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ダイアリーより綴る譚  作者: しゅんゑ
魔獣掃討編
25/41

ひと段落ついたら新たな問題が出てくるのが王道

勉強のため、期間が開いてしまってすみません!

カーテンの隙間から滑り込んだ陽光が、読みかけの文庫本と舞い遊ぶ埃を黄金色に染め上げていた。

キッチンでは、丁寧にドリップしたコーヒーが豊かな香りを広げ、トースターが軽快な音で「休日」の始まりを告げる。

窓ガラス越しに光るのは、通り雨が残していった雫。それらがキラキラと輝きながら、不規則なリズムで軒先を叩く音だけが、静かな日曜のBGMだった。

一方、テレビの向こう側ではバラについての特集が取り上げられている。

梅雨が近づいてきているんだから紫陽花の特集をやれよと思うが、まあいいだろう。

それにしても、テレビに映っている園の風景は見事なものだ。特に、初夏を感じされる緑に囲まれている、回廊式のローズガーデンとやらは非常に趣がある。いつかは行ってみたいものだ。


そして、番組が終わり、次の番組に変わると、いつものありふれた日曜の朝を、テレビから流れるアナウンサーの硬い声が塗り替えていった。

「―――みなさん、おはようございます。ニュース『ラララん』のお時間がやってまいりました。早速速報が入りましたので、それについてお伝えします。えー、現在世界を揺るがしている欧州の情勢について、最新の情報が入りました。」

画面の中では、朝のワイドショー特有の明るいセットが場違いに浮いている。キャスターの横に掲げられたフリップには、『欧州同時多発怪死:死者一五〇〇〇人に迫る』というどす黒い見出しが躍っていた。

「五月二十九日から今日五月三十日にかけて、イギリスをはじめとするヨーロッパ各国で、原因不明の火災が相次いでいます。現地からの報告によれば、犠牲者の多くは一般市民で、その死因に不可解な共通点が見つかりました。直接的な焼死だけでなく、『突発的な心不全』を併発しているケースが極めて多いというのです。」

彼女の声はプロの冷静さを保とうとしていたが、原稿を持つ指先がわずかに震えているのをカメラは隠せていない。

そして、中継映像に切り替わる。現地は夜明け前だろうか。街灯の下で、直立したまま動かなくなった人影の足元から、パチパチと音を立てて深紅の炎が這い上がる映像が流れた。

「当局の発表では、確認された死者数は現在、一四九〇〇人を超えたとのことです。一五〇〇〇人の大台に達するのは時間の問題と見られています。未だ発火のメカニズムは解明されておらず、各国は国境を封鎖―――」

 この素晴らしき朝にはあるまじきニュース。

そして、画面内に移る大量の魔力。そして、でかい図体に角を頭に一本はやし、なまはげのようなおぞましい仮面を被った化け物。・・・いや魔獣といった方がいいか。

スマホのネット掲示板もその話で大きな盛り上がりを見せている。UFOの襲来だとか、国を脅す大テロだとか、そもそもがデマ情報で民を扇動しているだとか、第三次世界大戦の前兆だとか、エトセトラ。というわけで、そんな根も葉もない憶測が世界中を飛び交っているというわけである。

その光景は世間から見れば「悲劇」だが、僕の瞳に映っているのはもっと別の、おぞましくも卑俗な「搾取」の構図だった。

僕はふっと、吐き捨てるように、あるいは哀れむように唇を歪めた。

「―――魔力が、悲しんでいるな。」

放った声は低く、だが鋭い美学を孕んで響いた。

「これほど純粋な力が、あんな無粋なモサ男に、これほど非道な扱い方をされている。・・・実に、不愉快極まりない。」

僕は椅子に足を組むように座りながら、コーヒーカップを口に近づけて、ゆったりとした朝の優雅なひと時を楽しむのだった。


「今日は買い物や―!」

朝ご飯を食べ終わり、食器を洗う中、僕は突然声高らかにそう宣言した。じぶんで「突然」と言ったが、客観的に見たらの話である。僕は僕が退屈な時に唐突なことをしたくてたまらない癖がある。よって、このような行動に移ったのだ。

「お、いいじゃん。それで、どういう経緯でそうなった?」

花の方を見ると、花は棚の下を覗き込みながら返事をしてきた。

「いやー、単純に本屋で新しい知識を仕入れたくてね。あと、冷蔵庫の中身が枯渇寸前だ。なんたって、僕と花で胃袋は実質二人分になったからな。エンゲル係数の上昇が著しいのだよ。」

僕は泡だらけの手を宙に浮かせたまま、もっともらしく力説する。

今は僕一人分の必要最低限の資金しか両親から支給されてしないから家計はだいぶ切迫している。ぶっちゃけ万引きすればいい話だけど、良心が痛むからねえ。ちなみに今『両親』と『良心』かけているからな。きぃつけや。

「I see. 」

突然英語で相槌を打ってきて困惑だが、まあいい。

また、必然のことながら、花に対して、「What are you doing now? 」を投げかける

「なにしてんの?」

「リモコン捜索任務の遂行中。」

「あ、そ。」

中二病チックだったし、ならいいかと、再び視線をシンクの中へと戻す。きめ細かな泡を纏った白い磁器を、スポンジでなぞる。磨き上げられた時に鳴る「キュッキュ」という小気味よい摩擦音。

指先に意識を集中させているはずなのに、気づけば僕の思考は、先週のあの出来事の中へと浸かりにいく。

あの日。毒の魔獣を討伐した日、扶郎と高篠さんといっしょに栄花の家で遊んだ後、二人は一緒に帰っていって、僕は栄花に引き留められたんだけど・・・あの時、めっちゃ怖かったなあ。

『急に押しかけるんじゃなくて事前に連絡しておけ』とか、『膝にけがをしている高篠さんと手にけがを負っている扶郎をもっと気にかけろ』だとか、散々説教されたんだよね。しかも、『頭はいいのにできないのはなぜ?』とか、チクチクと嫌なところをついてきてさぁ・・・

普通に泣くわ!畜生!

僕の再び燃えてきた。苛立ちを横目に、明るい声が貫いた。

「あっ!リモコンを目視確認!」

そういうと、花は棚とテレビの隙間に手を伸ばした。

「ぬんっ!」

・・・が、力み声をだしながら手を間に入れているが、どうやら手とリモコンとの距離はもどかしいようで、リモコンに手が届かないらしい。

そして、取れないと悟った花は座りなおすと、指を隙間に向けて青白い燐光を放出する。その放出された魔力は、まるでUFOキャッチャーのアームのような形状を象り、隙間へと滑り込んだ。直後、カタリ、と音がして、埃まみれのリモコンがズズズッと引きずり出される。

「これでよし。」

そう呟きながら花は椅子に座り、テレビの電源ををつけた。

「魔力操作の使い方うまいな。」

僕は今の一連の動作を見て思わず感嘆の声を出した。それほどまでに魔力を思い通りにするイメージと制御は難しいのだ。

「まあね。鳳だって、あの修行でだいぶ成長したんじゃないか?現に魔力操作・中まで習得して寝るときはオートで魔力を肉体に流すことができるようになったじゃん。」

「いやいや、そんなことないって。花の域に到達するのはまだ難しいよ。」

修行といっても、毎日魔力を圧縮したり引き延ばしたり、粘土遊びのようにこねくり回していただけだ。それがスキルと結びついて、寝ている間でも肉体の魔力循環のオート機能を獲得できたのは、確かに僥倖だったが・・・

いや待てよ?結構成長したのではないか?

「え、え、ええ?」

 そして、謎に花が困惑しているのは何?

「なんだよ。」

僕に向かってその顔をしているということは僕になにかあるのだろう。

「い、いやー。あの君が謙遜できるようになったなんて。俺は嬉しみのかぎりだよ。」

そういいながら、花は涙が流れていない目を手で拭った。

これは馬鹿にされている判定でいいのか?いや、絶対馬鹿にされているな。だが、ここで反論しては面白くない。つまり、僕はカウンターを仕掛けなければならない。

故に、ここでの返答は!

「あ、そ。僕も、完璧超人だと思っていた花様が、たかがリモコン一つを見失って地べたを這いずり回るだなんて・・・ある意味、人間味があって感動しましたよー。」

僕は表情筋を総動員して慈愛に満ちた笑顔を作り、京都人が「ぶぶ漬け」を勧める時のような、慇懃無礼なトーンで返した。さあどうだ。この皮肉、効くだろう?

しかし、花はキッチンの方を振り返ると、この世の全ての「憐憫」を煮詰めたような、生暖かい視線を僕に突き刺した。

「そんな皮肉を考えるぐらいだったら、無視しておけばよかったのに・・・頭はいいのになんで?」

「ぐはっ。」

グサッと、僕の心を貫く。そして、精神的な吐血をしつつ、その場に崩れ落ちた。

栄花に言われたことと同じことを言うって、まじで火力高すぎじゃありませんか?

「お前・・・まじで・・・そんなに言うか?」

僕は床から這いあがりながら花を睨みつける。

花は何ともなかったかのようにテレビに体を向けている。

「ま、とりあえず。いつ行くん? 買い物。」

「はあ・・・お前なあ・・・。まあいいや。」

僕は深いため息をつき、最後の皿を水切りラックに置いた。

「今から一時間後くらいに出発する。準備しとけよ」

「りょうかーい」

「・・・やれやれ」

濡れた手をタオルで拭きながら、僕はもう一度ため息をつく。

魔力を得て、肉体を超越し、超常的な力を手に入れても―――洗い物が自動で終わるわけでもなければ、この腐れ縁との口喧嘩に勝てるわけでもない。魔力というのは、案外不便なものだ。どうにかしてほしいわ、ほんまに。


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