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ダイアリーより綴る譚  作者: しゅんゑ
魔獣掃討編
38/41

暴いてもそこは闇というのはどこでもいっしょ。

ずっと投稿してなくてすみません!!!ぜひ最後まで見て言ってください!!!

「俺は、花だ」

深い意味など持たせず、ただ事実を放り出すようにそう告げた。

向けられた言葉の意図を測りかねたのだろう。栄花は俺の手を振り払いながら、パチパチと瞬きを繰り返した。その小首をかしげる仕草には、困惑の色が濃く滲んでいる。

「・・・答えになってないんだけど」

「ま、もっともだな。しかしながら、鳳花の何者かと問われても困る。二重人格の片割れだという事実は、もはや揺るぎようがないからな・・・」

「は? 二重人格?」

栄花の瞳に疑念が浮かぶ。無理もない。彼女にとっての「鳳花」は一人しかいないはずだ。鳳が鳳花で俺は部外者だと言われてもまあ、仕方がない、か。

俺は溜息を吐き出し、説明の糸口を探した。

「あー、その話をしていなかったか。・・・まず、俺は鳳花であり、鳳花ではない。」

「どういうこと?」

「栄花も知っているだろう?今の―――俺ではない、高校一年生の時の鳳花が、記憶喪失に陥っていることは。」

「え?ええ・・・」

栄花が眉間に深い皺を刻む。その表情は、見たくない真実に近づく子供のような危うさを孕んでいた。俺は容赦なく言葉を継ぐ。

「つまり、俺は中学時代の鳳花だ。ずっと、鳳花の意識の淵でずっと見守っていた。」

「あ、え。」

栄花の目が見開かれた。驚愕、困惑、そして火花を散らすような思考。それらが混ざり合い、重苦しい沈黙が場を支配する。

俺はその静寂を切り裂くように、決定的な爆弾を投下した。

「栄花。さっきは嘘をついてすまん。中学時代のこと、俺はすべて憶えている。」

静寂は、一瞬で崩れ去った。

「え、嘘、でしょ・・・?」

彼女の喉から漏れたのは、喘鳴に近い震え声だった。

縋るような、あるいは拒絶するような眼差しが俺を射抜こうとするが、その瞳の奥では、逃れようのないが黒い渦を巻いている。

「嘘じゃない。俺の家族のことも、はっきりと憶えている」

「え、あ、ほ、本当?」

確信という名の刃を突きつけられ、彼女の視線は力なく、逃げ場を失って床へと滑り落ちた。

「本当だ。―――俺が、鳳花が飛び降りたことも。」

「て、てことは・・・」

栄花はうつむき、消え入りそうな声で呟いた。

「・・・もちろん、和希のことも、憶えている。」

その名を口にした瞬間、栄花の唇が痙攣するようにわななき、無理やり固く結ばれた。

決壊寸前の涙を見せまいと、彼女はさらに深く、闇の中に顔を埋める。

「そんな泣くなって。」

「泣いて、るけど。・・・いろいろ、込みあげちゃって。」

そして、一度決壊した感情は止まらない。彼女の肩が激しく上下し、嗚咽が漏れ出す。

およそ一年半。幼馴染の親友を亡くした悲しみと、記憶喪失になり元の人格を忘れた親友への接し方の疑念に苛まれていたんだ。

そんな中、新しく親友と呼べた人も自殺未遂をする。また、魔獣騒ぎときた。

栄花の心情に思いを馳せながらも、俺は痛々しい姿を冷徹に見つめる。

そして、俺は残酷な言葉を重ねた。

「栄花。俺は、元々の鳳花よりも酷い。だからお前にかけてやる慰めの言葉も見当たらない。ただ、これだけは言いたい。いままで、独りにしてて悪かった。」

「あんたは、平気なの?」

「ああ。もう割り切ったからな。」

失ったものはもう取り戻せない。家族も、親友も、時間も。それらにいちいち囚われていたら、今あるものも知らず知らずのうちに失ってしまう。

だから、ここで昔話をしたり、栄花の心を気にする余裕はない。

「すまんが、それよりも聞きたいことがある。今は、感情の整理よりも実利を優先したいんだ。」

栄花が涙を手で拭い、落ち着く。

「・・・いや、私が、私がほんと、全部悪い。私が、命を懸けて、あんたたちに伝えなかったために、あんたたちに苦しい思いをさせて・・・」

罪悪感に押し潰されそうな彼女の発言に、俺は眉をひそめた。

「それは全然気にしてない。それよりも、引っかかっていたんだが、なんで、そんな遠回しな言い方をする?」

「・・・言え、ない。」

「なるほど。」

彼女の反応で察しがついた。何らかの制約が彼女を縛っているのだ。

「そういう、本人の発言を強制的に縛る『何か』があるわけか。そしておそらく、無理やり言おうとすれば、デスペナルティが下る・・・といったところか。」

栄花は力なく、しかし明確に頷いた。

「紙に書いて伝えるのは?」

「無理。」

「なるほどな。・・・じゃあ、思考を変えよう。イエスかノーで答えてくれ。」

栄花は少し考えるようにうつむく。

「……分かった。それでいこう。」

 覚悟を決めたのか、栄花が顔を上げた。俺は尋問を開始する。

「まず、化け物―――魔獣側と連絡を取っているか?」

「イエス。」

「その連絡は、スキルか何かによるものか?」

「ノー。でも、スマホみたいなもの。」

「なるほど。それは、化け物たちが持ち込んできたものか?」

「イエス。」

「それは今、俺に見せられるか?」

「ノー。」

「今、持っているか?」

「イエス。ただし・・・」

「出せないのか?」

「イエス。・・・だけど、惜しいわね。」

「『見せられない』のか?

「イエス!イエス。」

そこに関しては「イエス、だけど見せられない。」でよくないか?まあいいか。

と、いうか。鳳からの返事が微塵もないんだが・・・

戦闘中か?

いや、あの「鳳」だぞ?

『撃つ』と言った後は『外した』とか、『当たった』とか、『やったか?』とか、何かしら言うと思う。

何かあったか?

俺は、ソウルコネクトを発動させる。

『生きてるか?』

しかし、返ってくるのは虚無のような沈黙だけだった。

『鳳・・・?おい、鳳!応答しろ!』

冷や汗が流れる。悪寒が走る。焦燥に突き動かされ、俺は栄花に詰め寄った。

「今!化け物と通話はしているか?」

「してないけど・・・」

「鳳―――俺の二重人格で、まあ、高校生では普段の鳳花だ。それで、今は『鳳』と呼んでいるが、そいつとの連絡が・・・着かない。」

「!」

 栄花の顔から血の気が引く。

「栄花、お前も俺たちの会話を聞いたり、スキルの起こりを感知して知っているはずだ。俺たちが―――」

「ノーよ。あんたたちの話は聞いていたけど……。」

「スキルの起こりのがあるのは知ってるけど、感知はしてないということか?」

「ええ。」

「分かった、いい。話を続ける。・・・栄花、お前は俺たちがスキルで秘密裏に会話していることを知っているな?」

「イエス」

「それを魔獣に伝えているのか?」

「・・・イエス。」

彼女の告白に、心臓が早鐘を打つ。

スキル封じ。または鳳の死亡。どちらにしても最悪だ。スキル封じに関しては俺は何もフォローできないし、天吸も魔力操作も何もかも使えなくなる。

「今、魔獣と話せるか?」

「イエス。」

「じゃあ、今どんな状況か聞いてきてくれ。鳳に何が起きているのかを!」

「・・・分かった。でも、人目があるとダメ。だからトイレに行ってくる。」

「なら、すぐに行ってこい。」

「分かったわ。」

 背中を向けて走り出す栄花の姿を見送りながら、俺は言いようのない予感に襲われていた。


視界の端から端まで、すべてが煉獄と化していた。

先刻までの輝かしい朝日は、いつの間にか沸き立った黒雲に蹂躙され、空は昏く淀んでいる。

大気を埋め尽くすのは、暴威となって飛び交う無数の魔力弾と、肌を焼くほどに濃密な魔力の熱波。

熱い。肺が焦げ付くほどに。

視線を転じれば、名もなき人々が魔力の礫に貫かれ、あるいは劫火に巻かれて消えていく。その光景を、僕は冷めた、それでいてひどく研ぎ澄まされた感覚で見つめていた。

僕は肺腑の熱を殺し、息をひそめる。

体外へ漏れ出そうとする魔力を強引に内側に抑え込み、気配を無へと沈めていく。

魔力弾が霊体を貫こうとすれば、意識を極限まで加速させ、着弾点を覆うように、で魔鎧を発動させる、

熱い。だが、我慢だ。好機は一度しか訪れない。

『撃つ。』

花に短く告げた。

意識とは裏腹に、指先が微かに震えているのがわかった。

不安だ。

本当にこの一撃で、あの化け物を仕留められるのか。底知れぬ恐怖が、背筋を這い上がってくる。

『リラックスして。本能に身を任せて撃て。周囲の人間も、放った後の反動も、今はすべて忘れろ。ただ、まっすぐに相手のことだけを想え。』

花の穏やかで、どこか突き放すような冷徹な声が脳内に響く。

それを聞いた瞬間、なぜだろう、不思議と笑みがこぼれた。

こんな絶望的なクソッタレの状況、ここ最近の魔獣騒動だけじゃなくて、この感覚は、こう、ひどく懐かしい。そうだ。僕ならいける。僕にできないはずがない。

もう、恐れるものなど何もない。

ただ、あいつの脳天を目指し、その引き金を、魂を、解き放つだけだ。

「アディーオス。」

これはスペイン語か。ガハハ。

そして、指が、トリガーへと掛かる。

その時だった。


―――時を越えて避ける魔法


そう、言葉が聞こえた刹那、網膜が焼き切れるような閃光が、目前を薙いだ。

魔獣がその白光に呑み込まれるのとほぼ同時、僕は反射的に、温存していた魔力をすべて注ぎ込み、最高出力の魔鎧を展開する。

「なっ・・・!?」

叫びは、轟音にかき消された。

僕の意識も、世界の輪郭も、すべては無慈悲な白へと染め上げられていった。

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