88話外伝 悪女イザベラ、側妃への道13
当時、ジオルグのことを良く思わない貴族の筆頭が、エイダンの正妃として婚約をしているクラリッサの父親、キャプラ侯爵であった。
だが、もうすぐ娘がエイダンと結婚するという時期に、キャプラ侯爵は大病を患った。
王宮医師も匙を投げたその病を、薬学にも深い知識を持っているジオルグが、献身的に看病し投薬を続け、命を救ったのである。
さらに薬膳の作り方を侯爵の調理人に教えたおかげで、侯爵は見る見る回復し、無事に娘の結婚式に参列できるようになったのである。
これ以降、ジオルグのことを悪く言う者はいなくなった。
病を患うと、ジオルグに相談する貴族が増え、いつの間にかジオルグは、男爵位でありながら、侯爵に匹敵するような扱いを受けるようになっていた。
話はもとに戻る。
現在ジオルグは王宮のバルマンの書斎で、エイダンの暴走の有無を話している最中である。
ジオルグがエイダンの相談役になって六年になるが、今まで、ジオルグが密かに摘み取った暴走の芽は二回ある。
放っておけば国を揺るがすような大事になったであろうその報告を聞く度に、バルマンはほっと胸を撫で下ろし、これからもエイダンを頼むと、深くしわが刻まれた顔でジオルグに言うのだった。
ジオルグが鷲宮に戻ると、出迎えた執事がイザベラの訪問を告げた。
「そうか、イザベラが来たのか。まったく顔を見せなかったが、どういう風の吹き回しだ・・・」
イザベラの部屋に足を踏み入れると、イザベラは慣れた手つきで紅茶を飲んでいた。
姿勢が良く、澄ました顔でお茶を飲む雰囲気に貴族らしさが蘇っている。
ドアを開け中に入って来たジオルグに、アメジスト色の瞳をちらりと向けた。
「あら、お父様。いくら娘と言っても、部屋に入る前にはノックをするべきですわよ。」
「あ、ああ、すまなかった。それにしても驚きだな。第二側妃の侍女になったとは聞いていたが、すっかり貴族令嬢に戻ったじゃないか・・・。」
「ええ、そうですわ。今は昔学んだ貴族令嬢のたしなみを練習しているのだと、思ってくださればよろしくてよ。」
「ああ、わかった。お前も結構苦労してそうだな・・・。」
「そう思っていただいてもよろしいのですが、本日は、お父様にお聞きしたいことがありまして、こうしてお伺いいたしましたの。」
「ああ、何でも聞いてくれ。」
イザベラはまず、ジオルグが鷲宮に住むようになった経緯をきいた。
聞きながら、男爵位ながらもすごい出世をしたジオルグに、目を丸くして驚いたが、まるで魔法のような技術を持つジオルグなら、それも有りだろうと妙に納得した。
「もう一つわたくしがお聞きしたいのは、王太子殿下エイダン様のことですわ。あの方がどのような方なのか、それから好きなタイプなども聞かせていただけるとありがたいのですが・・・」
「ふむ・・・そうだな・・・。若い頃は無茶ぶりされて困ったもんだが、結婚して子ができてからは落ち着いてきたと思うぞ。それから殿下は頭が良い。だが、どうも詰めが甘くてな。最後は誰かに助けてもらうことが多い。それから、父親である陛下に強いコンプレックスを抱いていると思う。まあ、偉大過ぎる父親を持つ子なら、仕方がないことだとは思うが・・・。いつも陛下よりも良い結果を出そうと奮闘するのだが、それが空回りしているという感じだ。」
「ま、まあ・・・、そうなのですね。」
恐れ多くも王太子殿下のことを、こんな風にあけすけに言ってしまうジオルグのことを、ちょっと心配するイザベラであった。
「で、では、好みのタイプは?」
「まず、美人が好きだ。それから気が強い女性に惹かれる傾向がある。何でもかんでも自分の言う通りになる女は好きじゃないみたいだな。」
「あ・・・、あら、そうですか。殿方は自分の思い通りになる女性が好きなのかと・・・」
その言葉の裏に、イザベラの過去の辛い経験が垣間見える。
「いや、殿下はそうじゃないみたいだぞ。どうだ? 攻略するのに俺の情報は役に立ちそうか?」
「こ、攻略?・・・さすがジオルグ、何でもお見通しだね。」
「おい、貴族令嬢が崩れているぞ。」
「あ、あら、わたくしとしたことが・・・」
イザベラは、慌てて扇子を広げてパタパタと顔を扇いだ。
「イザベラ、あなたが休暇をとるなんて珍しいけれど、どこへ行ってたのですか?」
セレニアが興味津々で聞いてきた。
「いえ、ちょっと買い物に・・・。」
それにしては、スズラン宮に戻ってきたときに、手荷物は持ってなかったようだけど・・・とセレニアは訝しんだが、そこは大人のセレニアである。
嘘は見抜いていてもそれを表に出すことはなく、落ち着き払ってそれ以上の追及はしなかった。
しかし、その二日後、セレニアを慌てふためかせる出来事が起こった。




