77話外伝 悪女イザベラ、側妃への道2
「うーん・・・。」
養女にならないかと再度聞かれたイザベラは、少し考えを巡らせてから、にっこりと微笑んでジオルグを見た。
「なるよ。養女になってあげる。あたしね。裁縫の勉強したんだよ。先生にも筋がいいって褒められたんだ。ちゃんと働いて、あんたが爺さんになったら、あたしが養ってあげるよ。あははっ。」
未来を語るイザベラは、とても楽しそうだ。
「あたしさ、ランベルジオスに行ったら裁縫の仕事したいんだけど、仕事を紹介してくれる?」
「ああ、望むならいくらでも紹介してやるぞ。王城内にも裁縫部門があるしな。」
「王城内? お給金良さそうだね。あんたの養女になって、そこでお針子になるよ。」
「よし、決まりだな。じゃあ役所に行くぞ」
馬車は王都内の役所に向かった。
役所の中に入ると、ジオルグはカバンから一枚の書類を取り出した。
「イザベラ、ここにサインするんだ。」
「はいはい。」
イザベラが言われた通りサインをすると、ジオルグもサインをして、役所の職員に書類を見せながら何やら話していたが、しばらくすると、養子縁組成立証明書なるものが職員から手渡された。
「あれ?貴族の養子縁組って、こんなに簡単にできるの?」
「まあ、普通は一ヶ月以上かかるんだがな。」
ジオルグは情報網を使って、事前にイザベラの出所日をチェックしていた。
出所日が決定したことがわかると、すぐにオスカーに手紙を出した。
あの日別れて以来、七年ぶりの関わりである。
イザベラを養女にしたいので、一日で手続きを済ませたいという無茶振りの内容だった。
ダメ元で書いた要望であったが、オスカーからすぐに返事が届いた。
国王陛下の許可、ならびにその他煩雑な手続きは全てこちらでやっておくから、この用紙に二人のサインをして役所に提出するようにと書かれていた。
提出した日に養子縁組成立の証明書も出してもらえるように手配しておくとも書かれていて、オスカーの抜かりのなさがよく現れている。
さすがオスカー、仕事が速い!とジオルグが感心したのは言うまでもない。
オスカーの簡潔な手紙の下に、もう一枚の手紙があった。
こちらはオフィーリアが書いた手紙で、七年の間に男女二人の子どもに恵まれて、とても幸せに暮らしていると、ジオルグへの感謝の言葉とともに綴られていた。
薬の影響を心配していたジオルグにとって、ほっとさせる内容であった。
「まあ、これで俺たちは正式な親子になったというわけだ。呼び方も考えないといけないな。」
「あはは、お父さん? それともパパがいい?」
「貴族なんだから、お父様だろ? お・と・う・さ・ま!」
「はははっ、まったく・・・、わかったよ。お・と・う・さ・ま!」
イザベラは言いながらゲラゲラと笑った。
「じゃ、ランベルジオスに行くとするか。」
二人を乗せた馬車は隣国ランベルジオスに向かって走り出した。
「ところでさ、あの鉱山、どうなったんだい?」
馬車に揺られている間、静かにしていたイザベラがふと思い出したように尋ねた。
「ああ、今はキャスレル商会の会長のものになっている。お前のお陰だ。ありがとうな。」
「そう、良かった。あたしの働きはちゃんと役に立ったんだね。捕まっちゃったからさ、どうなったかわからなくて心配していたんだよ。」
「バルマン国王も、良い鉱山が手に入ったと喜んでいる。」
ランベルジオスの国王バルマンは、アデルバード王国の良質な鉄鉱石がとれる鉱山を欲していた。
そこでジオルグはホワイト伯爵が所有していた鉱山に目を付け、それを手に入れるために、イザベラにホワイト伯爵の息子であるブランを誘惑させた。
当時、ブランにはオフィーリアという婚約者がいたのだが、イザベラはその使命のために、オフィーリアからブランを奪った・・・と言うのが表向きの話であるのだが、ジオルグにとって真の目的は違っていた。
ホワイト伯爵所有の鉱山で、偶然見つけた青い石。
それは人の心を自由に操ることができる石だった。
この七年間、誰にも言わずに一人で探索を続けたが、結局見つけることはできなかった。
やはり空から落ちてきたのだろうというのが、今のジオルグの見解である。
青い石は見つからなかったが、かえってその方が良かったのだろうと、ジオルグは思っている。
あんな危険な石が悪巧みに使われたら、平和がたちどころに崩壊してしまう。
だから、この世に存在しない方が良いのだ。
馬車に乗っている長い時間、イザベラは刑務所時代の話を面白可笑しくジオルグに語った。
模範囚であったイザベラは、ドレスの直しの内職をしたり、髪結いの練習をする中で、同じ模範囚の気の合う友人もできたらしい。
刑務所内が案外暮らしやすかったと聞き、ジオルグは胸のつかえが取れたような気がした。
五日目の昼に、ランベルジオスの王都についた。
馬車はそのまま王城の門をくぐる。
「ちょ、ちょっと、ジオルグ、何でお城の中に入るんだい?」
「ははっ、驚いたか? 実は俺の家は王城の敷地内にあるんだ。今日からお前は、王城暮らしだぞ。」
馬車は、王宮、側妃宮、王太子宮の前を通り、さらに奥にある小さな宮殿の前で止まった。
「さあ、着いた。ここが俺の住まいだ。」
馬車から降りたイザベラは、目の前の宮殿を見て目をぱちくりする。
「ちょ、ちょっと・・・、冗談だろ? これって小さいけど王宮と同じじゃないか・・・」




