星降る夜に
エリスは、いつものように夜空を見上げていた。彼女が住んでいる世界では、星が降ることが珍しくない。夜空を見上げれば、星がひとつ、またひとつと、まるで手のひらからこぼれ落ちるように輝きながら落ちていく。それは星の贈り物と呼ばれていた。
だが、今日は違うことがあった。星が降るその先に、ひとりの少年が立っているのが見えた。彼は、普通の人間ではなかった。青い髪に銀色の目、そして不思議な光を纏っている。まるで、星そのものが具現化したような存在。
エリスは驚き、思わず足を止めた。
「あなたは……誰?」
少年は少し微笑みながら言った。
「私は星の使者。君に、ひとつの願いをかなえるために来た」
エリスは信じられない気持ちで少年を見つめたが、その言葉の意味を即座に理解できた。
「私の願いを叶えてくださるの……?」
「そう。君が一番欲しいものを、私は与えに来た」
エリスの心に浮かんだのは、ただ一つの願い。
「私……ずっと一緒にいたい人がいるんです。でも、彼はもう戻ってこない。どうしても会いたくて、会いたくて……毎日祈っていたんです……」
少年は静かにエリスの言葉を聞き、少し考えた後、答えた。
「私は君の願いをかなえることができる。けれど、覚えておいてほしい。願いがかなった先には、必ず代償がある」
エリスは迷った。代償とは、何か大切なものを失うことを意味していた。だが、彼女の心の中で、彼にもう一度会いたいという想いが強くなっていった。
「お願いします。彼にもう一度会いたいんです」
少年はうなずき、エリスの手を取ると、彼女を導いてその場から飛び立った。星の使者が持つ力で、二人は空を駆けるように、世界の端まで辿り着いた。そこには、エリスがかつて愛した人、レンが立っていた。
レンは、ただ静かにエリスを見つめていた。彼の顔は、亡くなったはずの彼そのもので、エリスは思わず涙がこぼれそうになった。
「レン……本当に、あなたなの?」
「ああ、エリス。会いたいと願っていた」
レンは微笑んだが、その顔はどこか寂しげだった。
「でも、僕はもうここにいるべき存在ではないんだ」
「分かっています。それでも、あなたに会いたくて……」
エリスは言った。彼の手に触れようとしたその瞬間、星の使者が静かに告げた。
「エリス、君の願いはかなった。しかし、代償はすでに訪れている。君の世界の時間は、止まった」
エリスはその言葉にハッとした。彼女がここにいる間、現実の世界では何も進まなくなっていた。レンと再会したことは素晴らしいことだったけれど、このままでは彼女は永遠にこの世界に縛られ、帰れなくなってしまう。
「そんな、どうして……?」
「愛する人をもう一度抱きしめることができるなら、何も失いたくないと思ったのだろう。だが、永遠の時間を手に入れる代わりに、君の世界はもう動かない」
レンは悲しそうに見つめて言った。
「エリス、君には幸せを見つけてほしい。でも、今の僕は、君を縛りたくない」
エリスの胸が締めつけられた。彼を抱きしめたい一心でお願いしたはずなのに、今度は彼と別れたくないと思う自分がいた。
「レン……私は、あなたが幸せならそれでいい」
レンは微笑んだ。エリスの心を感じ取るように、その手を優しく握った。
「エリス、ありがとう。君の愛は永遠だ」
星の使者は静かに空に消え、エリスとレンは再び夜空の下で二人きりになった。時は止まっていたが、彼女の心は確かに感じていた。たとえ一緒にいられる時間が短くても、二人の想いは永遠に繋がっていると。
星降る夜に、二人はただ静かに寄り添い、未来を語らない約束を交わした。




