76話外伝 悪女イザベラ、側妃への道1
いつも読んでくださいましてありがとうございます。最終話をかき終わりましたが、外伝「悪女イザベラ、側妃への道」を投稿します。本外伝の主人公は題名でもわかる通り、悪女イザベラです。本作の中では、ヒロインオフィーリアの婚約者を奪い、殺人まで犯す悪女なのですが、彼女の人生を顧みると、実に凄絶な人生を歩んでいるんですよね。一生懸命に生きているのに、何故かいつも貧乏くじを引かされている・・・、そんな彼女を描いていると、人生をやり直せるんだったら、幸せになって欲しいと、思わずにはいられなくなりました。彼女の夢は側妃になること。だったら、その夢に向かって頑張ってもらいたい。そういう思いで外伝を書きました。読む人に楽しんでいただけたら幸いです。きっとイザベラも「ふん、あたしの人生の何がそんなに面白いのさ?」と言いながら喜ぶはず・・・。
本外伝は、アルファポリスさんと、カクヨムさんに、すでに投稿済みの作品です。
「イザベラ、あなたの出所日が正式に決定しました。今から一ケ月後です。」
女子刑務所の看守が、イザベラに報告に来た。
イザベラが、ブランの殺害と王太子殺害未遂で捕まってから、七年の歳月が流れていた。
刑務所内では貴族令嬢のような暮らしができるはずもなく、長年手入れをしていない波打つブロンドの髪は、艶が衰え以前のような輝きは見られない。
しかし、規則正しい生活と食事のお陰で、化粧をしてない肌は荒れることがなく、彼女の自慢のアメジスト色に輝く瞳も、美しい目鼻立ちもそのままで、とても二十五歳とは思えない若々しさを保っていた。
「看守、本当ですか? ありがとうございます。」
「ふふっ、私に礼を言う必要はないわ。あなたがここで真面目に勤め上げた結果よ。思ったよりも早く出所できて良かったわね。おめでとう。」
少しふっくらとした体形の看守は、優し気な目でイザベラににこりと微笑んだ。
七年間、ずっとイザベラを見てきた彼女は、イザベラに好意的である。
入所して初めの頃は、貴族のお嬢様が刑務所暮らしに耐えられるのかしら?と疑問に思っていたのだが、イザベラは溝を流れる水のようにすぐに順応し、文句も愚痴も一切言うことはなく、出所後の生活も見据えたうえで、真剣に裁縫の勉強を続けた。
慣れてくると髪結いの練習まで始めたのだから、出所後はきっと生活に困ることはないだろう。
イザベラが言うには、孤児院にいた頃に比べたら、ここは天国みたいで、とても暮らしやすいのだそうだ。
刑務所で過ごす間、ドレスの直しの内職を積極的に引き受け、出所後の生活資金もそれなりに貯まった。
イザベラは、もうすぐ始まる新生活に不安などなく、ワクワクしていた。
自分を虐待していた院長はいない。
無理して貴族のまねごとをする必要もない。
愛していると言いながら、暴力を振るう男もいない。
「これからは自分の魅力を最大限に活かして、好き勝手に生きていくわ。」
どこまでも遠く広がる青空を、刑務所の窓から眺めながらそう呟いた。
本来、王族殺害に関しては、たとえ未遂であっても、即座に極刑が決まる。
イザベラの場合も例外ではなく、裁判に掛けられることなく絞首刑に処されるはずであった。
しかし、被害者である王太子セオドアが反対した。
「ブランが差し出す怪しい酒など、俺は絶対に飲まない。それなのに、被害者だとか未遂だとか思われるなんて心外だ。それに加えて、せっかく俺がブランの酒を取り上げたのに、それを奪って飲んだのはブラン自身だ。ブランが死んだのは自業自得であろう。」
国王グレゴリーは、セオドアの証言を後押しした。
この二人の意を汲み、イザベラは絞首刑を免れたのである。
出所日、当面の生活ができる金銭と衣服を入れた重いカバンを引っ提げて、看守たちに別れの挨拶をすると、一番世話になった看守が「あなたを迎えに来た人がいるのよ。」と教えてくれた。
誰も迎えに来るはずがないと思っていたのに、はて・・・、だれだろう?
天涯孤独の身の上で、思い当たる人間はいない。
女子刑務所の門をくぐって外に出て見たら、一目でそれが誰だかわかった。
「ジ、ジ、ジオルグ?!」
「やあ、久しぶりだな。見た感じ、元気そうで良かった・・・。」
七年分おじさん化が進んだジオルグは、若干顔にシワが増えたようだが、少し癖のある茶色い髪も、髪よりも濃い茶色の瞳もそのままで、なんだか昔よりも余裕がある感じがする。
「あんたも元気だった?」
「ああ、いろいろあったが、俺は元気だったよ。」
「そう。良かった・・・。」
「積もる話がいろいろあるんだ。馬車を用意している。乗ってくれ。」
「ああ、わかったよ。乗ってあげるよ。ふふっ」
ジオルグは、イザベラの重いカバンを代わりに持ち、まるで貴族令嬢をエスコートするような仕草でイザベラを馬車に乗せた。
馬車は街道をゆっくりと移動し始めた。
「ところでジオルグ、どこに行くんだい?」
十一年前、ウッド伯爵の養女となったイザベラは、貴族令嬢になりきるために一生懸命に話し方の練習をしたのだが、今ではすっかり元の話し方に戻っている。
こっちの方が生き生きしている・・・とジオルグは思う。
「ランベルジオスだが、それは、お前の出方次第だ。まず一つ。イザベラ、俺の養女にならないか?」
「えっ?よっ、養女?」
「そうだ父と娘になるんだ。」
「ははっ、プロポーズじゃなくて・・・養女だって?」
イザベラは、可笑しくてたまらないと言う顔をする。
「お前、プロポーズだなんてよく言うな。俺を何歳だと思ってるんだ? もうすぐ四十歳だぞ!それにお前、俺のことをそんな対象に考えたことがないだろう?」
「あはは、そうだね。考えたことないわ。あたしの目標は王太子の側妃だったしね。」
「ああ。そうだったな。残念ながらその夢は泡と消えてしまったが・・・」
イザベラが女子刑務所に服役している間に、独身だった王太子エイダンは正妃を迎え、さらに側妃二人と婚姻を結んだ。
今では王子二人と王女一人の父親となり、今更イザベラが側妃になる余地はなく、仮にあったとしても、前科のあるイザベラには到底かなわぬ夢となった。
ジオルグの表情に、罪悪感がにじみ出る。
「すまなかった・・・。」
突如、ジオルグが頭を下げた。
「えっ?いったい何?」
イザベラは、訳がわからずキョトンとした顔をする。
「ブランに暴力を受けてたんだってな。そうとは知らずに、ブランの恋人役を押し付けてしまった。本当にすまなかった・・・。」
「ああ、そのこと? だって付き合ってみないとわかんないしね。」
ブランは愛する女に暴力を振るう性癖を持っていた。
イザベラと愛し合うようになると、なんだかんだと理由をつけては殴る蹴るの暴力を振るった。
女子刑務所に入所する際の身体検査で、おびただしい数の痣と傷が、身体のあちこちに見つかったと報告されている。
つねられた痕、引っかかれた傷痕なども含めると、数えきれないほどだったと言う。
本来のイザベラなら、ブランが暴力を振るうとわかった時点で別れたことだろう。
だが彼女には、鉱山を手に入れるまではブランの恋人であり続けねばならないという使命があった。
だからブランの暴力に耐え、殴られても愛していると言い続けたのだ。
その態度がブランの性癖を開花させ、助長させてしまったのだろう。
「俺の養女になれば、楽させてやる。貴族令嬢としてのんびりと暮らせばいい。」
「ちょっと待って、あんたが貴族だって? 何それ?」
「ははっ、いろいろあってな。今じゃ俺は男爵なんだぞ。アデルバードでは、マティアス・ルード男爵で、ランベルジオスではジオルグ・ルード男爵だ。」
「なんかよくわかんないけど、貧乏貴族なんていくらでもいるもんね。」
イザベラは、ジオルグが男爵位だけを手に入れた貧乏貴族だと思っているらしい。
「まったく・・・、お前にとって俺の印象っていったいどうなってるんだか・・・。で、どうするんだ?俺の養女になるのか?」




