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もふもふの人間兵器?にされてしまった悪役令嬢ですが、冷酷非道侯爵様に溺愛されています  作者: 矢間カオル


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79話外伝 悪女イザベラ、側妃への道4

イザベラが担当した部署は、使用人の制服製作を司る部署であった。


王城内の使用人の数は膨大で、それぞれの仕事内容によって制服のデザインが違う。


就職したお針子たちは、簡単に縫えるものから始めて、徐々に難しいものへと進化していくのである。


イザベラに初めに与えられた仕事は、メイドのエプロン製作であった。


白い布をハサミで切って、デザイン通りに縫い上げて行く。


この世界にはミシンがなく、全て手縫いの針仕事であるが、七年間も修行を積んだイザベラにとって、それはいとも簡単な作業であった。


「あなた、仕事が早いわね。それにとっても目がそろっていて上手だわ。」


寮で同室になったナタリーも、同じ部署で働いていた。


隣で手早く正確に縫い上げるイザベラの手元を見て、丸っこい茶色い瞳をさらに大きく見開いて感心している。


そう言うナタリーが縫い上げたエプロンは、縫い目がそろっていなくて、縫い方も少し雑である。


ナタリーが言うには、面接で希望職種を伝えても、全員が希望通りに配属されるわけではなく、針仕事が苦手な人でも、ここに配属されることが多いのだそうだ。


やっと上手く縫えるようになる頃には、婚期を迎えて出て行くし、残ったとしても、上手に縫える者は、軍服の製作部署に異動になることが多いのだと言う。


イザベラには知らないことがたくさんあるのだが、世話好きのナタリーは、喜んでいろんなことを教えてくれた。


「あんたには世話になりそうだね。これからもよろしくね。」


イザベラは、エプロンの布に集中し、仕事に励むのだった。




裁縫部門の仕事は、一から作り上げるだけではなく、破れた衣服の直しの仕事も持ち込まれる。


イザベラがこの仕事を始めて五日目、ナタリーがブツブツ文句を言いながら、エプロンではなく青いドレスを抱えて仕事場に入って来た。


「まったく嫌になっちゃうわ。またドレスの直しですって。」


使用人の制服と違って、布を大量に使い、縫い方も複雑なドレスの直しは難しい。


皆ドレスの直しの仕事を嫌がり、たらい回しにされた挙句、結局ナタリーのような断りきれないお人好しにその仕事が回ってくる。


だが、刑務所時代にドレスの直しを内職にしていたイザベラにとって、それは造作もないことであった。


「あたしが、縫おうか?」


「えっ、イザベラがやってくれるの? 助かるわ。ありがとう!」


ナタリーは喜んでドレスをイザベラに手渡した。


まずイザベラは、ドレスをハンガーに掛けて全体のデザインを観察することにした。


ドレスの青色はきれいだが、デザインが今流行りのものとはほど遠く、ずいぶんと古めかしい。


シンプルな上に飾りが一切なく、はっきり言って、地味。


破れている部分は、スカートと身頃を合わせるウエストラインで、イザベラはハンガーからドレスを外して破れた部分を見て驚いた。


「目がそろってない。縫い方が雑!」


誰が直したのか知らないが、あまりの雑な縫い方に、破れるのも無理はないと思った。


他の箇所も点検してみると、あちこちに繕った痕跡が残っていたが、どの部分も縫い目が雑である。


これではせっかく縫い直しても、破れるのは時間の問題だと思う。


おそらく、お針子のベテランたちはドレスの直しを嫌がり、気の弱い新人に丸投げするからこんなことになっているのだろう。


イザベラは、このドレスが可哀そうに思えてきた。


あたしがちゃんと直してあげるわ!


破れた箇所の糸を抜き、縫い目を細かくして丁寧に縫い合わせ、ちょっとやそっとでは破れないようにしっかりと縫い上げた。


ついでに、まだ破れていないけれど、縫い方が雑な部分を丁寧に縫い直した。


これだけでも良かったのだが、青いドレスに情が湧いたイザベラは、布倉庫に置いてある布の中から青い布をとってきて、バラのコサージュを作って胸元にピンで留めた。


これ一つ増えただけで、地味で質素なドレスが華やかになった。


イザベラは自分の仕事に満足して、ドレスを製作部長に渡した。




その日から五日後、今度はモスグリーンのドレスの直しが舞い込んだ。


今までのように、たらい回しにされるのではなく、製作部長から直々にイザベラに手渡された。


「とても上手に縫えていたから、今回も同じ人に縫ってもらいたいと言う依頼がありました。」


製作部長を通してイザベラの技術が褒められたわけで、それはとても嬉しいことなのだが、いったい誰が依頼をしたのか聞きたくなった。


聞いたとて、まったく知らない人であるのだが、名前ぐらいは知っておきたい。


「あの・・・、あたしに依頼をしたのは、どこの誰なんですか?」


「王太子殿下の側妃であられるルーメリア様です。」


「えっ? そ、側妃・・・様ですか?」


イザベラは驚きのあまり、しばらく開いた口が塞がらなかった。


側妃と言えば、王子様の寵愛を自分に向けさせようと、ありとあらゆる手を使って王子様を誘惑するんじゃないの? 


ドレスも最新流行のデザインにして、宝石いっぱい散りばめて、自分の魅力を最大限に引き出そうと努力するんじゃないの? 


七年前、側妃になって王子の寵愛を独り占めにするわ!なんて言ってた自分を思い出し、あまりのギャップに呆然とする。


こんな古臭いドレスを本当に着ているの?って、着ているから破れるんだけど・・・。


製作部長は、それ以上は聞くなという目でイザベラを見たので、イザベラはドレスを受け取り自分の場所へと戻って行った。


ここは頼みの綱のナタリーの出番である。


「ねえ、ナタリー、側妃のルーメリア様ってどんな人?」


「あら、ドレスの持ち主の名前を聞いたのね。私も三ヶ月前に入ったばかりだから詳しいことは知らないけど、三年前に側妃になった元王女様らしいわよ。」


「元王女様? そんな人が何で?」


「すっごく貧乏なんだって。王妃様も第一側妃様もご実家がお金持ちだから、ドレスの直しをここに出したことはないのよ。だけど第二側妃様はお金がないから、ここでただで直してもらってるんだって。」


イザベラはまだ会ったことがない第二側妃のことが、なんだか気の毒になった。


本人の知らない所で、こんな風に陰口をたたかれて、平民の使用人にもバカにされている・・・。


お金がないって、なんて悲しいことなのだろう・・・。


イザベラは、モスグリーンのドレスの直しも丁寧に縫い直した。


質素で飾り気のないデザインのドレスを可愛らしく見せるために、袖と胸元にレースのフリルを付けた。


この部署の布倉庫に置かれている布は、種類が豊富で本当に助かる。


その二日後、イザベラは製作部長に呼ばれた。


「イザベラさん、あなたにお客様がいらっしゃいました。隣の応接室で待っていらっしゃいますから、今すぐに会いに行ってください。」



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