰まるような重圧から逃れ、彼女の差し出す細い手に縋り付いてしまいたい。そんな微弱で人間らしい衝動が、胸の奥で暴れ回る。


だが、今の俺の肩には、余りにも巨大で重すぎるものが懸かっている。


喉の奥まで出かかった『信じる』という安易な言葉を、俺は血を吐くような思いで呑み込んだ。

冷徹な理性が、警告を鳴らし続けている。今はまだ、己の感情だけで手を取ってはいけないのだと。

「信じたい。だけど、その選択一つで鳳が、ましてやこの世界が終わるかもしれないんだぞ。」

そんな俺の返答を見透かしていたかのように、栄花はすかさず優しく言う。

「私、ひとつだけ、嘘ついた。起こりは何となく感知できたの。」

「は?」

「ごめん。罪悪感であの時、咄嗟に『ええ』だなんて嘘ついて。」

そんな些細な隠し事は、今更どうでもよかった。

「それはいいんだ。」

「もう、これで私は何も隠していない。今あるのは純粋無垢な露崎栄花よ。」

「純粋でもなければ無垢でもないだろ。」

「殴るよ。」

「やめてね。」

苦笑いを浮かべて返すと、不意に栄花がテーブルの上に手を差し出した

「な、なに?」

「昔のあれよ。」

栄花は口角を上げながら手を指相撲の形にする。

それにはひどく見覚えがある。

昔、あいつらとやっていた約束の宣誓。

「懐かしいな。というか、それはズルじゃないか?」

懐かしさににやけながら俺は無条件で手を差しのべ、指相撲の形で手を取る。

「なんで?」

「絶対にやらないといけないやつじゃん。」

「でも、これが一番いい証明方法でしょ?」

「そうだな。」

そして、お互いに手を優しく握る。

「私は、絶対に嘘をつかないわ。」

「俺は栄花を信じて、頼る。」

あのときは、特に意味もなく戯れていた行為。

でも、それは過去に誓うという意味を伴って、成就した。

「さっきはすまん。焦りすぎてた。」

それにしても、さっきの信じて、頼るってセリフ臭すぎて照れるな。

「仕方がないよ。」

ふぅ、と長い息を吐き出しながら、背もたれにぐったりと体重を預ける。その姿勢はツンデレの域を超えている気がする・・・そんなことはどうでもいいか。

とはいっても、これからどう動くべきか。

「俺。どうすればいいんだろう。」

宛てのない漠然とした思いを栄花に問う。

「とりあえず、待つしかないと思う。私も待つよ。」

栄花は天井を仰ぎ見ながら、静かにそう言った。

「・・・ありがとう。」

自然と、笑みがこぼれる。

「お待たせしました。こちらアイスティーとパンケーキ、コーヒーです。ホットサンドは少々お待ちください。」

店員さんが出したパンケーキを、すぐさま頬張る。そんなにおいしそうに食べると俺も食べたくなっちゃうのだが。

「それまで、情報の共有をしよ。」

栄花はパンケーキを飲み込んだ後、そう言う。

「いいね。そうしよう。」

俺は胸の奥でひしめき合っていた不安や焦燥を静かに押さえ込み、コーヒーのカップを手に取った。張り詰めていた息苦しさは、もうなかった。



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