ダブル主人公なら相方の話をするのが王道でしょpart1
ギーンゴーンガーンゴーン
昼休みのチャイムが鳴った瞬間、教室はまるでスイッチが入ったみたいに騒がしくなる。
ある者は友達の机に行って弁当を広げ、ある者は扉の所でそこを通る人の迷惑だと自覚していない素振りを見せながら他クラスの者とくっちゃべり。
ある者たちはスマホを出してこのアニメ面白くない?とかゲームしようぜとか笑い合っている。
―――この譚で何度この擬音語と風景をタイプしただろうか・・・筆者としてのメタな愚痴が漏れそうになるが、今はどうでもいい。
「はあー。」
僕は、肺の底にある空気をすべて入れ替えるような、深いため息を吐き出した。そして、現在、僕達はお弁当を持ちながら中庭に向かっている。授業中に届いた、栄花からの「昼休み、中庭に来て。」という一方的な招集指令。まったく、人遣いの荒いベイビーだぜ。
「そんなため息ついていたら勝てる戦も負ける戦になってしまうよ。」
「花は、戦いにいかないからこの気持ちわからんやろて。」
「まあまあ、落ち着いて。」
「落ち着くためにため息をしていたのだが・・・」
憂鬱だ。なぜかってこれから戦いに行くのだから。ちなみに僕は栄花と合流する前にこの学校を出たかったのだが、花が肉体の操作が面倒くさいとのことで、中庭に着いてから出ることになった。まったく、人遣いの荒いガキだぜ。
とはいっても、教室から中庭までは案外近いからいいんですけどね。
そうこうしている間にあっというまに中庭に着いた。
「じゃあ、そこで入れ替わるか。」
周囲に怪しまれないよう、囁くような小声で告げる。
「了解。鳳、スイッチ!」
「キリトの『アスナ、スイッチ!』みたいに言うな。子供か。」
「まだ、現役のティーンエイジャーですが、なにか?」
「こいつ・・・」
憎たらしいほど涼しい顔で返しやがる。
僕は、さらに大きなため息を出しながら、座り、お弁当を置く。そして、僕が先に体から出て、花が体に入った。
『というか、肉体にいるときに俺と話すときはソウルコネクト使いなさいな。』
「ええやん。別に誰にも聞かれてないんだから。」
というか、周りの目がある中で、こういう秘密の会話をするのって、なんか潜伏の王道みたいでかっこいいな。
『いや、ワンチャン猫ちゃん誰かに聞かれているかもでしょ。』
はい、本日二度目の「ワンチャン猫ちゃん」。なんだこの独特すぎるフレーズは。最近流行ってるんか?
「それ、流行ってるん?」
『それって?』
「ワンチャン猫ちゃんって言葉。」
『いや。俺が作った言葉だから知られていないと思うけど。』
「そうなんか。」
変なところで偶然が重なるものだ。まあ、今はそんな瑣末なことはどうでもいい。
「じゃあ、行ってくるな。」
『ああ、健闘を祈っているよ。行ってらっしゃい。ちなみに、「例の物」は傘置きの下に置いといたから。』
「お、ないすー!」
『「お、ないす」って、ヤバすぎだろ。』
「何が?」
『はあ、早くいけ。』
「はい、はい。じゃあね!」
背後で手を振る(であろう)花の気配を背中に感じながら、僕は踵を返した。目的地は空港。僕は弾かれたように駆け出し、爆速で校門へと向かった。
「おっ、はやいじゃん。」
鳳がここを去って少しすると、俺たちが入ってきた入り口から弁当を片手に栄花が入ってきた。
「そっちが遅いだけじゃない?」
努めて、鳳らしく彼女に接する。
「私はあんたと違って教室が遠くてね。」
「ハハ、ただののろまの子豚さんかと・・・」
「もう一回、それ言える?」
栄花は俺の制服の首根っこを軽く握りながら恐怖の笑みでこちらを覗く。
これは全人類が恐怖を抱くであろう。異論はないものとする。
「すみません・・・苦しいから話してほしい・・・」
「二度と私のことを人外扱いしないと誓える?」
「ち、誓いますうー・・・ぶへっ、ゴホッ。」
栄花は案外素直に離してくれた。体から見ていた時はもうちょっと粘っていたのに。やっぱり、俺の予感は的中していたのか?
「なんか、いつもに増して素直ね。何かあったの?」
彼女はそう言いながら、僕の隣に座り、弁当を置く。
どうやら俺が鳳に・・・鳳花になりきれていなかっただけらしい。ヤレヤレ。
「いやー。今日はあまり寝つけてていなかったからさ。そのせいかな、元気がないー。」
そういいながら俺は座りながら腰を折って、腿と腿の間に顔をうずめ、地面に着いた手をぶらつかせる。
「ドンマイ!」
「急にマネージャーの真似をしてどうした。血迷ったか?」
「元気づかせようとしたのに、その反応だから彼女ができないんだよ。」
「そこに因果関係があるとするならば、全世界の男に彼女はできないぞ。なぜなら、栄花みたいなやつが、かわいい女の子の掛け声をしたら、絶対に僕みたいな反応をするから。」
「殺すよ?」
「事実だし。」
「殺すよ?」
どうやら何を言っても俺が殺される運命は変わらないらしい。
俺は、顔を上げて、大きく伸びをしながら言う。
「殺していいのは殺される覚悟のある人だけだ。」
そういいながら栄花のおでこをデコピンしようとした。
その瞬間、栄花は身を引いて、左手を伸ばし俺のおでこにデコピンをかまそうとしてきた。
俺は迫りくる手を軽々とつかみ、さらに忍び寄る右手もつかみ完封した。
「いい反応ね。」
栄花がにやけながら、こちらを向く。
「そっちこそ。」
俺も負けじと、にやけて栄花を向く。
今の、ナチュナルフィジカルだったし(俺も)、栄花のことだから魔力を経験していなくてもあり得るかという見立てが可能なのが難点だな。実験は失敗か。
「でも、これは無理なんじゃない?」
そういうと、栄花が俺の足を蹴ろうとする。
「いや、わかっているよ。」
そういい、俺は栄花が蹴った瞬間に、足を上げて、避けた瞬間に足をホールドした。
「変態か。」
栄花がそういうわけは、当然、俺が栄化のスカートから出た生足をホールドしているからだ。
「長ズボンで直に触っていないんだから、ギリギリ変態じゃない。」
「じゃあ、離してくれる?」
「無理かな。」
まあ、体温以外何も感じないが鳳ならこう言いそうだ。
「それはあんたの意思?」
栄花は弁当を悠々と広げながら、そう言った。
これは・・・そっちの意味だろう。男の本能のままに動いているのかという疑問か、鳳を演じているのかという疑問か・・・
「もちろん。」
俺は栄花の言葉の真相を気に留める素振りを見せず、即答した。それと同時に俺の中の疑惑ポイントが一あがる。
「はあ、ならいいわよ。」
「でも、重いからいいや。」
そういいながら、栄花の足を離す。
「で、僕を呼んだ理由は?」
そして、俺も弁当を膝の上に広げる。そういえば、鳳、昼めし食ってい行かなかったけど大丈夫か?
「とある情報を耳にしたからよ。」
「ほう、情報・・・それは赤松のってことだよな?」
そういい、俺はミートボールをつまんだ。
「そう。それで、E組の友達に聞いてみたら、なんか赤松、去年とは打って変わってだいぶ引っ込み思案になっていたらしいよ。」
そういい、栄花はミニトマトをパクリと食べる。
「なるほど、引っ込み思案か・・・いじめとかはなかったよな?さすがに。」
「うん。私も気になって、そこらへんのことも聞いてみたけど『ない』って言ってた。」
「ならよかった。いじめだったら、いろいろ頑張らないといけなかったかもだからな。」
『前みたいに』
言葉自体は言っていないが、そんな言葉を連想させるような含みのある口調で言った。本当はそんなことしない方がいいのだろうけど、まあ大丈夫でしょう。いずれ、栄花にも協力してもらうわけだし。
「うん、そうだねー。」
栄花はスルーするかのように相槌をする。
さすがにこれだけじゃ感付かれはしないか。そもそも、栄花は昔のことを覚えているのだろうか。そして、俺が昔の記憶を持っていることを知っているのだろうか。いや、後者に関しては栄花が魔獣の協力者でなければ、俺がいつもの鳳花ではないことを知る由もない、か。
「でも、なんで引っ込み思案になっちゃったんだろう・・・」
栄花はちくわにキュウリを入れた・・・射込み、だっけ?たしか、鳳が結構前に、栄花が今食べているのと同じ料理を作っているときに独り言でそんな名前を言っていた気がする。まあいいや。
それにしても引っ込み思案か・・・昔の風凪鳳花もそうだったし、その理由は、クラスでの孤立だったし。それとおんなじものかな?
「それは、新しいクラスに馴染めなかったからじゃないの?やっぱり、孤立するとつらいじゃん。」
「そうだけど、それだけで、自殺未遂までするだなんて。なんか、もっと大きなものを、赤松は抱えていると思う。」
「た、し、か、に・・・」
栄花の言うように、クラスでの孤立は自殺までするものなのか。
そして、飯が進まない・・・
「まあ、とりあえず、今日赤松の親のところ行って、明日の放課後、赤松の入院している病院行くか。」
俺はそういっておにぎりをほおばる。
「え?」
隣の栄花が疑問符を浮かべてこっちを見る。
「え?ってどういうこと?」
「いや、明日祝日でしょ?」
「わ?祝日?」
そうだったけ?最近大変すぎてカレンダーなんて見てなかった。
「『わ?』ってどういうこと・・・」
「いや、単に反応の『わ?』だけど。」
「特殊だね。」
「それほどでも。」
わざと少し照れくさそうに頭をかくと、栄花は「はぁ」と深くため息を吐く。
「誉めてないが。」
「そうか。で、じゃあ、午前中に行けるってこと?」
「そうこと。」
「了解。」
そもそも、赤松が意識回復して話せる状態になっているのか甚だ疑問だが、いいか。今は、めしを食べよう。




