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ダイアリーより綴る譚  作者: しゅんゑ
魔獣掃討編
39/42

Interlude-totunyuu

投稿が遅れてすみません!!!

2026/3/24追記:すみません!!!内容を変えたので確認お願いします!!!

「なるほどね・・・『魔界』なんてお伽話、本当に実在していたんだ。」

吹雪が窓を叩く音だけが響いていた魔王城・資料保管庫。その静寂を、場違いに軽い女の声が切り裂いた。

宙に浮いた一冊の古書が、見えない指先に操られるようにページをめくられる。

そこには、極級幻影魔術『イリュージョン・レクイエム』によって姿も魔力も虚無へと溶け込ませた侵入者がいた。看破系のスキルを持たぬ者には、決して届かぬ不可視の領域。

「それで―――アビスバロウの連中、一体何を企んでいるのかしら?」

独白は、自身の存在を誇示するような不敵さを孕んでいた。しかし、ある頁に差し掛かった瞬間、めくる手は凍りついたように止まる。

「魔界掃討作戦・・・ニドイからの『神級転移魔術師』の招待・・・。これは、洒落にならないわね。」

慌てて次の頁を繰る。文字を追う瞳が焦燥に揺れた。

「転移地点は・・・なによこれ、隠蔽スキル?ぼやけていて見えない・・・とにかく、一刻も早く国に報告を――」

本を棚へ戻し、立ち去ろうとした刹那。資料保管庫の重厚な扉が開かれた。

と同時に、右前方から心臓を握り潰すような強大な魔力が噴き上がる。

「鼠が一匹。・・・チロアーフの飼い犬かの?」

そこに立っていたのは、白銀の鬣を湛え、金のリングで髭を束ねた老爺であった。カシミアのローブを纏い、星図の刻まれたチェストガードを帯びたその姿は、一見すれば隠居した賢者のようでもある。だが、エメラルドグリーンの双眸に宿る光は、獲物を逃さぬ猛禽のそれであった。老爺の掌には、あまりに矮小な、されど濃密な魔力を放つ杖が握られている。

「無視とは、老い先短い身には堪えるのう。・・・それにしても、イリュージョン・レクイエムを使っているのに魔力が感じられんのは不思議じゃのう?」

老爺はのろりと左によろめく。

そして、独楽のような鋭い回転と共に、老爺の左フックが虚空を切り裂く。

「クッ!」

緊張した声がすると、左フックはそのまま虚空を切り裂いた。

老爺は一瞬驚いたが、すぐに脱力し、勢いを流す。

「――全能なる神よ。大地に慈悲を示せ。プレス。」

脱力したまま放たれた詠唱。老爺が杖を突き出した先、目に見えぬ重力の塊が空間を押し潰した。轟音。床がクレーター状に陥没し、石材が爆ぜる。

「・・・なんで場所が判るのよ!」

弾かれたように響いた怒号。老爺は何かに蹴られたように後退したが、空中で魔力を放出し、柳のように衝撃を逃して着地する。

「ミラージュ・レムナントか。存在を誤認させる極級魔術。・・・イリュージョンと並行して使い、わしの眼を欺くとはな。・・・カカッ、血を流したのは久方ぶりじゃ。」

老爺は口端に滲んだ朱を拭い、愉悦に瞳を細めた。

「種が割れたのなら、隠れていても魔力の無駄ね・・・」

虚空から、一着の外套が浮き上がる。深く被ったフードの隙間から、艶やかな金髪がこぼれ落ちた。露わになったマゼンタの双眸は、ジト目ながらも鮮烈な光を放っている。

「良いのか? その姿を晒せば、もう逃げ場は無いぞ。」

老爺の挑発を、女は不敵な笑みで撥ねつけた。

「ヘッ! 極級魔術を使い続けるほど魔力も安くないわ。ここからは速度勝負よ!」

女は全速力で回廊へと躍り出る。だが、老爺は微塵の動揺も見せず、女の進路へ杖を向けた。

「終わりじゃ。」

杖の先端に、世界を融解させるほどの高密度魔力が収束する。

「想定済みよ!」

背後から迫る破滅の気配を、女は勝ち誇った声で一蹴した。

「・・・!?」

ゴォオオオオオオオオ―――――

直後、魔力弾という概念を超越した光の奔流が放たれた。

壁を破壊するほどの威力。直撃すれば、霊体どころか魂そのものが抹消されるであろう至高の術。・・・だが、女は。

「やばっ!」

背後を襲ったのは、光の奔流だけではなかった。

足元が突如として凍りつき、重力に引かれるように滑って転倒する。魔術を介さずとも属性を帯びるほどの魔力純度。そして、氷と重力の多属性持ち。

「―――星辰・・・!」

女の喉が、戦慄に震えた。アビスバロウ唯一の多属性使い、伝説の天使。世界黎明戦争において隕石の如き魔術で戦場を灰燼に帰した、至高の魔導師。

「危ないところであった。・・・おぬし、まだ『レムナント』を解いておらなんだな。」

老爺は悠然と歩み寄る。

「・・・直撃の瞬間に捕獲に切り替えるなんて、化け物・・・っ!」

女は抗おうと魔力を練るが、老爺は容赦なく顔面に向かって二撃目を放った。溜めすら感じさせぬ絶技。

「久々に楽しめたわい。」

老爺が壁と床、資料保管庫の片付けをさせようと衛兵を呼ぼうと廊下の奥を振り返る。

「誰もいないか。一人でやるか・・・」

老爺は資料保管庫の中に掃除用具や修復用の資材が置いてある部屋に入ろうとした。

―――

だが、その時。歴戦の猛者が陥る唯一の隙、“油断”が、静寂の中に生まれた。

「しまっ・・・!」

魔力感知がまだ二十メートル以内にあった。振り返った老爺の視線の先。

そこには、横たわっていたはずの女の姿は無かった。残されたのは、粉々に砕け散った金色の外套の断片のみ。

「『レザレクション・クローク』か・!やってしもうたな・・・」

レザレクション・クローク。着用者の生命力がゼロになろうとした瞬間、三度だけ霊体と魂の傷と生命力が全回復する外套。これはかつて天使の部族国家であるベゴアニでしか製作できなかった秘宝。今となってはそれを作れるものは少数となり、入手困難物となった。

老爺は悟った。女はこの一瞬の隙に賭けていたのだ。


「冗談じゃないわよ・・・レザレクションを使う羽目になるなんて。国王に大目玉食らっちゃうわ・・・」

資料保管庫の一階上、物陰に潜んだ女は、荒い呼吸を整えながら金髪を束ね直した。魔王軍団長クラス以上、それも「星辰」と相対して生き延びたのは奇跡に近い。

だが、城内は既に蜂の巣をつついたような騒ぎだ。魔術を使えば感知され、潜伏を続ければ包囲される。

「おー、神よ・・・」

皮肉を込めた祈りを捧げた、その時。


―――時を越えて避ける、魔法


地を揺るがす衝撃音。

廊下の先から、一条の巨大な光柱が膨張し、全てを呑み込んで迫り来る。兵士たちの悲鳴が耳を刺す。

女は瞬時に最大出力の防御魔力を展開したが、その奔流の前では木の葉も同然であった。

壁を突き破り、宙を舞う。意識が断絶しかける激痛の中、視界に「警告:生命力低下」の文字が明滅する。

そして、レザレクション・クローク二度目の発動。

生命力が回復していくと、ドサリ、と重い落下の衝撃が女に走る。目を開けると、そこは惨状のまっただ中であった。

灰色に輝く巨大な魔法陣。血と瓦礫に塗れた異様な空間。傍らには虫の息の魔獣と、動かぬ二人の人間。

「人間・・・ニドイの軍服? ・・・あぁ、ここが本に書いてあった転移場所なのねー。」

女は顎に手を当て、状況を整理する。

あの光柱に呑み込まれた衝撃で、偶然にも目的の座標まで吹き飛ばされたのだ。

そして、そこに居合わせた者たちは、今の攻撃の余波に呑まれたらしい。

「あいにく転移魔術のあれこれは知らないのだけど。」

とりあえず、と女は呟きながら冷徹な眼差しで、足元に転がる魔獣を見下ろした。

「殺した方がいいか。」

右手を魔獣にかざし、無慈悲な魔力弾をその脳天へと叩き込む。

絶命。

その瞬間、魔法陣が呼応するように咆哮を上げた。視界が真っ白な光に塗り潰され、空間が歪む。


[これで、いい]


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