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ダイアリーより綴る譚  作者: しゅんゑ
魔獣掃討編
31/41

会議パートを入れるのは王道というより普通

投稿が遅れてすみません!!!

ショッピングモールで栄花と過ごしたひととき。赤松の一件で話は重くなったものの、魔力や魔獣といった非日常から離れ、ただの高校生であることを堪能できる貴重な時間だった。

しかし、彼女と別れてアパートの静寂に戻った僕は、すぐさま冷たい現実を突きつけられることになる。

「―――繰り返します。現在、ヨーロッパの某国との連絡が完全に途絶しています。」

アナウンサーの、震えを押し殺したような声が室内に響く。画面に映し出されているのは、かつて美しい街並みを誇っていたはずの、とある一国の空撮映像だった。

しかし、そこにあるのは瓦礫の山ですらない。ただ、巨大な『炎』と、それを包み込む膨大な魔力の渦だけだ。

「政府の発表によりますと、現地時間午後、隣接する諸国の調査によると、現在、インターネットを含む全ての通信がつながらない状態で、中枢機関も崩壊し・・・事実上の、国家消滅と見られています。」

映像が切り替わり、ネット上で拡散されているという民間の動画が流れる。空を覆い尽くさんばかりの紅蓮の渦。

あの魔獣が出現してから、たったの三日。そのあまりにも短い時間で経済的、政治的に安定していた一国が、たった三日で地図から消え去ったのだ。

「・・・現在、国際機関が緊急会議を招集。この未曾有の事態に対し、各国は最高レベルの警戒態勢を敷いています。調査によると、炎の進路と速度を計算すると、明日の夜にドイツ国境を越え、明後日の日本時間午後十二時三十分には、ベルリンに到達すると予測され―――」

僕はリモコンを握りしめたまま、画面を凝視した。

「今、ヨーロッパがヤバいらしい」

昼休みに扶郎がスマホを見せながら話していた、あの冗談めかした噂。それが、これほどまでに残酷な形で現実のものとなるとは。

「そろそろ、本腰を入れるとするか。さすがに国が一つなくなっちゃったわけだし。」

 僕は体内の魔力を練り上げながら、隣で同じ速報を見つめている花に話しかけた。

「そうだな。とりあえずこれ以上の被害を出さないためには、ベルリンで迎え撃つとして・・・さすがに日本からベルリンへの直行便は、もう飛んでないよね。」

「そう思ってあらかじめ調べたけど、全便欠航。他のドイツ国内の空港で生きていそうなのは・・・フランクフルト便くらいかな。」

「優秀かいな。」

「それほどでも。」

 僕はふふんと鼻を鳴らし、スマホを取り出して検索しておいた経路を花に見せる。羽田からの直行便で所要時間は十四時間強。運賃は二十万円を超えるが、どうせ無賃乗車になるのだ、値段などあってないようなものだ。

「だけどさ、フランクフルトからベルリンまでってだいぶ遠いよね。」

「高速バスならあるいは・・・」

花が呟くのを聞き、僕はフフフと、わざとらしく不敵な笑みを浮かべた。

「よくぞ分かったな、花。なんと調べた結果、高速バスがフランクフルトからライプツィヒにかけて、まだ運行しているのです!」

スマホをスワイプし、路線図を花に提示する。

「へえ、激アツじゃん。というか、さすがに君の思い通りになりすぎていないかい?」

「まあそりゃね。天才ですから。」

「これが同じ魂の片割れだと思うと、なぜか俺の目頭が熱くなってくるよ。」

「同じ遺伝子を持て余してるってこと?」

「残念なことに、ね。」

僕の渾身の皮肉を聞き流し、花は画面を覗き込む。

「まあ、いいわ。ちなみにライプツィヒからベルリンまでは、君の『瞬魔』で行くとして。」

瞬魔の速度は、以前公園に向かった時で時速四十キロメートル程度。だが、『あの方法』を使えば、負荷なく時速八十キロメートルは出せる。休憩込みで計算しても―――。

「だいたい二時間半ってところか。」

花が僕の代わりにそういう。

「そうなると、逆算していきますとですね・・・」

「ちょうど昼くらいに出発すれば、魔獣が来る前にベルリンに到着できるってことかな。」

あー、くっそ。僕が言おうとしていたセリフを奪われたー。まあ、計算が合っているなら文句はないんだけどさあ・・・

「・・・そういうことになるな。」

僕は不満げな雰囲気を全開にして応答する。

「その面白い顔はどういう意図だい?」

「さあ、その優秀な脳みそを使って考えろー。」

「変顔をしたい衝動に駆られたってことかい・・・?」

「ちゃうわい!」

ヤレヤレ、なぜその結論に至る。やはり花とは思考回路が似ているようで、絶妙に噛み合わない、か。

「まあいいわ。とりあえず、どの便に乗って、高速バスはどの時間に乗るのか、あとで正確に詰めておくわ。お前は明日の昼までに『例の物』を準備しておけな。」

「りょーかーい。」

花は気だるそうに返事をする。

さあ、ここで、みんな思っているであろうことを当てます。それはズバリ、『あの方法』と『例の物』が何なのかということだ!

しかーし、だ。これはまだ秘密にしておくよ。恐らく魔獣と対面するまでね。さぷらーいずってことよ。この数日間だいぶ頑張ってきたんだから、みんな期待しておいてね。

って、そのみんなって誰だよ・・・僕はついに頭がおかしくなったのか?否、それはない!

「というかさ、今更なんだけど、そもそも魔獣はなんのために来ているのか、考察していかない?」

僕が心の中で独り芝居をしていると、花は立ち上がり、冷蔵庫からお茶を取り出しながらそう切り出した。

確かに今更だ。だが、最初の魔獣が現れてからというもの、事態への対処に追われすぎていた。嵐の前の静けさである今こそが、思考を整理するベストタイミングかもしれない。

「いいね。」

僕は頷き、花と向かい合うように席につく。

「じゃあ、さっそく意見を出し合おう。まず、魔獣はどこか別の世界から、いきなりこの地球に現れる地球外生命体という解釈でいいよね。」

「ああ、さすがにな。そして奴らは、この地球を何らかの目的で破壊しようとしている敵。」

花がコップに注いだお茶を、僕は一口飲む。冷たい液体が思考をクリアにしていく。

「いや、破壊というより、『支配』じゃないかな?」

「ん? なぜゆえ?」

「じゃあ鳳、なぜ最初の魔獣は、幻影属性なんていう破壊活動に向かない能力を持っていたと思う?」

「え、幻影・・・ああ!なんか言ってたな。使いづらいやらなんのって。」

花に言われるまで忘れていたわ。

「君は記憶力がおじいちゃんかね。」

「お前の記憶力がいいだけだ。」

「で、なんでだと思う?」

なんと憎たらしいガキだ・・・逆さづりにしてやんぞ。

「なんか、そういわれると支配するためかってなっちゃうじゃん。十中八九、間違ってはないと思うからいいんだけど。それに、幻影ってことは催眠みたいなものだろ?それって、魔力を知らない一般人だったら無抵抗で催眠かけられて、どんどん人間を殺さずに支配できると。」

「That’s right!そして、あの魔獣がわざわざ、俺たちのことを殺そうとしたのは、なんでだと思う?」

なんか、その「なんで、~だと思う?」って、わかっているのに聞くのやめろ。

「もったいぶらずに言えよ。」

「わからないの?」

「ちげえよ。答え合わせがしたいだけ。」

「ケチだねえ。」

いじわるな花にガンを飛ばしながらお茶を煽る。

「はあ、やれやれ。じゃあ言っちゃうけど、それは魔獣がこの世界について学ぶためだ。俺たちの魂を壊し、自分の魂を入れて肉体を乗っ取ることで、この世界を知ろうとした。恐らく、最初の魔獣は支配した肉体の記憶や知識を読み取ることができる。」

花も一息ついてお茶を飲む。そういうことか。点と点が繋がった感覚がある。魔獣は本来、言葉を持たない。獣の姿のままコミュニケーションを取る素振りなど見たことがない。だが、高篠さんの体を乗っ取った魔獣は、流暢に言葉を操り、普段の高篠さんとして振る舞い、彼女レベルの学力すら行使していた。初めてこの世界に来たはずなのに、社会のルールやマナーを熟知していたのだ。

花の仮説は恐らく、いや、絶対に正しい。顔を上げると、花は満足そうな笑みを浮かべていた。

「腑に落ちたようで何よりだよ。」

「お前って・・・僕よりも妄想癖がある?」

「誉め言葉かな?」

「たわけ。」

「素直にほめればいいものを。」

「すみませんね。僕の血に京都人の遺伝子が組み込まれているもので。」

「今すぐに京都人に謝りなさい。」

なんだこの漫才は。遺伝子レベルで相性が良すぎる。いや、遺伝子が同じなんだった。

・・・で、何の話だっけ?

「じゃあ、話を戻す。次に、二体目の魔獣についてだ。」

そうだ。魔獣の目的だ。確か、奴は僕たちに奇襲を仕掛けてきたんだっけ。あの時はジリ貧だったなあ。花が僕を守るために毒を肩代わりしてくれたおかげで、僕は死ななかったけど、肉体の操作もままならない中、寝ず制御し続けて生き延びられたんだったなあ。

「二体目の魔獣が来たことによって、俺たち・・・いや、少なくとも俺は気づいたことがあるんだが、鳳は気づいたかい?」

「もちろんだろ。この魔獣騒動が、計画されたものだってことだろう。」

「さすがにか。じゃあ、この二体目の役割はなにか。君はどう思う?」

二体目の役割、か・・・。

「Please tell me!」 「自分で考えたことはないのか?」

「そんな余裕なかったからね。誰かさんと違って。」

「じゃあ言うけど・・・人間の『選別』かな。」

人間の選別。話が飛躍しすぎではないか?

僕の疑念をよそに、花は自信満々に続ける。

「そう思った理由は、毒の効果範囲の広さだ。一体目の魔獣があらかた社会を支配した後、人口飽和した人間を効率的に減らすために派遣されたと考えると辻褄が合う。」

「うっ、筋は通っているか。だけど・・・半分妄想じゃね?」

「そうかもね。」

あら、あっさり認めた。さっきの自信はどこへやら。

「でも、これは俺一つの意見だ。そもそも、君は自分の考えを出していないのに否定だけするというのは、自己中極まれりだよ。」

「ぐうの音も出ないな。」

僕はコップの中の水面に視線を落とす。

「僕は、僕たちの『暗殺』だと思った」

花が頬杖をつきながらこちらを見つめる。

「理由は、一体目との出現間隔が短いことと、最初の奇襲だ。恐らく、何らかの方法で一体目の魔獣と通信していた組織が、地球にいる脅威、つまり僕たちの存在に気づき始めて、急遽、暗殺プランに移行したんだと思う。もし支配が目的なら、いきなり大量殺戮が可能な魔獣を送るのは早計すぎる。」

そう告げて席を立ち、お菓子を持ってくるために冷蔵庫へ向かった。

「今思いついたってことかな?」

「そうだよ。」

「やるじゃん。」

「上から目線やめろ。」

僕はそう言いながらアルフォートの箱を花に投げつける。案の定、易々とキャッチされ、封を切られた。

「おそらく、君の説も俺の説も、両方正しい可能性がある。というより、そうじゃなければ成立しない。」

「まあ、敵の計画の全貌は、いずれ嫌でも分かるでしょ。今大切なのは、三体目の役割とその能力だ。」

僕はポテチの袋を開けながら言った。

「三体目の役割も、火という広範囲攻撃・・・破壊特化の魔力属性を持っているから、『人間の選別』ないしは『殲滅』でいいかな。」

花は開けたアルフォートを無遠慮に頬張る。ほんと、親しみやすいお人ですわあ。アハハ

「それに、あいつはだいぶ学習している。僕たちのことを警戒して、遠方の地から徐々に掌握……支配していっている。」

僕はそう言いながら持って来たポテチの袋に手を伸ばし、わし掴んで口に運ぶ。すると、花はどこか遠い目をしてポテチを見つめた。

「そうなんだよなー・・・」

「なぜそんな遠い目をする? 僕なんかした?」

「いやあ。ぞんだごとまいを。」

「ごっくんしてから喋れよ。」

 食べながら喋るなんて礼儀がないなあ。それでも僕の魂の片割れか。

 そんなことを思っていると、花はお茶でチョコとポテチを流し込んだ。そういえば、三体目の能力について言及していなかった点があった。

「あのさ、魔獣の能力の話なんだけど。あいつってまず魔力弾のぶっぱで現地の魔力回路を断って、心不全や機能不全を起こさせるじゃん。その後に火で燃やす。」

「そうだな」

「学校で、扶郎から二十四時間の定点カメラの映像を見せてもらったんだけどさ。なんか、ずっと燃えてるっていうやつだったんだけどさ。」

映像の中で揺らめいていた、不気味なほど鮮やかな炎を思い出す。

「つまり! あいつの能力として、『消えない火』っていう特性があると思うんよ。」

「なるほどね。消えない火か・・・ぶっちゃけ『あの方法』で何とかできるんじゃないのか?」

「そうだけど、一応花に伝えたかったってこと。」

「まあ、魔獣に関しては君に任せるよ。俺は赤松の方をどうにかする。」

きゃあ、頼もしい男!惚れてまうわ。

「よしっ! じゃあ、英気を養うためにゲームでもするか!」

「勉強しろ。」

「うえー。別に勉強しなくてもいいのに。」

「これから忙しくなるから直前勉強はできないからな。」

「まじか・・・」

花が即座に参考書を取り出し、テーブルに叩きつける。

世界の危機だというのに、学生の本分からは逃れられないらしい。僕たちは諦めてシャーペンを握りしめ、ずらっと並んだ数式に向き合い始めた。

ベルリンの空を焦がす炎を、頭の片隅で強く意識しながら。


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