それは外道が過ぎる
「とりあえず・・・どうする?」
『どうしよう。』
そもそも高篠さんは生きているのか?と思って、近づいて確認してみると、幸い息はしていた。安堵、安堵!
それにしても、どうこの展開を切り抜こうかな・・・
なるべく警察沙汰にはしたくないし、高篠さんを起こしてこんな状況を説明出来っこないって。兎にも角にも、この場は、穏便に済ませたい。
しかも魔力で魂が封じられていたから、たぶん高篠さんは今日あったことは覚えていないと思う。
だから―――
「もう放置する?」
『それしかない。』
やはり、花も放置という手段を考えていたみたいだ。
一昨日の夜から乗っ取られているのなら、急に昼になって、図書室の隅にいるって結構困惑すると思う。
まあ、やっていることがクズ過ぎると思うがこれは双方理にかなっていると思う。
少なくとも僕たちにはね・・・
高篠さんにはガチで本当に申し訳ないけど、このまま寝ててもらおう。
では、さっさとずらかるぞ―――!っといいたいところだが・・・
「高篠さんについている僕の血を拭かないといけないやん。」
『そうだね。』
制服にはちょっと血がついているけど制服の色がネイビーだから、ばれることはないだろう。
だけど、手にかかっているのはさすがに拭いた方がいいか。ってことで、早く体の傷を治して、拭いてほしいんだよな、花には。
「ひとまず、そのナイフどうにかしよう。」
あともうちょいで五時限目も始まるし、急がないとまずいですよ。
でも、内臓には達しているのかいないのかわからないけど、このナイフ抜いたら大量出血しない?
平気か?
心配していると、花は壁に寄り掛かり、ナイフが刺さっている付近を手で覆い始めた。
『了解した。』
花がそういうと何かに集中するかのように目を閉じ、ゆっくりと深呼吸し始めた。
その瞬間花の魔力が活発に活動しだしたのを確認できた。なにをしているのだろう?
そう疑問に思っていると、痛みで苦しそうな表情がだんだんやわらいできた。
「今、なんしてん?」
『血を一点に集中させて内臓についた傷を無理やり閉じているところだ。』
「はい?」
『お前を治療したときもそうだが、結構集中がいるからしゃべりかけないでくれ。』
何言っているのかさっぱりわからないけど、この右腕と脇腹の傷も今から行う施術で直したんかな。
そんなことを思いながら僕は指示通りしゃべりかけないでまた指をくわえながら見守った。
そして、一分ぐらい経つと、花はナイフを腹からゆっくりと抜き始めた。
血がドバッと噴き出ないか心配でそれを制止しようかどうか迷っていると、ものの数秒で血を出さずにナイフを取り出した。抜くの上手!ちなみに、変な意味は込めていない。
変なことを思っていると、血だらけのナイフと花の制服と口、そして高篠さんの手から、血に宿った魔力が浮かび上がり、どんどん腹の傷から入っていくのが見えた。
それと同時に、血も魔力に付いていって、散らばった血をきれいさっぱり吸い取って腹に戻していった。
最後には、傷口が魔力でみっちみちに覆われて、傷を完全にふさいだ。
『いやーきつかった・・・』
花が汗だらけになりながら床に寝そべると、大の字の状態でリラックスした。
「は?」
絶句、言葉に出ないような神業。
血を一点に集中して傷をふさぐって、どういうことやねんという疑問と、血を吸い取ってもどしたことへの驚愕で頭がいっぱいになった。
「えーっと、それさ、どうやったん?」
時間はあまりないけど、ひとまず質問することにした。
『それって、今の?』
「うん!」
まるで重度のオタクのような鼻息をフンフンしながら花にせがまった。牛かな?というより豚・・・
『やったことがいっぱいあるからわからんけど、最初にやったやつは、魔力で血の流れを変えて血を固めて傷を閉ざしたんだよ。それで次は、血にあったにあった魔力を血ごと天吸で制服とかからとって、魔力操作で自分の血を戻したんだよ。これが結構吐き気とか眠気を出してね・・・きついのだよ。』
魔力ってそんなこともできるんだ。というか何喰ったらそんなスキルの応用できるんだよ。
というか腹減ったな。二日間と今日、朝水ちょっと飲んだ以外なにも食っていないからな。
それはそうと、やっぱ花ってすげえな。僕も家に帰ったら練習してみーよおっと。
というか、この抜き取ったナイフどこで処分するん。あとこのナイフどこにあったん?
高篠さんが持っていた本を見てみると、不自然にもナイフがぴったり入るのような穴が開いていた。なるほど、このナイフ・・・というかフルーツナイフとほとんど同じ形の穴だから、ピッタリ入るか。
あの魔獣、相当準備していたんだろうな。悪趣味が過ぎるやろこんなの。
「ひとまず、このナイフを隠して携えながらずらかるぞ!」
「りょうがい!」
花の声が若干喉を鳴らすような声になっていて苦しそうだけど・・・大丈夫か?




