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もふもふの人間兵器?にされてしまった悪役令嬢ですが、冷酷非道侯爵様に溺愛されています  作者: 矢間カオル


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73話

ニヤリと笑いながら発するセオドアの言葉に、ケイモスはドキリとして飛び上がりそうになった。


ま、まだ何かあるのか?


殿下の顔を見ていると、とても良いことを言われるとは思えない・・・。


ケイモスの心臓が、ドキドキと飛び出しそうな早鐘を打つ。


「ベイル伯爵、あなたがオフィーリア嬢にしたことは、親としても、貴族としても、あるまじき行為だと思っている。そのような者が、臣下だと思うと、実に情けない。よって、私はベイル伯爵並びに伯爵婦人と、今後一切の関わりを断とうと思う。ちなみに、この決定は、国王陛下も賛同しておられる。これが、どういう意味かわかっているな?」


「えっ、ええ、・・・そ、そんな・・・」


「あ、あなた・・・」


ケイモスとミラは言葉をなくし、ぐったりとその場にしゃがみこんだ。


「アレックス近衛騎士団長。」


「はい、およびでございますか?」


護衛騎士として、その場にいたアレックスが一歩前に出た。


「王室と関りを断った伯爵夫妻が、王太子主催の舞踏会に出ているなんておかしいと思わないか?」


「その通りでございます。」


「ふむ、ではこの二人を、迷わぬように出口まで案内してもらいたい。」


「はっ、かしこまりましてございます。」


「・・・ううっ・・・オ、オフィーリア、た、頼む、許してくれぇ・・・」


ケイモスはオフィーリアに手を伸ばしたが、オフィーリアは無言で動じず、冷たい視線をケイモスに送るだけだった。


「ベイル伯爵、往生際が悪いですよ。さあ、お二人とも立ち上がってください。」


アレックスの言葉に、ケイモスとミラは、反抗することもできず、渋々アレックスに促されて会場から出ていった。


意気消沈しているが、どこかまだ納得ができない顔をしているケイモスに、アレックスは、ぼそっと呟いた。


「追い出せと言われなかっただけでも、まだましだと思うぞ。殿下の慈悲に感謝するんだな・・・」


ケイモスとミラは、ようやく諦めたのか、ちょこんと頭を下げるとアレックスに背を向けて、とぼとぼと舞踏会会場から離れていった。


二人が会場から出て行ったことを見届けると、セオドアは、雰囲気を変え、明るい声と表情で皆に告げる。


「さあ、皆の者、私が皆に発表したいことは、もう終わったのだ。これからは、舞踏会で大いに楽しもうではないか。」


セオドアが片手を上げると、楽団が奏でる音楽が会場に響き渡った。


一瞬で会場の空気が変わった。


「さあ、皆の者、踊りたまえ。」


その言葉を合図に、会場にいる人々は、それぞれのパートナーと一緒に踊り始めた。


パートナーのいない令嬢は、セオドアが誰に声をかけるのか一心に見つめている。


オフィーリアとオスカーは、本来なら最後まで舞踏会に参加して、二人で何度も踊る予定であったが、スカーレットのことが気になるので、舞踏会を辞退することにした。


「殿下、申し訳ございませんが、義妹が心配なので、退場することをお許しくださいませ。」


「そうだな。あんなことがあったのだ。スカーレット嬢のそばにいてあげなさい。」


オフィーリアとオスカーは臣下の礼をとると、速やかに退場し、スカーレットとマリーがいる控室へと急いだ。


控室のドアをノックすると、マリーが人差し指を唇に立て、中から出てきた。


「よほどお疲れだったようで、目元の化粧を直すから目を瞑ってくださいとお願いしたら、化粧をしているうちに、そのまま眠ってしまわれました。」


オフィーリアとオスカーが音を立てないようにそっと中に入ると、スカーレットはソファで、こくりこくりと舟をこいでいた。


見ると、既に化粧直しはきれいに終わっていて、いつもの可愛らしい姿にもどっていたが、本人はまったく起きる様子もなく、ぐっすりと眠っている。


「そうか・・・ならば、このまま屋敷に連れて帰ろう。」


オスカーがスカーレットをそっと抱き上げた。


「オスカー様、ありがとうございます。さあ、マリー、一緒に帰りましょう。」


四人は馬車に乗り込み、スカーレットをマリーの隣に座らせたが、スカーレットが目を覚ますことはなかった。


「よほど疲れていたのだな。」


「そうですね。あんなに激しく泣いたのですもの。今日はゆっくりと眠らせてあげましょう。」


オスカーとその隣に座っているオフィーリアは、すやすやと寝息を立てているスカーレットを慈しむ目で見ていた。


馬車がしばらく進むと、オスカーはオフィーリアの頬に手をあて、そっと撫でながら彼女を見つめた。


「・・・オスカー様?」


「痛みはどうだ? まだ痛むか? 頬が打たれたとき、すぐさまあいつの腕をへし折ろうと思ったんだ。だが、オフィーリアが一人で戦っているのだから、俺はじっと我慢した。」


「オスカー様・・・」


「オフィーリア、よく頑張ったな。よく一人で頑張った・・・偉かったぞ。」


「オ、オスカー様・・・ありがとうございます。」


オスカー様は、いつも私が欲しい言葉をくれる・・・。


泣いてすがる父親を、私はバッサリと切り捨てた。


あんなに冷たい態度で切り捨てたけど、誰かによくやったと褒めて欲しかった・・・。


オスカー様の言葉が、とても嬉しい・・・。


オフィーリアの目から涙がほろりと零れた。


向かいに座っていたマリーが、素早くハンカチを取り出してオフィーリアに渡す。


「奥様は、とてもカッコ良かったですよ。私は長い間勤めてきましたが、奥様が、旦那様にあんなにはっきりと自分の気持ちをお伝えするところを初めて見ました。きっとものすごく勇気が必要だったでしょうに・・・」


「マリーもありがとう。」


オフィーリアは、渡されたハンカチで目元を押さえた。


「本当はすごく怖かったのです。お父様に、今まで面と向かって反抗したことはありませんでしたから・・・。」


思い出してみても、今までオフィーリアがケイモスに強く反抗したことはなかった。


ケイモスの意に沿わぬことをしたことと言えば、町に出かけることぐらいであったが、これも、ミラがケイモスに勧めてくれたからこそできたことであって、もし、ミラまで反対していたら、何も言えずに、ケイモスの言いなりになっていただろう。


それだけ、ケイモスに面と向かって反抗することは、オフィーリアにとって、とても勇気がいることだったのである。


「あれだけのことができたのは、オスカー様と殿下に支えてもらったおかげです。今日のために、お二人には本当にお世話になりました。オスカー様、ありがとうございました。」


オフィーリアは、にっこりとオスカーに微笑んだ。


微笑みを向けられたオスカーの顔が、ポッと赤くなる。


「あ、ああ、今度、殿下にもお礼を言いに行こう。」


「はい。」


オスカーはスカーレットの頭を大きな手でそっと撫でた。


マリーはそんな二人の様子を、温かい目で見ていた。




ルイス侯爵邸に戻ると、オスカーがスカーレットを抱き上げ、来客用の寝室に運び、そこからはオフィーリアとマリーの二人がかりで窮屈なドレスとコルセットを脱がせた。


かなりスカーレットの身体を動かしたわけだが、スカーレットは目を覚ますことはなく、時折、「・・・お姉さま・・・ごめんなさい・・・」と寝言を言うのが聞こえた。


疲れ切って、ぐっすりと眠っている義妹の頭を撫でながら、オフィーリアは囁く。


「スカーレット、ゆっくりとおやすみなさい・・・」




翌朝、スカーレットが目を覚ますと、見たことがない天井が目に入り、驚いて飛び起きたのだが、ベッドの横で椅子に座っているオフィーリアを見て、ほっとした表情に変わる。


「スカーレット、おはよう。」


「お姉さま、おはようございます。私、眠ってしまったのですね。ここは?」


「ルイス侯爵家よ。私が住んでいるお屋敷よ。」


「そうなんですね。お姉さまはルイス侯爵様と、ご結婚なさったんですね。改めて、おめでとうございます。」


姉妹の会話は、今までのようなギスギスしたものは全くなく、まるで憑き物が取れたような、穏やかなごく普通の会話になっていた。




朝食後、オフィーリアは、五歳のスカーレットの身に、何が起こったのか尋ねた。


スカーレットは思い出しながら、ぽつぽつと語り始めた。

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