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もふもふの人間兵器?にされてしまった悪役令嬢ですが、冷酷非道侯爵様に溺愛されています  作者: 矢間カオル


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90話外伝 悪女イザベラ、側妃への道15

トルメドの視線が釘付けになったもの、それは、少年が綱を持ち、散歩をしている五匹の子犬であった。


子犬のように見えるが実は成犬で、どれも可愛らしいロングコートのチワワである。


少年は、エイダンに気が付くと、驚いた表情で綱を握ったまま、その場に跪いた。


「これこれ、この時間は犬の散歩はしないようにと、聞いていなかったのか?」


「申し訳ございません。この子たちが散歩に行きたいとせがむので、いつものように連れ出してしまいました。お客様がいらっしゃるとは知らず、本当に申し訳ございませんでした。」


エイダンが少年に問うと、少年は身を低くして謝罪した。


「トルメド殿、この者は犬の世話係なのですが、無礼を働いてしまったこと、どうぞお許しください。」


「いやいや、まだ子どもではないか。間違いもあることだろう。」


「寛大なお心、誠にありがとうございます。」


トルメドは、にこにこしながら少年に向き直った。


「どれどれ、少年よ。この子犬、わしが抱いても良いか?」


「も、もちろんでございます。」


トルメドは上機嫌で、子犬を一匹ひょいと抱き上げた。


人馴れしているようで、抱き上げたトルメドに、クーンと甘えた声で鳴く。


「ふむ、可愛いのう。そなた、一人で五匹の散歩はたいへんだろう。私も手伝ってやろう。」


「あ、ありがとうございます。」


それからしばらく、トルメドは庭園を歩きながらチワワを抱いたり、なでたり、散歩をしたりと上機嫌で過ごした。


「ああ、もうこんな時間だな。そろそろ城に戻るとするか。少年よ。楽しかったぞ。」


「あ、ありがとうございます。」




この後、城内で取引の本題に入ったのだが、トルメドの機嫌がとても良く、エイダンが計画していた取引にもにこやかに応じてくれて、良い結果を得て終わることができた。


翌日トルメド一行は帰国したが、ランベルジオスは実に良い国だと、嬉しい言葉を残して帰って行った。




エイダンの接待は、見事に成功したのである。


イザベラの意見を聞き入れて良かった・・・エイダンは胸をほっと撫で下ろすのだった。


二週間前、イザベラが「私、知ってます。」と言い出したので、詳しい内容を聞いた。


トルメドは、子どもの頃に偶然見かけたロングコートチワワに一目ぼれし、飼いたいと思ったのだが、父である国王陛下に反対されて飼うことができなかった。


「未来の国王が愛玩犬を飼ってどうする、同じ飼うならお前を守ってくれる大型犬にしなさい。」というのが理由である。


しかも、父親が薦めてきた大型犬は、成犬になると目が合うだけで噛みつかれそうな恐ろしい強面の犬種であったので、トルメドは犬を飼うこと自体を諦めた。


父の手前、大人になってもチワワが好きだとも言えず、時々こっそり身分を隠してペットショップに足を運び、チワワとの触れ合いを楽しんでいたのである。


イザベラの女子刑務所の友人サリーが商社に勤めていた頃、ウエタリス王国と商取引をする際、サリーは事前にトルメドのチワワ好きをペットショップの店主から聞いていた。


気難しいトルメドは、自分がチワワが好きだとバレることを好まず、偶然を装って触れ合いの場を設ける必要がある。


何ともめんどくさい話であるが、それさえ気をつければ、トルメドは上機嫌になり、取引がスムーズに進むのである。


その話を聞いたエイダンは、すぐに人馴れしたロングコートチワワを五匹集め、馬番の息子を犬の世話係に任命し、時間を決めて散歩をさせた。


その日はトルメドと偶然に出会ったように見せるために、演技指導も抜かりなく行った。


全てが終わった後で、演技が上手かった少年に、子どもにしては高額の褒美を与えた。


少年もその家族も、大喜びでエイダンに感謝したことは言うまでもない。




イザベラの情報のお陰で、エイダンは非常に気分が良かった。


バルマン国王にも「よくやった。私が知らない情報をお前は得ていたのだな。」と褒められた。


気分を良くしたエイダンは、またもや昼間のスズラン宮を訪れた。


例のごとく、セレニアの采配でスズラン宮は美しく磨かれ、美味しいお茶とお菓子でエイダンをもてなす。


エイダンとルーメリアが向かい合って座り、両者の背後には護衛と侍女が立っている。


「今日、スズラン宮に来たのは、イザベラに褒美をやろうと思って来たのだ。」


ルーメリアもセレニアも、おそらくそうだろうと予想をしていたので、別段驚く素振りは見せなかった。


「イザベラ、そなたのお陰で、良い交渉ができた。陛下にも褒めていただいたよ。」


陛下に褒められたことがよほど嬉しかったのか、そこだけやけに声に張りがある。


「さて、どのような褒美が良いかな。希望があれば言いなさい。」


部屋にいる全員が、イザベラに注目する。


「殿下。本当に何を希望してもよろしいのですね。」


「ああ、私は嘘は言わんよ。まあ、私にできる範囲で、と言うことは付け加えておくが・・・。」


「では、恐れながら申し上げます。わたくしと二人きりで話す機会をお与えください。そして、一つ質問に答えてくださることを希望いたします。」


「イ、イザベラ、身分をわきまえなさい。」


セレニアが慌てて口を出したが、エイダンはそれを手で制した。


「ほう・・・、金銀財宝ではなく、それだけで良いのか? 」


「はい。それだけでようございます。」


「わかった。では、いつが良いかな?」


「できれば今すぐに・・・。先日ウエスタリアの王太子殿下と散歩をなさった庭園を、一緒に歩きながらお話したいと思います。」


「よし、わかった。今すぐ行こう。」


この会話を、セレニアは、今にも気絶しそうな思いで聞いていた。


ルーメリアはと言うと、始終無言で無表情を貫いた。


いったいお嬢様はどうお考えなのかしら・・・。


使用人に先を越されてしまって、お辛くはないのかしら・・・。


セレニアは、心の読めないルーメリアのことを、心から心配した。


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