Episode 1. 一目惚れ ①
恋愛経験ゼロの私は人間に一目惚れをしたことがないのですが、恋人がいても一目惚れをしてしまう事が往々にしてあるそうな。
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ある日、いつものように恋人のサイラス・ブライスと街をフラフラしていました。
彼とは職場の同僚の紹介(いわゆる合コン?)で出会い、意気投合し、友人関係から現在の婚約関係までゆっくりと時間をかけて進んでいたのです。
最近できたという、季節の果物を使ったデザートが売りのカフェでお喋りをと、入店し、混雑していた為、テラス席を案内されました。
「今日はそんなに寒くなくてよかったな」
「そーね。こんなに混んでるとは思わなかったわ。テラス席もたまにはいいわね。」
「そう言ってくれてよかった。好きな物頼んでくれ。今日は全部俺が奢るよ。」
新しいカフェに目がない友人オススメの季節のパンケーキと紅茶、サイラス様は季節の焼き菓子セットと珈琲を頼み、いつものように何気ない会話をしていました。
「そーいえば、最近、クリュッグから辺境伯の養女が王都に来てるらしいな。」
「可愛い子らしいわね。王都に友人を作らせたいと辺境伯から紹介された子が言ってたわ。」
まぁ、地雷臭がするとも言ってたけれども。
突如発生した、クリュッグ辺境伯の養女。実は火遊びで実を結んだとか。辺境伯はその火遊び相手をずっと探していたものの、急死しており、見つかったのは、辺境伯と同じ瞳の色をした綺麗な娘。彼女を養女として可愛がることで、世間の評判は落ちるものの、辺境伯は幸せそう。
辺境伯の元々いる実の娘や息子達は腫れ物として父親共々避けているようですが。貴族のマナーもなっていないだけでなく、本当の娘かも怪しいので。
「会うこともなさそうだけどな。最近は、城に篭もりっぱなしだし。」
「社交シーズンが始まるものね。地方貴族とのやり取りも増えて文官はてんてこ舞いよね。」
「そっちの部署も仕事増えてるだろ?」
「えぇ。なので、デートに誘ってくれてトレンドのカフェでくつろげるなんて、いい気分転換だわ。誘ってくれてありがと。」
2人とも城で働く文官なのです。
これから来る社交シーズンに備えて、地方貴族との行政的なやり取りやら会合、警備の強化などやることだらけな時期で、残業三昧。
城の近くに文官専用の宿舎があり、希望すれば洗濯や食事の準備等々してくれるため、最近は食事と睡眠の為だけに帰る日々。
食堂で夕食を取っていた時に久しぶりにサイラス様と会うことができ、偶然、休みも被っていたので街でお茶でもしようと誘っていただき、今に至ります。
「お待たせ致しました。季節のパンケーキと紅茶、焼き菓子セットと珈琲でございます。」
「ありがとう。」
「取り分けられるお皿も頂けるかしら?」
「かしこまりました、お持ちしますね。」
想像よりもパンケーキのボリュームがあったので、取り分けてサイラス様にも少し食べてもらおうと、取り分け皿をお願いしました。
男性の前でなければペロリと食べられるんですが...今回はやめときましょう。
焼き菓子もフィナンシェなどが丁寧に盛り付けられており、見た目も良く、小腹を満たすのには良さそうです。
さすが彼女のオススメです。何もかもレベルが高い。ちょっとした焼き菓子をお土産に買っていけるみたいなので、後で彼女に買っていきましょう。
「お待たせしました、取り分け皿とカラトリーです。ごゆっくりお過ごしください。」
「ありがとうございます。」
接客もなかなかですね。
「サイラス様、こちらも少し食べません?」
「頂けるのであれば、ぜひ。こっちも少し味見するか?」
「ぜひ!」
甘いもの好きのサイラス様。ただ、男性がそれを公言できる風潮にないので、シェアという形で食べることが多いのです。
ミニサイズのパンケーキなどもあるので、量が多いのはそう言う狙いかと。
2人とも綺麗に切り分けて、盛り付け直し、パンケーキと焼き菓子をいい感じにシェアしたところで、
「改めまして、お疲れ様です。」
「そちらも、お疲れ様。ゆっくり美味しいものを食べようじゃないか。」
自分もパンケーキを食べられるとホクホク顔のサイラス様と甘味を食べながら、会話を楽しんでいました。
「わー!テラス席も素敵ですね!辺境ではテラスで食べるなんて出来ないです!」
「ルル様、お声が大きいです。」
聞いていたような地雷臭漂う少女とそれを窘める落ち着いた女性。
もしかして、この方が...!?と思っていたところ、
「とてもおいしそうね!それ!」
何故か私たちのテーブルへ。
「「......。」」
突然の出来事でカラトリーを持ったまま固まる私とコーヒーカップを持ったまま固まるサイラス様。
「も、申し訳ございません!!ルル様、無礼ですよ!!」
「だって、とても美味しそうなんだもん。」
「貴族の方々も利用するところですので、大人しくしていると約束したでは無いですか!」
「だって...」
侍女と見られる女性が窘めても言うことを聞かない少女。
店員も辺境という言葉と服装で高位貴族と見なしたのか対応に困っている様子。
「レディ、ここは...!?」
硬直が解けたサイラス様が貴族として窘めようとして、少女をみて、再度、固まりました。
「サイラス様?」
「...ん、んん。ここ、は色んな人が利用する場所ですので、マナーをきちんと守った方がいいですよ。」
窘めたサイラスを呆然と見る少女。
そして、突然様子がおかしくなり、顔を赤らめるサイラス様。
もしかして、これは...
「す、すみません...。とても美味しそうだったので...」
「...とても...美味しいよ。店員さんとお連れの方が困っているから席に着いたらどうかな?」
「は、...はい。」
もしかして、一目惚れ??
しかも、お互い??
この後に食べた半分のフィナンシェは全く味がせず、どうやって解散したかもよく覚えていません。
気がつけば、宿舎でした。