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ダイアリーより綴る譚  作者: しゅんゑ
魔獣掃討編
32/41

情報を仕入れる回があったっていい

「ムホホ。」

開幕早々、早朝の教室の隅で独り、気持ちの悪い、誰の利益にもならない、存在意義を見出すことすらできない、惨めで、愚かな、ごみ同然の、知識もにわか程度で、友達とのトークにセンスも愛も何も感じることのできない、しょーもない男のオタクの笑い声をかましてしまい、大変申し訳なく思っている。

しかし、言い訳を聞いてほしい。

みんなも一度は妄想したことがあるだろう?『もしも学校にテロリストや不審者が現れたら』というシチュエーションを。いや、絶対に一度はあるはずだ。異論は認めん。

そして、だ。僕は今、それ以上の妄想を繰り広げていた。対戦相手は、三体目の魔獣。しかも、今の自分のステータスでギリギリ戦えるかどうかのシビアな設定だ。敵の戦力は前回の魔獣の実力の三倍以上と仮定したハードモードである。

みんなは、現実で激しい戦闘など経験できるはずもない。だから、戦闘の快楽を知らない。しかしながら、僕はソレをすでに知っている。よって、妄想でもソレを感じることができるということだ。

したがって、妄想にふけるあまり「ムホホ」というキモい声が漏れるのは、生理現象として仕方がないことである。異論は認める。

「ヘイ!ブロー!」

思考に耽っていると、背中に来る軽い衝撃と扶郎のカタコト英語が僕に届く。

なぜ僕があまりいきなりのことで驚いていないかというと、単純に気づいていたからですね。

「オウ!グッドモーニング、ブロー!」

そして、僕もカタコト英語で返事をし、立ち上がって扶郎について行く。

「ハウ、アー、ユー。」

まだこのノリやるんか。

「アイム、グッド。エンドュー?」

「アイム、バッド、カズ、アイ・・・やっぱ面倒くせえわ。」

「そりゃそうだろ。で、なんでなん?」

「いやね、天文学的確率を引きそうになってしまいまして。」

「どゆこと?」

そういっているうちに扶郎の席に着く。

扶郎は荷物を下ろしながら、少し顔を曇らせて言った。

「登校中にさ、俺鳥の糞に当たるところだったんだよね。」

「ほう。鳥の糞に当たる・・・ところだった?つまり当たっていないってことだよね。別にいい方なんじゃないん?」

まさか、天文学的確率を引き損ねたからバッドってこと?それだったらだいぶ扶郎の脳は終わっていることになるんだが。

「天文学的確率を逃したんだよおおーー。」

扶郎は机をポコポコとたたきながら涙(流れていない)を拭く。

なぜだ。

この『なぜだ。』は、なぜ僕が一度でもこいつの脳が終わっていないと思ってしまったのだ、という『なぜだ。』である。

僕は顔を引きつらせながら、彼に伝える。

「かける言葉が見つからないが・・・うーん、どんまい!次があるよ!」

「男バスのマネージャーが言いそうな言葉ランキング一位をお前が言うなあー。」

「なんでだよ。僕のぶりっ子ポーズ付きの『どんまい!次があるよ!』なんだけど。」

「男バスのスレンダーなマネージャーがジャージ、腕まくりバージョンで言うから『もえる』んだろうが!」

「スレンダーってお前、マジか・・・しかも、『萌える』だったらわかり身はあるが、『燃える』であった場合、わかり身はねえわ。」

「あー、鳳花君とは友達になることはできません。さようなら。」

「なんで僕が一方的に切られる側なんだよ。」

「ヤレヤレ。」

「こっちのセリフだわ。」

全く。朝から本当に疲れるわ。このMでスレンダー派の変態君には一度現実を見てもらわなければ、社会に出たとき、Sでスレンダーの女性がいかに稀かを知って深い絶望に堕ちることになるぞ。

あっ、スレンダーと言えば。赤松について調査してもらうようにしておくか・・・(ツッコミポイント)

「とーころデラックスなんやけどさ。」

「しょうもないよ。」

「赤松って知ってる?」

「なんだ、こいつ。」

「僕の友達で、今不登校なんだけどさ。」

「おい、無視すんな。」

「その理由をぜひ君に調べてほしいんだけど。」

「はあ、まったく。」

「何が?」

僕は白々しくここでおねだりを止める。

扶郎は眉間にしわを寄せ、一時限目の授業の用意をしながら言う。

「都合のいい耳だな。」

「都合のいい・・・はて?なぜ普通に耳がいいと言わないのでしょうか。というか、ぜひ君に調べてほしいという僕のおねだりの回答を。ちなみに選択肢はイエスor承知だから。」

「じゃあ、ここはあえて。無言。」

「ちなみに回答時間は残り十秒。十秒経ったら扶郎、君を殴る。」

そういって口と左手の指を立ててカウントダウンをする。そして、右手で拳を作り、扶郎の眼前に寄せる。

「えぐ。」

「ほらほら、早く。早く。」

「いや、いいよ。」

五秒も経たないうちに扶郎はオッケーサインとともに僕のこぶしを突き返す。

「で、具体的にどんな感じでやればいいの?」

「扶郎のE組の友達に赤松についてなんでもいいから聞いてみて。不思議がられたら風凪が聞けって言われたっていえばいいから。」

「ほーん。分かったけど、なんでそんなことわざわざ聞くの?」

「友達が不登校になって気にしないやつがどこにおるん。」

「そりゃ、そうか。」

「ありがとう。」

僕はそう告げて自席に戻った。その瞬間チャイムが鳴り、遅刻してきたクラスメートを横目に僕は机に突っ伏した。


「あのー、すみません。少しお時間いいですか?」

「ん?どうした?もしかして、勉強会、風凪君も参加する気になった?」

僕は情報収集のため、赤松と同じバドミントン部だという空嵩さんに、赤松の様子について話を聞きに、彼女の席にいる。ふふん、僕は平気で陽属性の女子と会話できるんだからな。見くびんなって話よ。

「あ、遠慮しておきます。というか、高篠さんは結局了承したんですか?」

僕は空嵩さんの隣で立っている、高篠さんに腰を低くして、伺った。

「あ、はい。私も勉強したかったので。・・・それと、なんでそんなに腰が低いのですか?」

「あー、いや。僕が勉強会の生贄・・・じゃなくて、お誘いを断ったばかりに。」

危ない危ない。口が滑るところだった。

「風凪君が神楽ちゃんを推薦したんだよ。」

「そうですね・・・」

推薦したというより、身代わりにしたと言った方が良い気がする。あと、なぜ高篠さんはそんなきょとんとした顔をする。なんか僕したか?まあいいや。

「じゃあ、そろそろ要件を言ってもいいですか?てか言いますね。」

「いいよ。」

「えーっと、これは高篠さんにもお聞きしたいのですが、赤松虞佳って知っていますか?」

僕が赤松の名前を出すと、高篠さんは疑問符を浮かべているが、空嵩さんははっとした顔をする。二人とも反応が、あれやな。かうぃー(かわいい)な。

「虞佳ちゃんがどうかした?」

「空嵩さんも知っていると思うけど、彼女今不登校じゃないですか。その理由を知っていたら教えてほしいなあって思いまして。」

「なるほど。」

空嵩さんは一瞬考えると、申し訳なさそうに言う。

「ごめん。分からないなあ・・・部活はしっかり来ていたのに、ピタッと来なくなっちゃったからねえ・・・」

「高篠さんは?」

「ごめんなさい、そもそも赤松さんって人を知らなくて。」

「そっか・・・」

収穫はなし、か。高篠さんはともかく、同じ部活動の空嵩さんなら何か知っているかと思ったが・・・。引き際だな。お礼を言って立ち去ろうとした僕を、空嵩さんの声が呼び止めた。

「ねえ、なんで虞佳ちゃんのことを調べてるの?」

「友達だから。」

僕は努めて平然と、当たり前のことのように言った。すると。

「友達・・・ねえ。」

「友達、ですか・・・」

空嵩さんと高篠さんが、いかにも意味ありげな「いじわるな顔」でハモった。なぜ高篠さんまでそんな顔をするんだ。

「彼女じゃないですよ。たまに僕ともう一人の友人とで、ご飯を食べに行く仲なだけです。」

ここで即答しておかなければ、明日にはどんな尾ひれがついた噂が流れるか分かったもんじゃない。

だが、僕の回答を聞いた空嵩さんは、さらに意外そうな顔を見せた。

「え、虞佳ちゃんってそんなアクティブだったんだ。」

「まあ、インドアというよりアウトドアだった気が。」

「うーん……」

空嵩さんの顔に、何やら晴れない影が落ちる。

「なんかね。部活のみんなでご飯に行こうって誘っても、虞佳ちゃん、いつも断ってたんだよね。『周りの目があるところで食事をするのが苦手だから』って。だから、てっきり・・・」

「大人数で食べるのが苦手だってことでは?」

「まあ、ワンチャン猫ちゃんそうかもしれないけどね。」

「なるほど。」

なるほど。要するに、同性の誘いは断るくせに、男の誘いには乗るのかよ、とモヤモヤしているわけか・・・これ、放置しておくと絶対に愚痴のターゲットにされるパターンだ。逃げるなら今しかない。

「なんか、いろいろありがとうございました!」

「いや、ちょっとま―――」

「それでは!」

僕は空嵩さんの迫ってくる手を華麗に避け、遅れてこの後の展開を察した高篠さんの絶望のまなざしを振り切って、自分の席に全速力で逃げていった。


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