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もふもふの人間兵器?にされてしまった悪役令嬢ですが、冷酷非道侯爵様に溺愛されています  作者: 矢間カオル


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96話外伝 悪女イザベラ、側妃への道21

来た!


イザベラは、首にかけていた犬笛を口にくわえて思いっきり吹いた。


その瞬間、口をふさがれ羽交い絞めにされ、犬笛を奪われた。


猿轡をかまされ手足を縛られ、大きな箱に入れられ蓋をされたが、イザベラは落ち着いていた。


と言いうか、ほっとしていた。


一番恐れていたことは、この段階で殺されることだったのだが、それはなかった。


後は、この真っ暗で身動きが取れない箱の中で、アンドレアスが助けに来てくれるのを待つだけなのである。


一秒の遅れが命取りになる綱渡りの計画だったが、イザベラはジオルグならきっとやってくれると信じていた。




その時ジオルグは、エイダンに呼ばれて王太子宮に向かっていた。


最近ジオルグは、どこへ行くにも必ず白いもふもふの愛犬を連れて行動している。


「ワンワンワオーン」


突如、愛犬が鳴いた。


この鳴き方は、犬笛が吹かれた合図だ。


ジオルグは走った。


王太子宮の執務室まで、ただひたすら走った。


「殿下、我が娘イザベラが攫われました。どうかお救いください。」


「何? それはたいへんだ。アンドレアス、急ぎイザベラの救出へ向かうのだ。」


「かしこまりましてございます。」


アンドレアスが退出しようとするのをジオルグは止めた。


「アンドレアス卿、今すぐ城門に向かってください。犯人は城門を抜けている頃です。この腕輪をしてください。この赤い針が差し示す方角にイザベラがいるはずです。ただし、効果があるのは五百メートルの範囲まで。それ以上離れると針は不安定な動きをします。」


「わかりました。今すぐに犯人を追いかけます。」


アンドレアスは獲物を追いかけるライオンのように速く走り、愛馬にまたがると疾風のごとく城門にまで駆けた。


それまで不安定にぐるぐる回っていた赤い針が、城門をくぐると一定方向を指しピタッと動かなくなった。


「こっちだな。」


アンドレアスは針に導かれながら馬を駆る。


前方に荷馬車が見えた。


荷車に人が入れそうな大きな箱を載せている。


アンドレアスは御者の二人の背中に向かって叫んだ。


「おい、お前たち、すぐに止まりなさい。」


荷馬車の御者は、声に反応してゆっくり止まった。


「いったい、何の用ですか?」


アンドレアスは荷馬車を止めた後、荷車の回りをぐるりと回る。


腕輪の赤い針が、大きな箱を指し続けた。


イザベラ様はここか!


使用人が差し出した通行証を見たら、キャプラ侯爵家の使用人で間違いなく、通行証にも問題はなかった。


つまりイザベラを誘拐したのは、本当にキャプラ侯爵家だと言うことだ。


案の定、箱の中にはイザベラがいたが、男たちは平民が王妃に無礼をはたらいたとか、貴族が平民を罰するのは当然だとか言って、罪の意識がまったくない。


こいつらさっきから平民平民と叫んでいるが、自分達がいったいどこの誰を攫ったのかわかってるのか?


まあ、俺もついさっき知ったことだが・・・


「ふむ、そなたたちは、さっきから大きな思い違いをしているようだ。このお方は平民ではない。」


「へっ?」


「平民ではなく、ジオルグ・ルード男爵閣下のご令嬢であらせられるぞ!」




イザベラ誘拐事件は、誘拐されてからあっという間に幕を閉じた。


イザベラの縛られた手足が赤くなる程度で、大きな怪我もなく無事に解決したと言えよう。


ジオルグも、イザベラの計画が無事に終わってほっとしていた。


イザベラの計画はなかなか面白いものであったが、一刻を争う危険が伴っていたし、犯人がイザベラに接触した際に殺される可能性もあった。


それに、必ずしも、犯人が城門を通って外に出るとは限らない。


一般の者なら外に出るには城門しか考えられないが、もし、内部に詳しい者だったら、城のどこかに監禁することも考えられるし、他の抜け道を通る可能性もある。


だから、イザベラには内緒で、ジオルグの部下に彼女を見張らせ、護衛をつけ、連絡係を要所に置いた。


ことが起こった際、連絡係は手旗を使って情報を伝え、わずか数秒で、ジオルグに犯人がどこに向かったか連絡ができるようにしたのである。


準備万端に整えたが、それでも、絶対に安全とは言えない。


どうか無事に終わるようにと、ジオルグは柄にもなく神に祈りを捧げていた。




この後、王妃クラリッサと、キャプラ侯爵の取り調べが行われ、二人は殺す気はなかったと一貫して証言しているが、真実はどうだか怪しいものである。


罪が確定するまでは、キャプラ侯爵は自宅で謹慎処分となり、クラリッサは王族専用の独房に幽閉された。




この事件が一段落してから、一番功績をあげたアンドレアスの報奨式が行われることになった。


「騎士として、当たり前のことをしたまでです。」と言うアンドレアスであったが、エイダンは、報奨式は必ずしなければならないと言い張った。


「そなたの素早く見事な動きが、私の相談役であり、陛下の信頼も厚いルード男爵の娘を救ったのだから、十分に報奨するに値する。」と言って、報奨式を強行した。


謁見の間で行われた報奨式には、イザベラの主人であるルーメリアも招かれた。


今回はエイダンの主催であるので、国王バルマンの姿はない。


イザベラ、ジオルグ、大勢の騎士たちが見守る中、報奨式はしめやかに行われた。


エイダンの前にアンドレアスが跪いた。


「アンドレアス・ダンブリン卿、そなたの働きは見事であった。このように迅速に解決できたのは、そなたの素早い動きと状況に応じた適切な行動によるものである。よって、そなたに褒美を授けるが、何か希望はあるのか? あったら言ってみよ。そなたが望むもので私が与えられるものなら何でも授けよう。」


「恐れ多くも申し上げます。私は騎士としての勤めを果たしたまでのこと。このような式をもうけていただいただけでも光栄なことでございます。それ以上は望んでおりません。」


「そうか、そなたは本当に騎士の鏡である。私はそなたのような騎士の鏡が、まだ独り身であることを憂いている。どうだ? もうそろそろ妻をめとって身を固めようとは思わぬか? 褒美として、私自らが、そなたの伴侶の世話をしてやろう。」


「わ、私の伴侶・・・、でございますか?」


焦った顔でエイダンを見つめるアンドレアスにお構いなしに、エイダンは強い口調で言った。


「そうだ、私自ら世話をしてやると言っているのだ。」


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