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もふもふの人間兵器?にされてしまった悪役令嬢ですが、冷酷非道侯爵様に溺愛されています  作者: 矢間カオル


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78話外伝 悪女イザベラ、側妃への道3

イザベラの目の前に建つ宮殿は、規模は小さいと言えども、屋根と入り口の大きなドアには立派な装飾が施されており、とりわけ壁の装飾は荘厳で、王家の紋章と共に精巧な鷲の彫刻が施されていた。


「俺にもいろいろあってな。六年前に陛下からここに住むように言われたんだ。」


王城の敷地内には主要宮殿の他にもいろいろ宮殿が建てられているが、全てに主人が住んでいるわけではない。


ジオルグは、百年ほど前に第五王子のために建てられ、長い間主人不在であった鷲宮と呼ばれる宮殿を住まいとして与えられていたのである。


驚いてしばし言葉を失い、呆然と鷲宮を眺めていたイザベラであったが、ジオルグとは別の男の声に我に返った。


「ご主人様、お嬢様、お帰りなさいませ。」


声をかけてきたのは、きりりとした姿勢の品の良い白髪の老紳士で、この屋敷の執事だと名乗った。


「ちょ、ちょっと、ジオルグ、あんた、本当に貴族なんだね。驚いたよ。」


「だから言っただろ。これからのんびり貴族令嬢として暮らせば良いって・・・。」


「あれって・・・、本当のことだったんだね。」


執事は二人がひそひそと話をしている間、沈黙して待っていたが、イザベラが話し終わったのを機に、二人を屋敷内の応接室に案内した。


ふかふかのソファに座ってしばらくすると、メイドがお茶とお菓子を運んできた。


メイドが慣れた手つきでティーカップにお茶を注いで二人の目の前に置くと、お茶の良い香りがふんわりと鼻の辺りに漂って来る。


「ご主人様、お嬢様、本日の茶葉はメルキス産のレブラでございます。どうぞ温かいうちにお召し上がりくださいませ。」


イザベラは、四年間貴族として暮らした経験はあるが、その後七年間も刑務所暮らしをしていたからか、どうもさっきから体がムズムズして落ち着かない。


立派な宮殿も、礼儀正しい使用人も、自分には合わない・・・、そんな気がしてならない。


イザベラは、縋るような目でジオルグを見た。


「ねえ、ジオルグ・・・じゃなかった、お父様、あたし・・・、ここに住みたくない!」


「えっ? な、何故?」


ジオルグは、ここに住みたくないと言うイザベラに、目を丸くして驚いた。


「お前・・・、いい暮らしがしたかったんじゃなかったのか?」


「それはそうだけど・・・」


イザベラは、七年間ずっと修行を積んだ裁縫の技術で生きて行こうと計画を立てていた。


だが、ここに住んでいたら、あっという間に身につけた技術を忘れてしまう・・・。


「あたしは、せっかく身につけた裁縫の技術を失いたくないんだ。どんなにいい暮らしをしていても、いつ追い出されるかわかんないだろ? だけど、技術を身につけていれば、どこでだって生きていける。」


「城の裁縫部門に就職したら、ここから通えば良いじゃないか?」


「だめだよ。こんな宮殿に住んでいるのにお針子なんてしていたら、いろいろ聞かれてめんどくさくなる。ジオルグ、使用人の寮みたいなのがあるだろ? あたしはそこに住みたい。その方が友達だってできるし・・・」


友達ができる・・・、その言葉にジオルグは揺れた。


孤児院時代も伯爵令嬢時代も、まともな友達がいなかったイザベラに、やっと心を割って話せる友達ができたのは、女子刑務所の中だった。


一緒にドレスの直しの内職をしながら、お互いに髪結いの練習台になりながら、話に花を咲かせたことが楽しかったのだろう。


イザベラの努力の結果の模範囚だったからこそ、許された時間だった。


そのことを考えると、ジオルグは反対などできなかった。


「わかった。使用人の寮に入る手続きをしてやるよ。」


「ほんと? ありがとう。じゃあ、今すぐ行こうよ。今日からそこで寝泊りするからさ。そうだ、私のこと、貴族令嬢じゃなくて平民ってことにしてね。」


平民扱いを望むイザベラのために、使用人たちにイザベラのことは他言無用だと念押しし、ジオルグはイザベラに押されるようにして鷲宮から使用人の寮に移動した。


鷲宮でイザベラが暮らせるようにと用意した部屋は無駄になってしまったが、これもイザベラの望みなら仕方がないと諦めた。




本来、王城内に就職する場合、身元がしっかりしているか調べられた上で、厳しい面接を経て採用される。


だが、ジオルグは国王陛下の信頼が厚く、王太子エイダンの専属相談役という役職に就いている。


この立場を利用すれば、裁縫部門のお針子程度なら、ジオルグの一声で簡単に就職できるのである。


それは使用人の寮に関しても同じこと。


ジオルグの口利きで、イザベラはすんなり裁縫部門に就職し、刑務所を出る際に持って来た重いカバンをそのまま引きずって使用人寮に入寮した。


部屋は二人部屋で、仕事が終わって戻って来た同室の女性はナタリーと名乗った。


くりっと丸く茶色い瞳が可愛らしい茶髪の若い娘で、偶然にもイザベラが就職した裁縫部門で働いていると言う。


初めて会ったイザベラに、臆することもなく明るく話すナタリーのお陰で、これからの寮生活も楽しく過ごせそうな気がする。


イザベラは寮内の食堂で夕食を済ませた後はぐっすり眠り、翌日から裁縫部門のお針子としての仕事が始まった。


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